『約ネバ』と『カイジ』の共通点とは? 『約束のネバーランド』18巻に見る、ゼロサムゲームの世界観
あまりに出水ぽすかの絵が流麗であるため、ファンタジーバトルアクションとしても見応えのある漫画となっている『約ネバ』だが、根底にあるのは無力な子どもたちが大人や鬼といった力では敵わない存在に「知恵」で立ち向かう心理サスペンスとしての面白さだ。その意味で『カイジ』(講談社)シリーズ等のギャンブルを題材にした福本伸行の漫画に近い。余談だが、エマが孤児院を逃げ出すために(発振器の埋め込まれた)耳を切り落とす場面は『カイジ』にも似たシーンがあるため、おそらくオマージュなのだろう。
つまり、根底にあるのはゲーム的な心理戦なのだが、そこでゲーム理論における「囚人のジレンマ」や倫理学における「トロッコ問題」が物語のテーマとして立ち現れるのが『カイジ』以降のゲームバトル漫画の面白さだ。
こういったゲームバトルは90年代以降の日本で広がったものだが、これはアイデアの面白さもさることながら、富は有限で「誰かが利益を得れば誰かが何かを失う」ため、パイを奪い合うしかないゼロサムゲームの世界観が、バブル崩壊以降の不況が続く日本でマッチしたからだろう。
このシビアな世界観は、少年漫画では冨樫義博の『HUNTER×HUNTER』(集英社)や荒川弘の『鋼の錬金術師』(スクウェア・エニックス)にも反映されており、『約ネバ』では鬼と人間の関係に強く現れている。
もちろん『約ネバ』も含めたこれらの少年漫画は、ゼロサムゲームを肯定するものではなく、いかに乗り越えるかが課題となっており、現状追認ではなく、理不尽な選択を強いる世界を乗り込えて、いかにしてゲームを終わらせるかが目的となる。第18巻におけるエマとノーマンの対話に、それは強く現れている。
対して、欲望のままに人と鬼を食らってきたことで細胞が暴走し自滅してしまうイヴェルクの最期は、本作のテーマを、裏側から絵解きした場面だと言える。富を独占し、弱者を犠牲にしてきた者の悲しい末路だと言えよう。
■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。
■書籍情報
『約束のネバーランド』18巻(ジャンプコミックス)
原作:白井カイウ
作画:出水ぽすか
出版社:株式会社 集英社
価格:本体440円+税
公式サイト:https://www.shonenjump.com/j/rensai/neverland.html