直木賞『熱源』・芥川賞『背高泡立草』がワンツーフィニッシュ 文芸書週間ランキングを考察

週間ベストセラー【単行本 文芸書ランキング】(2月12日トーハン調べ)
1位『熱源』川越宗一 文藝春秋
2位『背高泡立草』古川真人 集英社
3位『むかしむかしあるところに、死体がありました。』青柳碧人 双葉社
4位『店長がバカすぎて』早見和真 角川春樹事務所
5位『medium 霊媒探偵城塚翡翠』相沢沙呼 講談社
6位『清明 隠蔽捜査(8)』今野敏 新潮社
7位『ライオンのおやつ』小川糸 ポプラ社
8位『イマジン?』有川ひろ 幻冬舎
9位『ノースライト』横山秀夫 新潮社
10位『流浪の月』凪良ゆう 東京創元社

 やはり芥川賞・直木賞は強い。2月の文芸書トーハンランキングは、1月に発表された第162回受賞作が1位と2位に名を連ねる形となった。

 1位は直木賞受賞作。デビュー2作目にして初ノミネートとなった川越宗氏一の『熱源』。山田風太郎賞と大藪春彦賞の候補作にもあがっており、第9回「本屋が選ぶ時代小説大賞」受賞作でもあることから、プロアマ問わず、すでに多くの読み手から期待と評価を集めている書き手だということがわかる。

 『熱源』は、日本に強制移住させられた樺太アイヌと、ロシア帝国との併合によって母国語を話すことさえ禁じられたポーランド人、二人の主人公によって織りなされる物語。どちらも強制的な同化により、故郷を失い、アイデンティティも歪められていく。やがて樺太で二人が出会い、時代の流れに唯々諾々と呑まれるだけが運命ではなく、道は自分の手で選びとるものなのだと熱を帯びる場面には胸を打たれる。強烈な同化を望むのは根っこにおそれがあるからだろう。自分たちとは“ちがう”ものは、いつか自分たちに牙を剥くのではないかという恐怖。多様化を謳いながら選択の自由に及び腰な現代社会を生きる我々にも、他人事ではない。

 2位『背高泡立草』は芥川賞受賞作。著者の古川真人氏は、デビュー作『縫わなばならん』以降4度目のノミネートの末、受賞となった。舞台は、長崎の島に家をもつ吉川家。島には〈古か家〉と〈新しい方の家〉がありどちらも空き家なのだが、年に数度、納屋の草刈りをするため島に集まる古川家の人々の一日を同作では描き出す。現代と過去が交錯しながら語られていく島と家の歴史。放っておくと伸びた草に埋もれていく島は、時代の変動に翻弄された樺太と対照的にも思えるが、連綿と紡がれていく歴史があって今があり、語られるべき何かがある、という点では通じる部分があるように思う。対比的に読んでみるのも、おもしろいかもしれない。

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