舞城王太郎×奥西チエの王道グルメ漫画『月夜のグルメ』はいかにして誕生した? 奥西チエが語る、独自の漫画表現と東京の食文化

モデルになっているお店を探し出してほしい

ーーどのような経緯でグルメ漫画にたどり着いたのか、奥西さんのキャリアについても教えてください。

奥西:昔から漫画を描くのが好きで、10代の頃から「これで食べていけたら最高だな」と思っていました。21~22歳の頃に漫画家を目指して上京して、高橋しん先生や信濃川日出雄先生のアシスタントをしてきました。アシスタント時代はなかなか自分の漫画を描く機会がなかったんですけれど、あるきっかけで原作付きの読み切りを描かせていただいて、それがグルメ漫画だったんです。そこからキャラクターとの距離の取り方がだんだん掴めてきて、その後の『玉子の毎週BBQ!』というバーベキュー漫画に繋がりました。信濃川先生は以前、『ヴィルトゥス』という古代ローマを舞台にしたバトル漫画を手がけていて、その時に筋肉とか飛び散った内臓とかのトーン貼りなどを担当していたんですけれど、その経験はバーベキュー漫画のお肉の表現にすごく役立ちました(笑)。食事は命をいただくということなので、そういう部分では似ている部分があったのかもしれません。

ーー高橋先生ゆずりの繊細さと信濃川先生から学んだ生々しさが組み合って、舞城先生の原案が付いたら『月夜のグルメ』になったというのは、意外ですが納得感があります。特にやきとんの描写がリアルで美味しそうだと感じていました。ちなみに、ご自身は1人で飲みに行ったりしますか。

奥西:この漫画がきっかけで行くようになりました。以前はファーストフードとか牛丼屋さんとかに行くのが精一杯だったんですけれど、実際に美味しいお店に1人で行ってみたら、きちんと食べ物に向き合える感じがして、意外と良いものだなと思うようになりました。人と一緒に食べるのは楽しいけれど、会話に夢中で案外、食べ物の味を忘れちゃったりするんですよね。1人で食べると「この料理にはこんな工夫が凝らされていたんだ」って気づくことも多いです。そういう時間もたまには大事というか、食に対する新たな価値観を見つけることができるという意味でも、豊かな体験だなと思います。

ーーモデルにしたお店の中で印象に残ったところはありますか。

奥西:六本木の美術館の帰りに行ったイタリアンのお店は、本当にすごく美味しくて感激しました。漫画の中で店名は出していないけれど、街の描写とか入口の感じとかでヒントは出しているので、ぜひ探し出してほしいです。あと、1人でスーパー銭湯に行ってご飯を食べて帰ってくるのも新鮮な体験でした(笑)。ちょっとした小旅行気分を味わえるので、ぜひ女性にも試してもらいたいなと思います。お風呂上がりというのもリラックスできて最高です。編集部の方と一緒に取材に行く時は、一度に2~3軒を回ることもあるから大変なんですけれど、実際に食べると食感とかがリアルな絵を描くヒントになったりもします。

ーーこの漫画を読んでいると、東京の食文化は本当に豊かだということに改めて気づかされます。東京ならではの料理、地方の料理、世界の料理、どれをとっても名店と呼ばれるお店があって、世界一の食の都なのではないかとさえ思います。

奥西:私自身、漫画を描いていて「東京にはこんなに多種多様なお店があったんだ」と驚いています。食は欲望に忠実というか、みんなが毎日経験していることで、すごく共感しやすいし、追体験もしやすいと思います。東京はおっしゃるように何でもある街なので、朔良の体験は比較的簡単になぞることができるはず。仕事帰りに読んで、「ちょっと小腹が空いたな」って、朔良みたいに深夜の冒険に出かけてもらえたら嬉しいです。

■漫画情報
『月夜のグルメ』
1〜2巻発売中/『週刊SPA!』で連載中
原案:舞城王太郎
漫画:奥西チエ
価格:1200円+税
出版社:扶桑社

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