名物書店員がすすめる「“今”注目の新人作家」第2回:『犬のかたちをしているもの』『タイガー理髪店心中』『箱とキツネと、パイナップル』

これって果たしてミステリー? 『箱とキツネと、パイナップル』

 村木美涼『箱とキツネと、パイナップル』(新潮社)の帯にあるコピー「これって果たしてミステリー?(新潮ミステリー大賞)選考委員激論!」に、まさかなと思いながら読み進める。

 大学を卒業し、ショッピングモールのスポーツ用品店に就職した坂出が、通勤のために新しく引っ越したアパート「カスミ荘」。ここには訳ありの銀行員、謎めいた若い女性や家族、引きこもりの男性など少し不思議な住人達が暮らしている。かなりの頻度で大家からは住人同士の友好を願うメールが送られて来て、しかも狐が時折現れる……。と書けば、なかなか不穏な匂いがしてくるだろう。

 住人達の関わり合い方がとにかく変に、密だ。坂出の部屋に急に上がりこんできたり、バーベキューパーティを突然開催したり、「謎」らしき出来事を解決したり。そんな住人達の行動によって、物語は少しづつ方向がずれていく。確かに途中まで青春ミステリーっぽい雰囲気なのだが、その考えは気がづいたら微塵に砕かれていた。坂出の友人である、大学院に通う藤井の心理学の知識に裏打ちされる会話も絶妙で、物語で大きな役割を担っている。

 この物語が万人に受け入れられるかどうか、正直分からない。妙な説得力を持っていてクセになるが、読み終えたとき心がざわざわとし、自分が導き出した結論が正しいかものかどうかもあやふやになった。もしかしたら、私はもう著者の術中にはまっているのかもしれない。

 どの作品も三者三様だが、共通するのは日常と少し(時には大きく)違う視点や出来事を、淡々と描く素晴らしい力量だ。三者のこれからの活躍を期待している。

■山本亮
埼玉県出身。渋谷区大盛堂書店に勤務し、文芸書などを担当している。書店員歴は20年越え。1ヶ月に約20冊の書籍を読んでいる。マイブームは山田うどん、ぎょうざの満州の全メニュー制覇。

■書籍情報
『犬のかたちをしているもの』
著者:高瀬隼子
出版社:集英社
発売日:2020年2月5日
価格:本体1,400円+税
https://books.shueisha.co.jp/items/contents.html?isbn=978-4-08-771696-2

『タイガー理髪店心中』
著者:小暮夕紀子
出版社:朝日新聞出版
発売日:2020年1月7日
価格:1760円(税込)
https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=21626

『箱とキツネと、パイナップル』
著者:村木美涼
出版社:新潮社
発売日:2020年1月30日 
価格:1760円(税込)
https://www.shinchosha.co.jp/book/353091/

関連記事