映画『ボヘミアン・ラプソディ』では描かれなかったクイーンの実像ーー出版相次ぐ関連書籍から読み解く

 映画『ボヘミアン・ラプソディ』(2018年)が大ヒットして以来のクイーン人気は、この1月の日本ツアー実現で一つのピークを迎えた。ブライアン・メイとロジャー・テイラーの2人だけになったクイーンは、2011年から故フレディ・マーキュリーに代わるボーカルとしてアダム・ランバートを迎え、ライブ活動を継続している。このラインナップでの来日は、今度で3回目になる。

 私も26日のさいたまスーパーアリーナで観たが、映像やライトのテクノロジーを駆使した演出は、彼らのツアー史上最高級に派手なものだった。そんな視覚だけでなく、まとまりを増したバンドのなかで、アダム・ランバートのパフォーマンスが見事だった。フレディがライブでメロディの高音を歌い変えつつもあの独特な押しの強さで観客を引っ張っていたのに対し、アダムは彼より線は細いものの幅広い声域と柔らかい表現力で魅了する。歌唱力だけでなく、ユーモラスな立ち居振る舞いでも場を和ませていた。激しくロマンティックでありながら笑いもある。フレディ時代から続くクイーンならではのそんな空気感が、アダムの存在によって成立していたのだ。

 映画でフレディ役のラミ・マレックをはじめとする役者陣が本人そっくりに演じたクイーン。オリジナル・メンバーとともに新たなフロントマンとして名曲を歌い継ぐアダム・ランバート。そこからクイーンの実像へとさかのぼる手がかりも用意されている。現在、メンバーのステージ衣裳などを飾った「クイーン展ジャパン」が催されているが、映画のヒット以来、クイーンの歩みをふり返った書籍が、既刊本の増補改訂版も含め多く刊行されている。『ボヘミアン・ラプソディ』は、バンドにまつわる実際のエピソードをベースにしていたものの、誇張や時系列の改変など脚色も多かった。それだけに実像をもっと深く知りたい人もいるだろう。ここでは、そのために有益と思われる本をピックアップしてみたい。

『MUSIC LIFE』表紙

 1970~1980年代にクイーンをよくとりあげた雑誌として『MUSIC LIFE』が知られているが、当時のインタビューのほか、演奏法分析、バンド内外での活動記録、関係者への取材、人物論などをメンバーごとにまとめたムックが、『MUSIC LIFE 特集●フレディ・マーキュリー/QUEEN』、『同●ブライアン・メイ』、『同●ロジャー・テイラー』、『同●ジョン・ディーコン』として出ている。

 映画ではフレディが「ボヘミアン・ラプソディ」、ブライアンが「ウィ・ウィル・ロック・ユー」、ジョンが「地獄へ道づれ」を作曲した経緯が描かれていた。また、映画でのロジャーは、犬笛になってしまいそうな高音コーラスを担当する以外、車大好きを歌っただけのバカな曲を作った人みたいな扱いで可哀想だったが、彼もヒット曲「RADIO GAGA」の作者だったのである。フレディのワンマンバンドでなく、メンバー全員の作曲能力が高いのがクイーンの強みだった。

 最近、日本のファン投票で12曲を選んだ国内独自企画ベスト『GREATEST HITS IN JAPAN』が発売された。「ウィ・ウィル・ロック・ユー」も「伝説のチャンピオン」も登場しない偏愛感あふれる選曲だが、4人それぞれが作った曲が含まれ1人も欠けていない。そのように個々人の評価が高いからこそ、メンバーで1冊ずつのムック企画も成り立つ。とはいえ、フレディは当然として、担当楽器を演奏するだけでなく本人も歌えてクイーン以外の活動も多いブライアンやロジャーはともかく、一切歌わずソロ・アルバムを作ったこともないジョンだけで1冊作ったのは凄いことだ。正直な話、驚いた。

関連記事