『みんなで筋肉体操』筋肉指導・谷本道哉が語る、“市場に媚びない”フィットネスのススメ

自重トレーニングという考え

理にかなった腕立て伏せ

――先生が自重トレーニングに目覚めたきっかけはなんですか?

谷本:僕自身、以前は「自重」を軽視していました。初級者向けという認識がありましたし、研究者立場からすると負荷を相対化できないので、材料にしにくいし、興味も湧きにくかったですね。マシンだと“その人が10回できる重さ”という形を用いたりして、被験者に対して同じ負荷になるようにして実験します。それが自重ではできない。ですが、この番組の依頼がきてから「もっと自重を突き詰められるだろうか」と考えるようになり、気持ちが変わっていきました。

――どのように自重トレーニングを突き詰めていったのでしょうか?

谷本:例えば腕立て。みんな胸を床につけないんですよ。ベンチプレスのときにバーを胸をつけない人なんていないのに。理由のひとつとしては、部活などはどうしても数を求めてしまうというのがある。ちゃんとやると、そんなに何回もできないんですが、ごまかして回数をこなしてしまう。だからこそ、「自重にはだいぶ伸びしろがあるな」と思いました。同時に研究者としても、トレーニングに対する考え方が変わりました。

――実際にテレビでのメニューはどのように決めていきましたか?

谷本:まずは自分でやる。やってみて大きな効果を実感できて、生理学的にも力学的にも説明できるものを出すようにしています。この依頼があったおかげで、自重を極めたいと思うようになりました。するとこれが奥深くて……(笑)。これまで研究している人も少ないので、番組のおかげで新しいことに取り組めています。

――番組が話題となった要因に、「筋肉は裏切らない」などのキャッチーな名言が多いこともあげられると思います。どのように作っていますか?

谷本:自分自身が筋トレをしていて思うことをベースにしています。「やらせる」セリフでは言われた人には響かないと思うんですよ。あと工夫としては、リズムよく響きがいいものを入れていくようにしています。メトロノームで測りながら、60BPMで1秒にひとつのセリフが入るようにしています。運動も基本的に60BPMでやるものなので、そうすると動きの邪魔をしないんです。コピーライターの糸井重里さんへの憧れもあるので(笑)、キャッチーな言い回しも意識しています。全然敵いませんが……。

――そこまで計算されていたんですね。最後に読者にどのようにこの本を楽しんで頂きたいですか?

谷本:付属のDVDで僕が声がけで後押ししてますので、「効率の良い筋トレ」を楽しく、前向きに楽しんでください。

(取材・文=佐々木康晴/写真=鷲尾太郎)

■谷本道哉(たにもと・みちや)
近畿大学生物物理工学部人間環境デザイン工学科准教授。1972年静岡県生まれ。大阪大学工学部卒。パシフィックコンサルタンツ(株)にて道路トンネル設備設計業務に従事後、東京大学大学院総合文化研究家博士過程修了。博士(学術)。国立健康・栄養研究所特別研究員、順天堂大学博士研究員などを経て現職。専門は筋生理学、身体運動化学。番組中では「筋肉指導」として、筋トレメニューの作成と指導を担当。

■書籍情報


『みんなで筋肉体操』
NHK『みんなで筋肉体操』制作班
筋肉指導 谷本道哉
発売中
価格:本体1,700円+税
発行/発売:ポプラ社

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