Natchan Montana「BALI」は“リングトーンラップ”の再来? ヒップホップ×ダンスの歴史から見るTikTokバズの必然
2000年代に加速したダンスチャレンジ
新潟出身で現在は東京を拠点に活動するラッパー、Natchan Montanaが8月12日にリリースしたシングル「BALI」がTikTokで急速なバズを巻き起こしている。9月11日付のオリコン「週間TikTok音楽チャート」では2位にランクイン(オリコン調べ/※1)。今年、各種ストリーミングサービスでのリリースを始めたばかりの新進ラッパーとしては破格の快進撃だ。
実際にTikTokで同曲が使用されている動画を見ると、Natchan Montana本人が投稿した動画のダンスを踊っているものが多い。そこでは〈彼氏のお金で行っちゃうバリ〉で始まるキャッチーなフック部分を使い、〈Sideで歩くビーチまるでカニ〉のラインを表現した両手をチョキにして横歩きするなどの振り付けが踊られている。「#BALIchallenge」のようなキャッチフレーズが付いているわけではないが、一種のダンスチャレンジ的な形でバズが起こっているのだ。
いかにもTikTokらしい現象だが、ヒップホップではダンスとともにヒットした例がそれ以前から多く見られる。古くは1980年代後半から1990年代前半にかけてMC・ハマーがカニ歩きダンスを踊りまくる(まるでカニ!)「U Can’t Touch This」などのヒット曲を放ってポップアイコンと化し、日本でもそのファッションやダンスを取り入れる“ハマ男”と呼ばれるブームが巻き起こった。
そして、インターネットが普及していった2000年代になると、より一歩今日のTikTokでのダンスチャレンジ的なものに接近した。2006年にはウェブスター&ヤング・Bのシングル「Chicken Noodle Soup」での腕を大きく振って左右に身体を揺らすダンスがバイラルヒットし、ウェブスターをメジャー契約に導いた。また、この年にはヤング・ジョックがシングル「It’s Goin' Down」で披露した、“モーターサイクルダンス”と呼ばれるバイクを運転するようなダンスも流行。2007年にはスーパーマン風の振り付けで踊るソウルジャ・ボーイの特大ヒット曲「Crank That (Soulja Boy)」が誕生した。以降もダグ・E・フレッシュに由来するダンス“ダギー”と紐付いたリル・ウィルの「My Dougie」やカリ・スワッグ・ディストリクトの「Teach Me How to Dougie」、LAのギャングによるダンスにルーツを持つ“ジャーキン”のシーンから登場したNew Boyzの「You’re Jerk」などがヒット。2000年代半ば頃から2010年代前半にかけてのシーンを華やかに彩った。
ダンスヒットと着信音カルチャー
そんなダンスチャレンジ的なものが最初に盛り上がった2000年代半ば頃から後半にかけての数年間は、同時に携帯電話の着信音に曲を使う“着メロ・着うた”カルチャーの最盛期でもあった。そのため、この時期のキャッチーさに秀でたヒット曲は、ときに“リングトーンラップ”(着信音ラップ)とカテゴライズされることがある。着メロ・着うたは基本的にはフックのみを使用するもので、「曲の一部分のみを切り取る」という点でTikTokの形式の先駆けとも言える。
アメリカの通信会社「AT&T」が2007年に発表した同年の着信音の人気ランキングでは、トップ10のほとんどをヒップホップ/R&Bが埋め尽くしている(※2)。「Crank That (Soulja Boy)」が3位、しゃがむダンスで人気を集めたヒューイの「Pop, Lock & Drop It」も9位にランクインするなど、ダンスチャレンジ系のヒット曲が着信音の分野でも人気を集めていたことが伺える。
ダンスチャレンジ系のヒット曲を着信音に最適化されたリングトーンラップとして見たとき、音楽的な特徴として「キャッチーなフック」や「打ち込み主体のシンプルなビート」といった要素が浮上してくる。また、ヒップホップサイト「DJBooth」はリングトーンラップについて「このジャンルはあらゆる地域のアーティストに繁栄をもたらしたが、その手法を極め、この新しい市場から最大の恩恵を受けたのは南部のラッパーたちだった」(※3)と指摘している。ソウルジャ・ボーイにしても先のランキングで1位に輝いているShop Boyzにしてもアトランタ勢であり、ヒューイやミムズといった非サウス勢による着信音ヒットも、多くはサウスヒップホップの影響を感じさせるビートだった。
興味深いのが、これらの特徴が「BALI」にも当てはまっていることだ。Natchan MontanaはInstagramのハイライトでビートを募集しているが、そこには“Old Gucci Mane”と“2000’s ATL”、“Y2K”といった希望しているテイストのキーワードが並んでいる(※4)。「BALI」のオルガンを使ったビートも2000年代アトランタ的なスタイルだが、これまで述べてきたようにその時代のアトランタといえばまさにリングトーンラップの本拠地だ。ヤング・ジョックの「It’s Going Down」あたりと「BALI」を聴き比べてみると、明らかに共通するテイストが確認できる。そしてあのキャッチーなフックである。いわば「BALI」は着信音カルチャーなき現代でTikTokに舞台を移して蘇った、リングトーンラップの奇妙なリバイバルなのだ。
※1:https://www.oricon.co.jp/rank/tt/w/2026-09-11/
※2:https://www.cnet.com/tech/computing/at-ts-top-ringtones-of-2007/
※3:https://djbooth.net/features/2015-12-01-birth-death-ringtone-rap-era/
※4:https://www.instagram.com/stories/highlights/18114092384061262/


























