Masato Hayashi、『RAPSTAR』を通して気づいた「ラップとは何か?」 苦悩の日々、充実の今、シーンへの危機感を語る

「音楽的にはラッパーでいたくなくなってきている」

――「In The Moment」では過去のことを歌っていますよね。
Masato Hayashi:過去、自分の弱さですね。たぶん俺にとって過去と向き合うことって弱さと向き合うことで。『RAPSTAR 2025』の期間中にちゃんと向き合ったんです。そのときに「この一瞬一瞬の今をちゃんと生きよう」と思って。弱かったときって、俺は過去の栄光を振り返りすぎたり、未来のことを見据えすぎたりしてたんですよね。未来を見据えて計画していくのは悪いことじゃないけど、漠然と未来を見据えすぎてて、今を見てなかったんですよね。だから、この瞬間を必死に何か生きていくっていう、シンプルなんですけど、いちばん難しいことを歌ったって感じです。
――だからこそイントロで言っている通り、泥臭くなる前のことも歌っているんですね。
Masato Hayashi:そうですね。ただその当時も、今思うと泥臭く生きてるんですよね。でもそれは今があるからで、結果論でそう言えるところもあるし、当時はそれに気づけてなかったというか。その気づきを歌った曲でもありますね。
あと一個、伝えたかったことがあって。ちょっと哲学的になっちゃうんですけど、今を生きるって、過去と未来を生きることでもあると思うんです。未来は変えられても過去は変えられないって言うけど、俺は過去も変えられると思ってる。ダサかった過去も、今の生き方次第で「あれがあったから今がある」と思えるようになる。だから、今を変えれば過去も未来も変わるんですよね。昔、ある裁判の前に、犯罪をした人たちと輪になって話すグループセラピー的なものに何度か参加したことがあって。そこである参加者が「今の生き方次第で、過去も未来も変えられる」という話をしていたんです。それを聞いたときに俺、深くくらっちゃって。「たしかに今の生き方次第で、過去も未来も変えられるな」って思ったんですよね。
――「In The Moment」も収録されるアルバムは、どんな作品になりそうですか?
Masato Hayashi:意外に内省的な曲が多くなったかもしれないです。意図してそうしようと思ったわけではないし、どっちかっていうと、盛り上がれる曲を多めに作ったつもりだったんですけどね。ただ言えるのは『RAPSTAR 2025』を経た“今”のMasato Hayashiの作品だということです。俺はそのときに思ったことを書くタイプだから、過去の作品と言っていることが真逆になることもある。でもラップって路上の立ち話だから、それでいいと思ってるんです。数年前と同じことを考えているわけがないし、この数カ月だけでも人格や思考が変わるくらい濃い経験をした。その変化が出た作品になっていると思います。
――なるほど。ご自身のなかでどういった変化が起きていたんですか?
Masato Hayashi:深くなった/浅くなったというより、視野が広くなったイメージです。フェスに出て、数万人の前で歌う経験をしたり、絶対に俺のこと嫌いだろうなって人でさえすごいよく言ってくれたり、そういういろんな経験をして、どんどん変わっていったかな。
――振り返ってみて『RAPSTAR』のシーンでの影響力はやはり大きいと思いますか?
Masato Hayashi:俺は『RAPSTAR』にめちゃくちゃ感謝してるし、大好きです。ただ、『RAPSTAR』が悪いわけじゃなくて、今のヒップホップシーンが『RAPSTAR』に依存しすぎている気はします。ここで結果を残さないと売れないような状況は、シーンにとっても番組にとっても良くないと思うんです。
お笑いで言えば『M-1グランプリ』以外にも売れる道があるじゃないですか。でも今のヒップホップには、それがまだ少ない。『POP YOURS』をはじめイベントはすごく頑張っていると思うけど、メディアやコンテンツ側から新しいスターやムーブメントを作る動きがもっとあっていいと思うんです。この人気が一時的なブームで終わらず、カルチャーとして残るためにも。今は本当にユースカルチャーの中心にあるくらい勢いがあるけど、中身の密度がちょっと弱い気がしているんですよね。
――今こそカルチャーとしての強度、密度が問われていると。
Masato Hayashi:そう。今はみんな個人として頑張っているけど、もう少しヒップホップ全体のことを考えてもいい気がします。ビーフもカルチャーの一部だから全然いい。でもロックやJ-POPに比べると、ヒップホップはまだ地盤が不安定に感じるんです。今これだけ勢いがあるからこそ、まだできることがあるんじゃないかなって。

――重要な問題提起だと思います。ご自身のシーンでの立ち位置についてはどのように考えていますか?
Masato Hayashi:正直、自分でもわかってないんですよね。「俺ってラッパーなのかな?」って考えることはあります。マインドはラッパーでいたいけど、音楽的にはラッパーでいたくなくなってきていて。というのも今の環境だと、ラッパーには細かいルールが多すぎるんですよ。ライムスキームはもちろん重要だけど、少し外れただけでイエローカードを出されるような窮屈さがある。リリックでも「ラッパーだから女々しいことを言うな」とか、メロディを重視すれば「もうラッパーじゃない」とか。俺はカニエ・ウェストが大好きなんですけど、彼も「自分をラッパーだと言ったことはない」って言ってましたし。その感覚はすごくわかるんです。
もちろん、ヒップホップというカルチャーを守るためにルールが必要なのもわかります。ただ、日本ではまだ理解が浅いせいか、ルールが単純化されすぎている気がする。たとえばサンプリングやオマージュまで全部パクリと言われたり、似たフロウを使っただけでパクリと言われたりする。でも、それを言い始めたらほとんどのラップが誰かのパクリになってしまう。まぁ本当にパクってるやつもいるんだけど(笑)。もう少しヒップホップそのものを知ったうえで聴いてもらえたらとは思います。
――最後にライブについても教えてください。これから『SUMMER SONIC 2026』への出演やワンマンライブなど、大きな公演も控えています(取材は8月上旬)。どのようなステージにしたいですか?
Masato Hayashi:自分の歌唱やパフォーマンスについては、積み上げてきたものを今まで通りやるだけです。でも、それ以外の部分、たとえばVJやライティング、演出の面でやれることが増えたんで、ちょっとずつカタチにしていきたいです。マイク一本で演出なしで歌うカッコよさもあるし、そういう時間も作りたいんですけど、どっちかっていうと、俺はお客さんの思い出になるようなライブをしたいんですよね。「食らわせたい」という意識もあるけど、1〜2年後に振り返ったときに、「あのライブ楽しかったね」と思えるような。だから演出にもこだわって、いつかはスタジアムにスカイダイビングで登場します(笑)。
※1:https://www.youtube.com/watch?v=zXE1M-2i_eo
■リリース情報
シングル「暴走東京」
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シングル「In The Moment」
配信中
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■関連リンク
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