歌声分析 Vol.21:稲葉浩志 “鳴らし、刻み、溶かす”変幻自在な表現 強烈な個性、唯一無二の“稲葉節”を解剖
圧倒的な記名性、名曲のカバーで光る可変性
「完全無欠」
続いて取り上げるのは、B'zの最新曲「完全無欠」(2026年)。ダンサブルなロックナンバーだ。この曲で稲葉は、言葉を細かく刻みながら歌声を乗せ、グルーヴを生み出している。母音を長く引っ張るのではなく短く切り、子音の立ち上がりを明確にすることで、一つひとつの言葉が緻密にリズムの中へ差し込まれていく。声そのものが、楽曲を構成するリズムのひとつになっているのだ。また、ハイトーンの響きに稲葉特有の質感を残しながら、長さやピークのタイミングを変えることで、ファンク特有のグルーヴへ声をフィットさせている。
「タッチ」
そして最後に取り上げたいのが「タッチ」(2026年)だ。岩崎良美の代表曲として広く知られる「タッチ」のカバーで、原曲が持つ歌謡ポップスらしいキャッチーなメロディと軽快さを残しながら、サウンドはロック寄りに再構築されている。注目したいのは、サビの〈お願い タッチ タッチ/ここに タッチ/あなたから タッチ〉の“タッチ”の部分。“ッ”では発音を一瞬せきとめ、“チ”では子音を強く立てて摩擦をやや強調することで、短い言葉の最後に鋭いアクセントを作っている。〈タッチ〉という促音を含む言葉は、鋭い響きを持つ稲葉の声とも相性がいいと感じる。ゆえに、ポップなメロディの中に“稲葉らしいエッジ”が加わり、稲葉浩志の個性を強く印象づけている。
「タッチ」は多くの人が原曲の歌声やメロディを知っているが、そういう楽曲だからこそ、稲葉の歌唱の可変性がより鮮明に浮かび上がるのだろう。楽曲の持つメロディに声を合わせながら、その中で随所に自らの強烈な個性を残していっているのだ。
稲葉は、曲が求めるものに応じて、自身の歌声を形作るさまざまな要素の配合を変えてきた。そこには、稲葉独特の言語感覚も深く関係している。言葉を響き、長さ、そしてリズムを持つ“音”として捉える。だからこそ、ハードロックでは母音を粘らせ、ファンクでは短く刻み、ミディアムチューンでは語尾に余韻を残すことができるのだ。曲調だけではなく、言葉も含めて、歌声を“鳴らす”のか、“刻む”のか、“溶かす”のかを使い分けているのである。
唯一無二の歌声を持ち、その活かし方を誰よりも知り尽くしている――そこにこそ、稲葉浩志というボーカリストの真の凄みがある。


























