さらさ、喜びも翳りも引き連れて歌う不変のマインド ルーツへの深い敬意に根ざした“ブルージー”の意味とは?

さらさ、翳りも引き連れて歌うマインド

 『Live Bluesy』がミックステープたる最大の理由は、後半に収録される3曲のリミックスにあるだろう。MURO、uin、Stones Taroといった、アンダーグラウンドのヘッズからクラブシーンの重要人物たちによるリミックスが同居している。新曲だけで「新しい自分」を打ち出し、メジャーの枠組みに最適化する道もあったはずだが、彼女は逆を選んだ。インディーズ期に培った音楽的文脈も、クラブシーンのヘッズたちとの繋がりも一切隠さず、すべてを引き連れたままメジャーという新たなフィールドへ出る。この選択そのものが、彼女のルーツに対する深い敬意の表明となっている。

 この新章の先陣を切るべく、7月7日に先行配信されたのが新曲「KAMINARI」である。ファンキーなスラップベースと軽やかな四つ打ちが織りなす、極めてダンサブルなトラック。しかしその上で、声はまるで逆の方向を向いている。決して張り上げることなく、息遣いを残したまま、耳元でそっと囁くような距離で歌う。サビの高音でさえ力を込めず、メロディを滑らかに撫でていくだけだ。トラックは外へ開くのに、歌は内にこもる。少し低く、クールでエレガントな佇まいはSadeを思わせ、踊れるビートの上でも決して熱くならず余裕を崩さない姿はKali Uchisを彷彿とさせる。身体はビートに合わせて踊っているのに、メロディの奥底には深い哀愁が漂っている——それはまるで、UKのベースミュージックに深い孤独を溶かし込んだSamphaのようでもある。

 翳りは暗い音の裏に隠されるのではなく、踊れる高揚の真っ只中に、涼やかな声とかすんだ和音によってそっと忍ばせてある。フロアを満たす物理的な音圧と、ベッドルームでしか聴こえないような精神的な親密さ。この1曲は、相反する2つの空間を同時に響かせようとしている。

 〈卵を産む私も/自由に広い海/飛び踊るのカリプソで〉。このリリックに込められた意味は深い。人類は有史以来、悲しみや絶望を、踊りや音楽に変えることで生き延びてきた。大西洋を無理やり渡らされた人々が、過酷な労働の中で、鎖の重さの底からブルースを生み出したように。あるいは、カリブ海の島々で、支配者に対する皮肉や不満を陽気なリズムに隠してカリプソが生まれたように。悲嘆をただ垂れ流すのではなく、リズムに乗せて肉体的に踊れる形へと鋳直すこと。それは、人類が数万年をかけて磨き上げてきた、最古にして最大のサバイバル技術である。さらさが「ブルージーに生きろ」と掲げる理念は、この歴史的文脈とも完全に接続されている。

 興味深いのは、この曲が表面的には「私」のラブソングの顔をしていながら、その「私」の輪郭がやけに広いことだ。卵を産む「私」は、明日をも知れず海を漂う海洋生物の「私」でもあり、鎖の底で歌わされた歴史上の無名の「私」でもあり、未来に不安を抱えながら満員電車に揺られる現代社会の我々としての「私」でもある。恋の激情という、最も個人的な事象を歌っているはずなのに、その同じ言葉が、いま世界のどこかで悲しみを踊りに預けている誰かの背中まで、そっと届いてしまう普遍性を獲得している。

 悩みを魔法のように消し去ってやるのではなく、悩んだ状態のまま、踊らせる。「KAMINARI」が成し遂げているのは、ポップミュージックに本来的に宿っている「誠実な機能」の再生である。

 ここまで来れば、「ブルージーに生きろ」がただの前向きな標語でないことは、もう伝わるだろう。負の感情を消しもせず、飾りもせず、それを燃料にして、踊れるポップに変えてしまう。リスナーに対して安易な「正解」を配り歩くのではなく、答えの出ない夜を、それでも体が自然と動くところまで共に連れていく。

さらさ - Thinking of You (from “Thinking of You TOUR 2025”)

 メジャーという大きな海へ漕ぎ出すさらさ。規模を拡大していくオーディエンスの前で、インディーズ時代に育てた親密さがどこまで通用するのか——その答えは、まだ誰にもわからない。ただ、看板を掛け替えず、影も過去もすべて抱えたまま、ここまで漕いできた人だ。次にどこまで遠くへ、彼女の「雷」が届くのか。だから君も、この夏、自分の耳で確かめてほしい。蓋をしないまま、それでも踊れる場所が、ここにある。最初の一発は、もう放たれている。

(※1)https://jfn.co.jp/lp/knowthesea/note/20240918-02/
(※2)https://realsound.jp/2026/06/post-2416414.html
(※3)https://fnmnl.tv/2025/10/31/165982
(※4)https://x.com/sasfannet/status/2004938799420506513
(※5)https://www.mbs.jp/kakekoi/music.shtml

さらさ ジャケ写
『Live Bluesy』

◾️リリース情報
さらさ メジャーデビューミックステープEP『Live Bluesy』
8月5日(水)リリース
ESCL-6271〜6272/¥6,600(税込)

配信予約キャンペーン:https://cp.digle.tokyo/salasa/live-bluesy/
CD予約:https://erj.lnk.to/livebluesy_CD

先行配信シングル「KAMINARI」:https://erj.lnk.to/KAMINARI

<収録曲>
01.風になる
02.KAMINARI
03.Thinking of You
04.YOU
05.青い太陽
06.Thinking of You(MURO’s KG REMIX
07.Thinking of You(uin Remix)
08.YOU(Stones Taro Remix)

<Blu-ray>
『Thinking of You Tour 2025』
01. Thinking of You
02. 太陽が昇るまで
03. 祈り
04. Roulette
05. 温度
06. ネイルの島
07. feel down
08. 青い太陽
09. 午後の光
10. グレーゾーン
11. 予感
12. Virgo
13. 祝福
14. 朝
15. リズム
16. Shakunetsu
17. 退屈
18. Amber
19. 朝
20. 船

『Live Bluesy』特設ページ

◾️ライブツアー情報
『LIVE BLUESY TOUR 2026』
※7月7 日(火) 12:00~より オフィシャル先行開始

・名古屋公演
日時:2026年10月29日(木)開場18:00 / 開演19:00
会場:UPSET

・大阪公演
日時:2026年10月30日(金)開場18:00 / 開演19:00
会場:UMEDA SHANGRI-La

・東京公演
日時:2026年11月4日(水)開場18:00 / 開演19:00
会場:LIQUIDROOM

<オフィシャル先行予約>
受付:https://l-tike.com/salasa/
受付期間(1次):7月7日(火)12:00〜7月20日(月)23:59
受付期間(2次):7月21日(火)12:00〜7月30日(木)23:59

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