どんな事実からも目を背けない、困難を乗り越えた覚悟のワンマンライブ 浜野はるきが“無二”である理由を見た

ライブは本編の終盤に差し掛かっていた。浜野はるきが話し出す。
スペシャルゲストとして登場した、鷲尾伶菜をステージから送り出したあと「ちょっと泣いていいですか?」と言い、こう話し始めた。2年半くらい前からパニック障害を患っていたこと、ツアーの初日に胸骨を骨折し、ツアーが続けられるのか真剣に悩んだこと。言葉を重ねるごとに、その声は大きく震えていく。観客が見守るなか、浜野はるきは、声を振り絞るようにこう続けた。

「そんな時、DMが一個届いて。『はるちゃんがステージ立つって言ったから、本気で幸せにしてもらうからね』って。いつも私が(みんなに)助けられてるなって思った。本当に今日きてくれて嬉しいです」
すべてをさらけ出すとも、等身大とも違う。自分を隠さない、どんな事実からもどんな感情からも目を背けないことで、自分を表現者にする――。そんな浜野はるきのスタンスが伝わってくる、名シーンだった。

浜野はるきが7月10日、東京・豊洲PITで全国ツアー『LIVE TOUR 2026 "COVER GIRLs"』のファイナル公演を開催した。4月にスタートしたこのツアーは、全国10都市11公演を行う自身最大規模のライブハウスツアーとなった。
会場が暗くなる。スクリーンに映像が出る。「人生の表紙はいつだってあなた」という言葉ののち、アンティークの洋書を思わせる重厚な書物が映る。ページがめくられていく。映し出されたのは、プライベートからライブ写真まで、浜野はるきの写真の数々。ツアータイトルとも呼応する演出だ。このように、コンセプトをはっきりと提示するプロデュース能力は、浜野はるきの才能だ。オープニングを飾ったのは「鬼Kawaii」。続く「Princess GaL」では、客席にハンドマイクを向け、観客と一緒に歌う。浜野が満面の笑顔を見せた。この日のステージは、ベッドやドレッサー、ハンガーにかけられた洋服など“女の子の部屋”をイメージしたセット。その後、ドレッサーの椅子に腰かけ「速攻ゴミ行き案件」を歌った。


MCでは、初めて失恋した時に「こんなにツラいんだ」と思ったこと、「ツラい時に自分を救ってくれたのが音楽だった」と言い、「ツラい思いをしている女の子たちの、怒りをぶつける場所や一緒に毒を吐ける場所になれたら」と語る。そして、「女性のためだけの曲です」と「ひめweek」へ。客席では赤いサイリウムがきれいに揺れていた。憂いを帯びたギターのフレーズから「中洲ロンリーナイト」へ。ベッドに座り歌う浜野。中低音がよく響く。続いて最新曲「好意症」へ。筆者が会場の最寄り駅から会場に向かう途中、偶然、すぐ目の前に2人組の“GaL”が歩いていた。ライブの高揚感で声が大きくなっていく彼女たち。ずっと新曲「好意症」の歌詞の話をしていた。「あんなふうに好きな人を思えたらかっこいいよね」という言葉が聞こえてきた。ライブでは、バックのスクリーンにMVが投影され、浜野はセットのバスタブに腰をかけて歌った。



ライブ中盤。「なんと、ここで記念写真撮っちゃいます」と、観客とともに記念写真&映像を撮影し、続けざまに「ここでお休みタイム」と恋愛相談に答えるコーナーへ展開。質問ボックスのなかから紙に書かれた質問を取り出し、読み上げる。「どこにいるー?」と質問者をフロアのなかから探し出し、浜野はまるで友達のように手を振るのだ。韓国からライブを観にきたというファンもおり、会場からどよめきと拍手が起こる。「好きな食べ物は?」という質問に「素麺、きゅうり」と浜野が答えると会場から笑いが起こった。その後も、「幸せになれない恋なら別れたほうがいい」「結婚したら女の勝ち。私が『結婚してよ』って歌を作ってあげる」など、ユーモアを交えながらも自身の経験を踏まえた言葉で一人ひとりに向き合う姿に、浜野はるきの人の思いを受け止める“覚悟”と“強さ”を感じた。



終盤には、冒頭で記述したように尊敬する先輩アーティストである鷲尾を呼び込み、浜野が提供した「MIDDLE NOTE」、浜野のオリジナル曲「リナリア」を一緒に歌唱。憧れの存在と同じステージに立った喜びを隠さず語る浜野の姿からは、ひとつずつ確実に夢を叶えてきた軌跡が見えてくる。“奇跡”ではなく“軌跡”だからこそ、浜野の楽曲にはたしかな説得力とリアルが宿る。本編最後のMCで涙ながらに吐露したあとに続いたのは、今と未来の話。豊洲PIT公演がソールドアウトしなかった悔しさも率直に口にしながら、こう締めくくった。
「私の夢は東京ドームに立つことです。その前に日本武道館という夢があります。一緒に大きなステージを皆で見ていきたいです。なので、これからもついてきてください」
客席から大きな拍手と歓声。「ついてくよ!」という言葉も、あちこちからあがった。



本編のラストは「最低な君」。浜野のアカペラで始まったバラード。中低音域から高音にしなやかに移行していく歌唱が、とても美しく会場を満たした。アンコール。「Vengeance」へ。この日のライブ中、ステージ上で浜野をずっと追う映像カメラマンがいたが、そのカメラに向かって手で払う仕草をする浜野。そのアクションと同時に、カメラが彼女の指先の方向を向き、リアル映像も切り替わるという、SNSをひとつの軸として活動してきた彼女ならではの演出もあった。そこから「朝帰り」「『I』」と続いていった。


恋愛の痛みや怒りをすべて肯定し、自分らしく生きることを歌い続けてきた浜野はるき。彼女の曲は、ファンがいるからこそ完成する。そして、浜野とファンがSNSやライブを通じて常にコールアンドレスポンスをしているからこそ、曲が育まれていく。そのことを雄弁に物語る一夜だった。


この日には、2027年1月23日に東京・LINE CUBE SHIBUYAにて『LIVE 2027 “Grace the Runway”』を開催することも発表された。
客電が落ちると、スクリーンには冒頭から続く写真集の物語が再び映し出された。ページが静かに閉じられ、最後に現れたのは『LIVE 2027 “Grace the Runway”』のロゴだった。浜野はるきがひとつずつ軌跡を積み重ねていく限り、その物語は次のページへと続いていく。
































