水谷豊が絶賛「本当に素晴らしい」 俳優・稲垣吾郎の演技に宿る“揺らぎ”の表現 伊藤蘭、趣里……縁で繋がる関係性
稲垣吾郎がパーソナリティを務めるラジオ『THE TRAD』(TOKYO FM)7月6日の生放送に、水谷豊がゲスト出演した。この日の放送で印象に残ったのは、稲垣が楽しそうに明かした“相棒”エピソードだった。
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以前、同番組に出演した真飛聖の一人芝居『ガールズ&ボーイズ』を観劇した稲垣。その際、客席で水谷と偶然隣同士になったというのだ。稲垣は、その時間を振り返りながら「ちょっとの時間だけ“相棒”になった」と言葉を弾ませる。
もちろんそれは、水谷が長年主演を務めてきた人気ドラマ『相棒』(テレビ朝日系)を踏まえた、軽やかな言葉遊び。だが、そのひと言には、大先輩への敬意と偶然隣り合った時間をうれしそうに受け止める稲垣らしい茶目っ気がにじんでいた。それに、キャリア60年を数える水谷を前にすると、40年近く第一線で走り続けている稲垣がまるで若手のようになるから不思議だ。
長い活躍をしながらも、ふたりが共演したのは、お芝居ではなくバラエティ『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)というのも意外なところ。「3回くらいお邪魔しました。ちょっとあの頃は出るのがクセになっていましたね(笑)」と水谷が振り返ると、稲垣は「この『THE TRAD』もクセになっていただけるように、盛り上げていきたいと思っております!」とノリよく返す。その軽やかなトークのラリーから、あらためてふたりの波長が合っているように思えた。
この日の出演も、トントン拍子に話が進んだという。そこにも、ふたりをつなぐ不思議な巡り合わせが感じられる。水谷の妻・伊藤蘭が、4月14日に『THE TRAD』に出演。その際のお礼を水谷が伝え、稲垣があらためて「こういうラジオをやっておりまして」と番組について説明した流れから、今回のゲスト出演がかなったそう。さらに、水谷の娘である趣里は、現在公開中の稲垣、草彅剛、香取慎吾による映画『バナ穴 BANA_ANA』(正式表記はアンダーバーは穴の絵文字)にも出演。気づけば、稲垣の周りには水谷家との縁がいくつもの形で重なっているのだ。
番組では、水谷が企画/脚本/監督/プロデュース/主演を務める映画『Piccola felicità(ピッコラ フェリチタ)〜小さな幸せ〜』の話題や、放送10年目を迎えるエンタメ時代劇『無用庵隠居修行』(BS朝日)についても語られた。俳優として長く第一線に立ち続けながら、監督業にも手を広げている水谷。そんな水谷に、稲垣は「監督をされることで、作品のとらえ方で変わったことは?」と興味深そうに尋ねる。
水谷は、監督は大変でとてもできないと当初は思っていたが、実際に監督を初めて務めたときに「俳優って大変だな」と思ったのだという。その意外な答えに、稲垣が思わず「えー!」とフレッシュなリアクションを見せていたのも微笑ましかった。
さらに「セリフどうやって覚えるんですか?」「毎日僕、台本と向き合っているんですけど」と、稲垣が投げかけた率直すぎる質問も笑いを誘った。もはや十分にベテラン俳優である稲垣が、まるで新人のようにまっすぐ台本との向き合い方を水谷に尋ねるのだ。すると水谷は「今、泣き入っていましたね」と微笑ましく受け止めながら、お芝居している画が浮かび、その画に言葉がついてくるのだと丁寧にレクチャー。稲垣は「やってみよ」と素直に受け取り、「言葉にとらわれちゃうんだよね。接続詞とか間違えちゃいけないって思うと」と続けると、水谷もその感覚にうなずく。そのやりとりがとても自然で心地よい。
一方で、稲垣が教わるばかりではなく、水谷も稲垣が出演した映画『正欲』について「本当に素晴らしい」と絶賛していたのも印象的だった。そのリスペクトの込められたやりとりには、“相棒”という言葉を冗談のまま終わらせたくなくなるような、俳優同士の温度が通い合っているとも感じた。
『正欲』で稲垣が演じたのは、自分の思う“正しさ”を疑わず、社会の規範を振りかざす検事だった。傍目からは整っているのに、どこか隠しきれない人間の弱さが滲む。そんな絶妙な人間の“揺らぎ”の表現を稲垣は得意としてきた。
2010年の映画『十三人の刺客』では、日本映画史に残る悪役との呼び声も高い怪演を見せ、2020年の映画『ばるぼら』では破滅へと向かう小説家に扮した。映画『バナ穴 BANA_ANA』では、そんな多面的な稲垣吾郎を、本人役として演じている点も興味深い。そして、7月24日からは、連続ドラマ『リーガルビート –逆転の法廷–』(テレビ東京系)で、「勝てない勝負はしない」と豪語する偏屈エリート弁護士・星秀幸に扮する。
あるときは社会の“普通”を突きつける側になり、あるときはその“枠”にハマりきれない側にもなる。稲垣は、ひとつのイメージに回収されそうで、決して回収されきらない。端正さ、不穏さ、こじらせ、ユーモアを行き来できる。それが、稲垣吾郎の大きな魅力なのだ。
だからこそ、水谷の称賛には特別な響きがあった。俳優として、監督として、作品を見る目を持つ人が、稲垣の出演作に心を留めた。そのこと自体が、俳優・稲垣吾郎の現在の強さを物語っているように思えたからだ。
番組の終盤、稲垣は「いつか俳優としても共演させていただければ」と語った。水谷も、再びの出演を匂わせるように、今回のラジオ出演は“前編”だと笑った。つながってきた縁、そして表現者同士の共感が感じられる言葉がいくつも交わされたこの日のラジオが、まだ見ぬ共演の前夜となってほしいと願わずにはいられない。