突如現れた“生々しく無加工”な衝撃――Nakamura Hakの歌が浮き彫りにするもの つやちゃん、伏見 瞬、小町碧音が徹底論考

Nakamura Hak、ライター3氏が徹底論考

「“超近接の肉声メディア”としての衝撃」(つやちゃん)

 歌とアコースティックギターのみ、一発録り。修正も編集も施されていないというその音源は、あまりにも無加工で、あまりにも近い。

 その声は、こちらの耳のすぐそばで生まれては襲ってくる。かすれ、息継ぎ、声帯の揺れ、言葉の前に漏れる空気、フレーズの終わりで消えていく微かな震え。通常なら整音やミックスの過程でもう少し後景に下げられる要素が、ここでは発声そのものとして前面に出ている。完成されたボーカルパフォーマンスというより、声が声になる瞬間をそのまま捕まえているような感覚がある。

 この距離の近さは、ある種ASMR的とも言える。ただ、耳元で囁かれているように親密なのに、そこで語られる内容は決して穏やかではない。“音響的には近い”けれど“言葉は危うい”というズレによって、聴き手は侵入されているような気持ちになる。そこが、Nakamura Hakの声の怖さ。つまりこれは、弾き語りの素朴さというよりも、“超近接の肉声メディア”として捉えた方がよいのだろう。

 そう、Nakamura Hakの歌詞は、この近さで歌われつつも、明るい自己肯定や前向きな救済にはなっていないのだ。むしろそれは、救われる寸前で、なお救済を信じきれない人間の声に近い。

 たとえば「白は夢」では、主人公は〈白が似合う僕〉〈空が似合う僕〉になりたかったと歌うが、その願いはまっすぐには成就しない。最後に咲くのは、〈真っ黒な土〉の〈真っ白なかすみ草〉だ。ここでの白は、清潔で無垢な理想として遠くにあるものではなく、むしろ汚れや黒さの内側からしか生まれないものとして描かれている。清らかさは、汚れを知ってしまったあと、それでもなお一瞬だけ咲いてしまうものなのだ。

 この“白さ”と“汚れ”の対立は、「砂のお城」でさらに社会的な地平へ広がっていく。そこでは、大人になることが、汚れを知り言葉を味方につけ、詭弁や〈しょうがない〉という言葉で自分を守る生き方として描かれる。一方で、子供のままでもいられない。だからこそ最後に出てくる〈大人にも子供にも/なりたくない〉という感覚は、単なる幼さの肯定ではない。社会化されることへの嫌悪と、無垢でいることの不可能性——その両方を抱えた言葉だ。

 「善と悪」では、価値判断そのものが揺らいでいる。〈善も悪もないこの時代〉〈振り翳した正さえ、過誤ある世へ欺くのなら〉という言葉から見えてくるのは、正しさを語ることへの根深い不信だろう。正しい言葉が、人を救うとは限らない。むしろ、正しさを振りかざすことで誰かを傷つけてしまうこともある。けれど、Nakamura Hakはそこで完全なニヒリズムを避ける。〈警鐘を鳴らせ〉〈意志を持ち、立ち向かって〉とも歌い、善悪の基準が壊れた世界で、それでも感情と意志だけは手放さないのだ。

Nakamura Hak - 善と悪 Drama ver. / テレ東系ドラマ「るなしい」OP

 つまり、Nakamura Hakの価値観を一言で言うとしたら、「壊れたまま、汚れたまま、それでも自分の声を諦めない」ということなのではないか。

 なぜなら、Nakamura Hakの歌詞は、いわゆる“弱さの告白”に留まっていないからだ。たしかに、痛み、孤独、自己嫌悪、虚無、社会への不信は強い。しかし、それは単なる繊細さとして処理されず、社会に適応すること、数字で測られること、善悪を振りかざすこと、清く正しくあることへの疑問にまで接続されている。

 特に「刃物と月」では、音楽そのものへの疑いも示される。〈日常から逃れる程度の音楽に/何が救えただろうか〉と歌うように、Nakamura Hakは音楽を万能の救済として扱っていない。しかし同時に、〈僕らが泣いた夜にはきっと/希望があったのに〉とも歌う。音楽は世界を変えられないかもしれない。けれど、泣くことができた夜には希望があった。音楽を信じたい。けれど、音楽で救えると簡単には言いたくない。白くありたい。けれど、白くあることの危うさも知っている。正しくありたい。けれど、正しさが誰かを傷つけることもわかっている。矛盾を解決せず、矛盾のまま声にするという姿勢。

 ゆえに、この音楽における“白”は、黒い土の上に一瞬だけ咲く白なのである。汚れ、腐敗、不条理、焦燥、虚無、善悪の崩壊を歌いながら、それでも声だけは差し出すということ。痛く、かすれていて、今にも消えそうな声。この声を、あまりにも鼓膜の近くに置くことで、Nakamura Hakは聴き手の世界の中心に入り込んでくる。

 痛くて消えそうな声を、世界の中心へ。

 それが、Nakamura Hakの、“超近接の肉声メディア”としての衝撃である。(つやちゃん)

Nakamura Hak ジャケ写
『白は夢』

◾️CDリリース情報①
Nakamura Hak
1st E.P.(CD ONLY)『白は夢』
5月20日(水)リリース(CTCM-65136)¥1,650(税込)

※初回生産限定盤/封入特典:CD購入者は無料で入場できる全国ツアーの応募券(先着順)
EC:https://maximum10.lnk.to/NakamuraHak_001

〈収録内容〉
1. 十七
2. 白は夢
3. 刃物と月
4. 砂のお城
5. 居無
6. 善と悪 / テレ東系ドラマ『るなしい』オープニングテーマ(BONUS TRACK)
7. 善と悪 - Drama ver.(BONUS TRACK)

◾️CDリリース情報②
Nakamura Hak
1st シングルCD『ただ美しい呪い』
6月10日(水)リリース(CTCM-65137)¥1,320(税込)
※収録3曲すべて、TVアニメ『とんがり帽子のアトリエ』エンディングテーマ

EC:https://maximum10.lnk.to/NakamuraHak_001

〈収録内容〉
1. ただ美しい呪い
2. 夜に浮かぶ
3. 光り
4. ただ美しい呪い - Anime ver.
5. 夜に浮かぶ - Anime ver.
6. 光り - Anime ver.

◾️先行デジタル配信情報
・1st Digital Single「ただ美しい呪い」配信中
Streaming/DL:https://maximum10.lnk.to/nakamurahak_str_tadautsukushiinoroi
Music Video - Anime ver.(YouTube):https://youtu.be/OXeF_qXb3do

・2nd Digital SingleG「夜に浮かぶ」配信中
Streaming/DL:https://maximum10.lnk.to/nakamurahak_str_yoruniukabu
Music Video - Anime ver.(YouTube):https://youtu.be/ppq5i9HAHfE

・3rd Digital Single「善と悪」配信中
テレ東系ドラマ『るなしい』オープニングテーマ
Streaming/DL:https://maximum10.lnk.to/nakamurahak_str_zentoaku

■公演情報
『Unplugged(Out-store)Live Tour「異端」』
2026年9月13日(日)東京・下北沢 DY CUBE
2026年10月18日(日)京都 音まかす
2026年10月25日(日)愛知・名古屋 RAD mini
2026年11月1日(日)北海道・札幌 Space Art Studio
2026年11月8日(日)新潟 WOODY
2026年11月15日(日)宮城・仙台 BARTAKE
2026年11月29日(日)大阪 雲州堂
2026年12月13日(日)岡山 表町シェルター
2026年12月20日(日)香川・高松 RUFFHOUSE
2027年1月17日(日)福岡 public space 四次元
2027年1月24日(日)島根・松江 MUSIC BAR Birthday
2027年1月31日(日)東京・下北沢 WAVER
全公演 17:30開場/18:00開演

入場:CD『白は夢』購入者は無料入場可
※各会場、定員に達し次第〆切/先着申し込み順
※申込方法などの詳細はCDの封入チラシに記載
特設サイト:shirowayume.jp

■関連リンク
X(旧Twitter):https://x.com/hak_nakamura
Instagram:https://www.instagram.com/hak_nakamura/
YouTube:https://www.youtube.com/@nakamura_hak
TikTok:https://www.tiktok.com/@hak_nakamura

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