ENHYPEN、信頼は誠実の循環から生まれる 4度目の世界ツアー『BLOOD SAGA』開幕――“証明”から“共有”への変貌

ENHYPENが証明する信頼と誠実の循環

 2026年5月、ソウル・オリンピック公園のKSPOドーム。ENHYPENが、4度目のワールドツアー『ENHYPEN WORLD TOUR 'BLOOD SAGA'』の幕を開けた。3日間で約3万2250人を動員し、全席ソールドアウト。世界へ打って出る最初の夜となった。21都市、2027年3月までの長い旅の出発点である。

 4カ月前、2026年1月。ENHYPENは7thミニアルバム『THE SIN : VANISH』をリリースした。『Vanish』――消える、消失する。ヴァンパイア・ロア(世界観)の最新章で、一族は逃亡者となった。冒頭ナレーション――「運命は時として、引き返せない道へと私たちを導く」。タイトル曲「Knife」は、その意志を刃に凝縮する。タイトル『THE SIN : VANISH』が、現実を予言する語として響き始めるのは、それから2カ月後のことである。4度目のワールドツアー『BLOOD SAGA』は、ここから始まる。アルバムを実装する場として。新章を6人で世界に届ける場として。

 会場には、ドレスコードとして「ヴァンパイアの追従者」が指定されている。黒と赤の衣装、コウモリ、牙、棺といったメタファーをまとったファンたち。彼らは、ともに歴史を刻む一族として、自発的な運命共同体を形成していた。『BLOOD SAGA』は、ステージ上だけで演じられる物語ではない。観客もまた、この叙事詩に編み込まれる存在である。

ENHYPEN (P)&(C) BELIFT LAB Inc.

 私が画面越しに目撃したのは、3日間の中日、DAY2(5月2日)公演である。

 ライブは、血のような赤い布が天井から落ちてスタートする。布の向こうから、シックなブラックの衣装を纏った6人が姿を現す。ライブの幕開けは、「Knife」だった。全編バンド編成。重厚なバンドサウンドが、KSPOドームを縦に揺らす。サングラス姿のNI-KIがダンスブレイクで前に出る。グループ最年少が、観客にツアーの最初の刃を突きつける。

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 「Daydream」「Outside」「Brought The Heat Back」「No Way Back」と続くオープニングブロック。過去曲と新曲を編み込みながら、6人の身体を会場に提示していく。「Outside」では、NI-KIからJAY、そしてJAKEへとラップが渡り歩いた。バンドが刻む重低音が、ヴァンパイアたちの鼓動として、物語のリアリティを音として担保する。生バンド編成のライブで最も水を得ていたのは、ロックを愛するJAYだった。「Brought The Heat Back」では、その熱量がバンドサウンドを牽引する。GLAYとも共演経験のある彼の身体が、生バンドというフォーマットを誰よりも自然に引き受けていた。その親和性を象徴するように、カメラが頻繁にバンドメンバーをとらえていたのも印象的だった。主役以外がこれほど抜かれるのは珍しいだろう。しかし、この夜のバンドメンバーは単なる伴奏者ではなく、ヴァンパイアの物語に音という血流を送り込む存在であり、運命をともにする“一族”の一員として描かれていたのだ。

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 「No Doubt」では、SUNGHOONがセクシーなダンスブレイクで観客を魅了する。続く「Sleep Tight」は、JAKEが自ら書いた静かな曲だ。逃亡者が一夜だけ目を閉じる、その時間。そして「Bills」では、SUNGHOONのもはや快楽にも近い歌声が、その温度をさらに低い場所へと降ろしていく。

 なかでも、HEESEUNGの脱退を経た新体制で最も大きな変化を引き受けたのはSUNOOだった。「Moonstruck」「Paranormal」での伸びやかな高音は、これまで彼が出していなかった音域まで届いていた。グループの新たなボーカルの中心としての存在感が、ここに立ち上がっていた。会場のボルテージが最高潮に達しているなか、「Blockbuster」ではJAYとNI-KIがラップを放った。「Go Big or Go Home」「Future Perfect (Pass the MIC)」では、6人それぞれの声が観客の歌声とひとつになる。

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 ライブはヴァンパイア神話を文字通りファンタジーへと押し上げる。VCRに登場したマント姿の追跡者集団が、観客席のなかを駆け抜けて、ステージへと向かう。虚構と現実の境界が溶け、観客もまた、追跡される側に立たされた。

 「Stealer」「Drunk-Dazed」「Bite Me」。ヴァンパイアロアの中核曲が、ここから連なる。「Drunk-Dazed」では、メンバーがゴシックなテーブルの上に乗り、官能的なウェーブを刻む。血に酔うヴァンパイアたちの陶酔が、身体の波動として可視化されていた。

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 ここまでを見ていて、気づく。彼らは、緊張していない。むしろ、リラックスしている。ファンへの信頼が大きい。それ以外の理由が、思い当たらない。

 演出の重みが頂点に達したのは、ライブ中盤の「CRIMINAL LOVE」の場面である。「Fate」が鳴ったあと、トランジションでJUNGWONが血の海に身を投げた。そしてステージには、実物の棺が。「CRIMINAL LOVE」は、棺の上で死体のように横たわるJUNGWONの姿から始まった。パイプオルガンの音色が、暗く完璧なステージを支える。棺は、ヴァンパイアにとって死と生を繋ぐ変容の場所である。そこで彼は一度“死”を見せ、そして、何事もなかったかのように軽やかに起き上がって歌ったのである。

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 奈落の底から彼が起き上がれた理由は、ENGENE(ファンの呼称)を信頼しているからだ。6人体制での新たなスタートとなった3月以降、それでもENGENEは、会場に集まった。そのすべての感情のなかに、自分たちと共にいる存在を、6人は見ていた。だから、深淵に沈んだあとも、棺から普通に起き上がれた。

 JUNGWONはこう語った。「完璧なパフォーマンスは存在しない。でも、本当に誠実なパフォーマンスだったと思う」「自分が誠実であれば、相手もそれを感じてくれる」と。メンバーが誠実だから、観客が誠実に応える。観客が誠実に応えるから、メンバーが誠実でいられる。緊張のなさは、信頼から生まれる。信頼は、誠実の循環から生まれる。

 クライマックスの「SHOUT OUT」は、激しい熱気が、会場を呑み込んだ。JAKEのボーカルと、感情を爆発させるような観客の声。その爆風は、6人が、観客が、会場の全員が過去を見つめ、今この瞬間の“生”を謳歌していることを何よりも雄弁に物語っていた。

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 メンバーが舞台から去ったあと、一行のメッセージが残された。「We go and shout, when we're together」――一緒にいるかぎり、僕たちは叫び続ける。「SHOUT OUT」の歌詞である。「We」とは、メンバーだけのことではない。観客とともに歴史を刻むすべての一族で構成された「We」のことだ。

 ライブは終わった、ように見えた。しかし、ダブルアンコールで彼らは戻ってきた。「Paranormal」、そしてもう一度「Knife」。最初の「Knife」は、設計された始まりだった。2度目の「Knife」は、もっと自由で、もっとラウドで、そしてもっとフレンドリーだった。それは1曲目の「Knife」が覚悟を突きつける“証明”だったのに対し、2度目は数時間の対話を経て、互いの信頼を確信した者たちによる“共有”へと変貌していたからだ。

 NI-KIは、この日「ENGENEから受け取ったエネルギーがあまりに大きい。今日が、あなたが明日へ持っていく力になればいい」と口にしていた。観客もまた、それを受け取った。明日を、来週を、未来を、生きていけそうだ、と。

 可能世界とは常に現実の代案であり、そこには必ず現実の真実が根ざしている。“永遠”という言葉は、今や意味を失っているだろう。永遠なんてものは存在しないかもしれない。だからこそ――グループが何を失い、その喪失をどう物語化するかにこそ、アーティストの本質が表れる。しかし、ENHYPENとENGENEの特別な絆を目撃し、永遠を少し信じる気持ちが芽生えた。

■公演情報
『ENHYPEN WORLD TOUR ‘BLOOD SAGA’ IN JAPAN』

東京・東京ドーム
2026年12月1日(火)OPEN 16:30/START 18:30
2026年12月2日(水)OPEN 14:00/START 16:00

愛知・バンテリンドーム ナゴヤ
2026年12月26日(土)OPEN 15:00/START 17:00
2026年12月27日(日)OPEN 14:00/START 16:00

福岡・みずほPayPayドーム福岡
2027年2月6日(土)OPEN 15:00/START 17:00
2027年2月7日(日)OPEN 14:00/START 16:00

大阪・京セラドーム大阪
2027年2月19日(金)OPEN 16:00/START 18:00
2027年2月20日(土)OPEN 14:00/START 16:00

特設サイト:https://www.hybejapan-concert.com/statics/enhypen_blood_saga

ENHYPEN オフィシャルサイト:https://ENHYPEN.com
日本オフィシャルサイト:https://enhypen-jp.weverse.io/
Weverse:https://weverse.io/enhypen/feed
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