sanetiiが明かす、コンプレックスを力に変えた半生 ネガをポジへと反転させる音楽の魔法

2000年生まれのシンガーソングライター、sanetii。彼は、2022年11月に活動を本格的に始めて以降、ロックとボカロを独自のブレンドでミクスチャーさせた楽曲を次々とリリースしながら、着実に認知と支持を高め続けている。この記事にたどり着いた熱心な音楽リスナーの中には、2023年リリースの「アメイジンググレイス」「フォーエバートゥエンテーィンズ」のMVを一度でも観たことがある人はきっと多いと思う。一方で、生でライブを観たことがある人を除けば、彼の素顔や人間性を知る人はまだ決して多くはないはず。今回は、彼のシンガーソングライターとしての側面、また、一人の人間としての側面に迫るべく、半生を振り返るロングインタビューを行った。この記事を通して、sanetiiの存在を、少しでも親密に感じ取ってもらえたら嬉しい。(松本侃士)
外では中心人物、家では暗い子供 強大な“負の力”がいつしか自分の力に
――はじめに、現在に至るまでの半生についてお聞きしていきます。学生時代は、どのような子供でしたか?
sanetii:小学生の時は、外では明るくて、ずっとクラスの中心人物的な存在でしたが、家ではけっこう静かでした。親からもずっと心配されていて、親は外での僕をあまり知らなかったので、友達がいないんじゃないかとか、何か隠していることがあるんじゃないかとか、両親2人で僕に内緒で本気で会議するぐらい心配していた、という話を後になってから聞きました。中学生ぐらいまでずっと、外では明るいけど、家では暗い子供でした。
――意識的に家の外と内でスイッチを切り替えていたのか、それとも無意識だったのかでいうと、どちらに近いでしょうか。
sanetii:無意識だと思います。当時、3つ上の兄と自分を比べることが多かったのですが、兄へのコンプレックスがかなりありました。家の中では、若干居心地が悪いと感じていたところもあり、逆に、外では割と自分のことをさらけ出せるような人間だったと思います。
――当時、お兄さんに対してどのようなイメージを持っていましたか?
sanetii:周りの人は、頭が良くて、運動ができて、顔もイケメンで、面白くて……といった感じで、中学の時も、兄のことを知っている先生からも、そういったことを言われたりすることが多かったです。部活は、兄と同じサッカー部だったのですが、兄の代がすごく強くて、僕の代も強かったけど、兄の代よりは弱かった。いろいろな場面で兄に対して負けていると思うことが多くて、それで自然と家の中で暗くなっていったのだと思います。
――仲は良かったんですか?
sanetii:特に仲良くなったのは、4年前ぐらいです。きっかけは僕が音楽を始めてからでした。兄も音楽活動していたのですが、兄が僕の作る楽曲を良いと言ってくれて、初めて自分の居場所ができたと思えました。それ以降、兄は僕の音楽活動を応援してくれていて、今は、ぜんぜん仲は悪くないというか、むしろ良いぐらいだと思います。
――ちなみに、学生の時は、どのような音楽を聴いていましたか?
sanetii:中学生の時は、めちゃくちゃUKロックを聴いていて、Arctic MonkeysとかOasisなどのバンドや、他にはTwo Door Cinema Clubなどを聴いていました。その後、大学生ぐらいの時にハマったのが、ボサノバとジャズ。朝にボサノバを聴いて、夜にジャズを聴くとすごく落ち着きます。あと、高校の時の先生が趣味でファンクバンドを組んでいて、そのライブがかっこよすぎて、ファンクにめっちゃハマった時期もありました。

――日本のアーティスト名を挙げるとしたら、いかがですか?
sanetii:山田亮一さんが関わっていた、ハヌマーンとバズマザーズはかなりハマりました。ボカロPだと、ナユタン星人、煮ル果実などです。ボカロ系のアーティストでいうと、大学生の頃、NEEを初めて聴いた時、勝手に敗北を喫したというか……僕がやりたかったことを先にやっている人がいると強い衝撃を受けました。しかも年齢も近くて、すでにいろんなライブやメディアに出ていて、「なんかもうやばい、もうこれは絶対に勝てない」、そういう感覚を初めて味わったのが、NEEなんですよね。
――初めてNEEを聴いた時は、すでにご自身も音楽活動を始めていたんですか?
sanetii:その時はまだ本格的には活動しておらず、僕がトラックを作って、友人に歌ってもらって曲を出すといったことは細々とやっていました。でも、本当に自分がやりたいことをやっていないという自覚もあって、本当は、自分で作って歌ってみたい、バンドをやりたいとも思っていました。そんな時期にNEEの音楽を聴いて、当時の自分は本格的に音楽活動をする前ではあったのですが、勝手に負けている気分になっていました。なんかもう、悔しいけど、ワクワクしたんですよ、正直。それぐらいNEEはすごく自分にとって大きな存在ですね。
――その後、どのような流れで、自分で曲を作って自分で歌うという活動にシフトしていったのでしょうか?
sanetii:いろいろな人から「声がいい」と言ってもらうことが多くて、自分で歌ってみようと思うようになりました。バンドなどで歌ってきた人生ではないし、歌も下手だけど、やってみようかなと、ふと思いました。その時の心持ちとしては「音楽ができていれば楽しいし」という感じでしたが、心の底には「絶対に有名になりたい」という気持ちがずっとありました。初めて自分が歌った楽曲として、「宇陀噺」をYouTubeにアップしたのが本当の始まりだったと思います。
――シンガーソングライターとしての活動を本格的に始めた時、お兄さんはどのようなリアクションでしたか?
sanetii:最初は恥ずかしくて、自分からは言わなかったです。その時の家族からしたら、僕が歌う姿なんて想像もつかなかったと思うのですが、それこそ兄は「宇陀噺」を出した頃から「曲が良い」と褒めてくれて、MVの監督も紹介してくれました。兄は今も、ほんと気持ち悪いぐらいに応援してくれています。
――いい話じゃないですか。
sanetii:正直、心強さも若干はあります。
――お兄さんに対するコンプレックスは、今ではもうほとんど解消された感じでしょうか。
sanetii:そうですね、もうほぼ0です。今はあの頃が嘘のようで、やはり他者から認めてもらえる、素直にいいと言われることのパワーを感じます。あんなにも強大だった負の力が、なんなら逆に自分の力になっている。過去の自分としては考えられないような現象ではあります。
sanetiiが大切にする「ギャップルール」 切実な死生観をポップに昇華する手法
――ここからは、sanetiiさんの音楽性について深堀りしていきたいと思います。Xのスタッフアカウントのプロフィールには「2000年代のロックサウンドと2020年代のボカロの融合」という旨の紹介文がありますが、楽曲を制作する上での順序や、大切にしている考え方などがあれば教えてください。
sanetii:けっこう飽き性な部分があるのに加えて、僕の音楽はどんなジャンルにも交わっていけると思っています。時代がどう変わろうとも、たとえアーティストに不利な時代になろうとも、時代に合わせて変化していけるような音楽にしていきたいと思っていますし、変幻自在なアーティスト性にしておきたいとも思っています。でも、自分の中に一貫したテーマもずっとあって、それは“死生観”です。そこには、ポジティブな面もあり、ネガティブな面もあって、いつか人は絶対に死ぬと思えば、残りの限られた時間でなんでもできそうと思えるというか、スター状態のマリオみたいに七色に光るぐらい、心を変えられると思うんです。
あとは、「ギャップルール」が大事だなと思っていて。例えば、ヤンキーが捨て猫を拾うところを見たら、普通の人が拾うより優しく感じるじゃないですか。この前、メタル系のバンドがアイドル調の曲を急に演奏しだして会場が盛り上がるといった動画を、たまたまSNS上で見たのですが、そういったギャップを、どうして素敵に感じるのかって考えたときに、たぶん嘘に見えないからだと思ったんです。前提として、僕の中での死生観というのは嘘じゃない、本当に思っていること。正直にいうと死ぬのが怖い。でも、逆にポジティブに捉えると死ぬまで何をしてもいいんだと思えるというか、無敵感をもらえると思っています。自分の中で意識しているのは、歌詞がすごく暗くなったら、明るい曲調で取り返すようにしています。まさにギャップルールじゃないですけど、ギャップは普通以上に人を惹きつける力を持っていると僕は思っています。
――それこそ「フォーエバートゥエンティーンズ」「デッドエンド feat. Lavt,ざらばんし」「プロメテ」などが象徴的だと思います。始まりと終わり、一瞬と永遠、未来への諦めと希望、そうした両極の狭間で迷いながら、それでも力強く限られた生を全うしようとする。その時に生まれる切実なエネルギーが各曲で爆発していると思いますし、そういう曲がsanetiiさんのライブにおけるアンセムになっていることもすごく独特だと思います。
sanetii:ありがとうございます。ステージから見ていても、例えば「アメイジンググレイス」みたいな、一見するとネガティブな歌詞の曲をみんなで歌って盛り上がっている光景は、言ってみれば異常だと思いますし、そこがすごく面白いと思います。
――本当に、毎回のライブでめちゃくちゃ盛り上がりますからね。
sanetii:それも、さっき言ったギャップルールだと思っていて、そういうところに魅力を感じてくれている人もいるのかなと思ったりはしますね。
――少しポエティックな表現になりますが、それこそまさに音楽の魔法というか。ネガティブをポジティブに反転させる力、昇華させる力が、やはり音楽にはあると思いますし、sanetiiさん自身が強くそう信じているんだろうと思いますね。
sanetii:本当に、そうですね。死にたい時、それを覆してくれるかのような曲が実際にあるし、救われている人がいるっていうのは、たしかに音楽の魅力の一つですよね。
――死と生の狭間で彷徨うのも人間らしいし、いつか必ず終わりが来ることを受け入れた上で、その先の地平に突き進もうとするのも、また同じように人間らしい。sanetiiさんの楽曲を聴くと、毎回そう思います。
sanetii:ありがとうございます。今はその先の答えは、まだぜんぜん分からないですけど……どうなるんだろう……。考え続けた結果、新しい哲学者みたいになっているかもしれないです(笑)。
――今後、sanetiiさんが年を重ねていったら、ご自身の死生観がどんどん変わっていくかもしれないし、それに伴い、生まれる音楽もどんどん変わっていくかもしれない。
sanetii:そうですね。今はもう、人生経験が足りてなさすぎて、正直、想像で言っている部分もあるので(笑)。ただ、もしかしたら、考え続けた結果、逆に考えないっていう結末になることもあるかもしれない。全部とっぱらって、最終的にパンクみたいな音楽をやっているかもしれないです。

























