2026年におけるHyperpopの“ねじれ” 時代の旗手・MANONのチャーリーxcxとも重なる立ち位置

MANONのチャーリーxcxとも重なる立ち位置

 “2026 is the new 2016”。年明けからTikTokとInstagramを席巻しているこのフレーズは、AI台頭前の、アルゴリズムに最適化される以前の時代へのまっすぐなノスタルジーだ。Spotify上では「2016」と題されたプレイリストが年初から790%以上増加したとも報じられている。単なるミームではない。これはひとつの文化的態度であり、東京の音楽/クラブシーンにも確実に波及している。そしてこの回帰の波を皮肉的に予見したジャンルがHyperpopだろう。

 ただし2026年のHyperpopには、ねじれがある。100 gecsやチャーリーxcx、A.G. Cookらが切り拓いたこのジャンルは、2020年代前半にSpotifyの公式プレイリストを通じて一気に認知を広げたが、当のアーティストたちはHyperpopというラベルを次々と拒否し始め、ジャンルの輪郭は急速に曖昧になった。ところが2026年、ノスタルジーの波とともにHyperpopは奇妙な形で再浮上している。生きたジャンルとしてではなく、参照すべきムードとして。

 この状況で、MANONというアーティストの立ち位置をあらためて考えてみたい。福岡出身、24歳。アソビシステム所属、コレクティブ「bala」のメンバー。2021年の「GALCHAN MODE」でHyperpopに挑み、six impalaとの「TROLL ME」を経て、3月に1stデジタルEP『PINK NOISE』をリリースした。経歴だけ見れば、日本のHyperpopシーンのアーティストとも捉えられる。

MANON - 違うタイプ【Official Music Video】

 ただ、個人的な見立てはすこし違う。MANONの本質はHyperpopではない。彼女は“Hype”だ。

 ここで言うHypeとは、音よりも先に活動による期待感が前面に出るアーティストであるということ。MANONのディスコグラフィーを追うと、その雑食性がよくわかる。トラップ、エモラップ、オルタナティヴロック、ドリームポップ、そしてHyperpop。本人が自身を“カメレオン”に喩えている(※1)ように、ひとつのジャンルに腰を据えるタイプではない。Hyperpopは彼女にとって、いくつもある引き出しのなかで最も注目を集めたひとつだったのだと思う。

 この構造は、チャーリー自身の軌跡と重なるところが多い。“Hyperpopの女王”と呼ばれた彼女は、2022年の『CRASH』で商業的ダンスポップに振り切り、2024年の『BRAT』ではクラブポップへ拡張し、2026年の『Wuthering Heights』ではゴシック/インダストリアルにまで踏み込んだ。チャーリーはHyperpopの深さを手放す代わりに、より広い層への影響力を手にした。Hyperpopの中心にいた人間が、最も積極的にそこから離れ続けている。もちろんMANONとチャーリーをスケールで同列には語れない。ただ、Hyperpopを“通過”しながら次のモードへ移行していく感覚において、両者の距離感には共通するものがある。

MANON
MANON

 だからこそ“Hype”という言葉は批判ではない。むしろ、MANONの一番の強みだと思っている。

 第一に、文化を横断する身体性。日仏のダブルルーツ、ストリートからモードまで着こなすモデルとしてのビジュアル、ギャルカルチャーへの偏愛。『GALCHAN MODE』がパラパラを引用しつつHyperpopに落とし込んだように、異なる文化圏のコードを自分の身体を通してつなげてしまえる人だ。第二に、コラボレーションのネットワーク。Kero Kero Bonito、藤原ヒロシ、LEX、Alice Longyu Gao、大沢伸一等、国内外、地上と地下を横断するこの人脈は、MANONがシーンの結節点として機能していることをよく表している。

MANON - GALCHAN MODE (Prod.Lil'Yukichi)

 一方で、気になる点もある。カメレオンであることは裏を返せば、“MANONの音”と聞いて即座にひとつのサウンドが浮かびにくいということでもある。シーンの文脈のなかで輪郭が立つタイプだからこそ、文脈そのものが動いたときに存在感が揺らぐ可能性はある。

 とはいえ“2026 is the new 2016”が示しているのは、ジャンルの純度よりムードの共有を重視する感性だ。Hyperpopがリファレンスとして再浮上するこの瞬間に、その周縁でHypeを生成し続けるMANONのポジションは、逆説的にシーンのど真ん中にあるとも言える。『PINK NOISE』は、Hypeから固有の“音”を持つアーティストへと移行する途上の作品だろう。その過渡期の揺らぎが、東京のシーンが抱える不確定性と共振している。Hyperpopという名前はもう空気だ。そのなかで踊り続ける身体があるかぎり、音楽は次の形を見つける。MANONがその身体を維持するためには踊り続ける必要がある。

※1:https://www.billboard-japan.com/special/detail/3190

■リリース情報
1st Digital EP『PINK NOISE』
配信中
配信URL:https://lnk.to/PINK_NOISE

<収録曲>
1. 違うタイプ
2. Nobody like きゅん
3. 物足りない
4. 成長痛
5. ニセモノ smilin
6. fanding

■関連リンク
Instagram:https://www.instagram.com/je_suis_manon2/
TikTok:https://www.tiktok.com/@je_suis_manon0
YouTube:https://www.youtube.com/@manon7514
X(旧Twitter):https://x.com/je_suis_manon

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