Sakurashimejiが向き合う自分たちの音楽 “リベンジ”を超えた時間の証明――渋公ワンマン『▷再成』を振り返る

〈ガラクタばっか/はぐれたままこの世界で/君と歌いたいんだよ〉
2020年3月に開催予定だった渋谷公会堂(LINE CUBE SHIBUYA)でのワンマンライブが中止になり、6年越しにそのステージに立ったSakurashimejiが、そのステージで最初に届けた言葉だ。これは昨年11月にリリースした4thアルバム『唄うこと、謳うこと』の1曲目「ガラクタ」の歌い出し。じっとステージに注がれた視線と熱を一心に受け止めた田中雅功は、アカペラで先述したフレーズを歌いライブをスタートさせた。力強いアカペラで始まった「ガラクタ」は、髙田彪我の柔らかなボーカルへと繋がれていく。田中と髙田はボーカルをお互いへ受け渡す時や髙田のギターソロに入る前など、ふたりで音を鳴らせることが楽しくてたまらないと言わんばかりに、何度も何度も笑顔でお互いの顔を見合っていた。

続いて選曲されたのは、6年前、高校生だった彼らが渋谷公会堂公演に向けてライブで育ててきた「青春の唄」。田中もエレキギターに持ち替え、ふたりで疾走感あふれる同曲を掻き鳴らし、6年前の気持ちとともに“渋公”のステージを全力で踏み締める。シンガロングの練習をしてから始まった「なるため」では、きのこりあん(ファンの呼称)の声やハンドクラップをエネルギーに替え、田中はがなるように歌い、髙田はひときわ高らかにギターを奏でた。

ここで最初のMCへ。この日のライブには『Sakurashimeji Hall Live 2026「▷再成」〜Sakurashimejiが6年越しに渋公リベンジするってよ!〜』というタイトルがつけられていた。田中がこのタイトルについて「『ふたつが重なり合う』とか『もう一度やる』『音楽をもう一回演奏する』という思いを込めた」と説明。「それだけではかっこつけすぎかなと思って、フレンチみたいなのをつけた」と添え、さらに髙田が「ニョロニョロをね」と付け加えるところがなんともSakurashimejiらしい。そして、バンドメンバーを紹介。最後に「Sakurashimejiと……あなた」と何よりも大切なメンバーを紹介すると、「いっぱい歌います」と言うと、ライブを再開させた。

ハイトーンのボーカルに乗せ前に進む期待感を歌った「いつかサヨナラ」、〈止まるな止まるな僕の足〉〈前へ前へ前へ前へ〉と言い聞かせるように背中を押す「辛夷のつぼみ」と、勢いよく駆け抜けると、一度音がすべて止まり、場内は静まり返る。そして、田中がギターをストローク。始まったのは、田中が高校生の頃に作った「天つ風」だ。田中の初恋を綴ったというピュアな楽曲が、20代になったふたりの歌声と、彼らが信頼を積み重ねてきたバンドメンバーの演奏とともに丁寧に届けられた。

その後、主人公の決意を8分の6拍子に乗せて歌った「生きるよ」、叶わない恋の苦しさと尊さを綴った「ただ君が」とさまざまな物語を鮮やかに描き出し、きのこりあんの胸を打っていく。ふたりは俳優としての活躍も活かして、どんな物語でもリアリティをもって届けることができる。その一方で、自らのなかに湧き上がるどうしようもない思いも、音楽として昇華する。田中がアコギを爪弾きながら「よく『どんな時に曲を作るんですか?』と言われるんですけど、日記みたいなもんで。どうしようもなくなった時とかに書くことが多いんです。みんな悪口ノートとかないですか(笑)?」と語り始め、作りかけだという未発表曲「なんて」を披露したのだった。この「なんて」、「明日はどっちだろう」「僕は何者だ」といった言葉が並ぶ、葛藤をむき出しにした楽曲だった。本来このステージに立つはずだった2020年からの6年間で彼らが大きく変化したのは、ほとんどの楽曲を自分たちで作詞作曲できるようになったこと。自らの感情を音楽に昇華すること、それを多くのリスナーと分かち合うことの喜びを知った彼らは、きっと2020年とは異なる気持ちで、1900人という観客がこの会場に集まっていること、配信でも多くのきのこりあんがこのライブを見聴きしていることの喜びを感じていることだろう。

ここで田中が、6年前のこの会場での公演が中止になった際に「ほっとした自分がいた」と吐露し始める。そんな自分に腹が立ったと振り返り、「でも、この6年でいろんな出会いと別れがあって。6年前は何も考えていない、ただ言われたことをやっているだけのガキだった。だけどいろんな出会いと別れと再会を繰り返して、ちょっとずつ大人になってきて。もちろん今日ソールドアウトして嬉しいし、Sakurashimejiというものを大きくしていきたいという思いももちろんあるんだけど、それ以上に、今日きてくれてるみんな、(配信で)観てくれているみんなと一緒に音楽をやりたいというのが、今のモチベーションです」「『応援してください』とかあんまり言いたくなくて、これからもただただ一緒に音楽を楽しんでいければいいなと思います」と、自身の音楽への向き合い方を語る。「自身の」と書いたが、田中曰く髙田も同じ思いだと言い、「ね?」と振られた髙田が笑顔で大きくうなづいていたことも、ここにあわせて書いておきたい。
ふたりはステージの前に進んだり、ステージの左右に用意されたお立ち台へ飛び乗ったり、きのこりあんの表情を見ながら、「春が鳴った」「who!」「エンディング」「ランドリー」とライブを続けていく。ライブでのインパクトを考えて作ったという「英雄のススメ」では、田中のギターから始まり、バンドメンバー、髙田と、それぞれがソロ回し。きのこりあんの手もさらに高く上がり、さながらロックフェスのような盛り上がりに。先ほどの田中の言葉通り、会場が一体になりSakurashimejiの音楽を楽しんでいく。

ユーモアあふれる歌詞をふたりの心地好いハーモニーで届ける「大好きだったあの子を嫌いになって」を熱量高く届けると、あっという間に本編ラストに。ギターを置いてハンドマイクを手にした田中が「あー、イヤだ」と寂しがるなか、軽やかなイントロとともに、そしてきのこりあんとともに「ラララ」の歌声が広がる。田中が作詞作曲を手がけた「normal」は、田中が自分のためだけに書いた曲だという。そのうえで、シンガロングパートも入れたことで、自身で「やっぱり、“誰かといたい”という気持ちは振り解けないんだ」と気づいたのだと、インタビューで話していた(※1)。ハンドマイクでそんな同曲を歌う田中は、〈僕は特別じゃないから/きっとあいつにはもうなれないんだろう〉と劣等感に苦しめられているAメロBメロでは後ろを向いて歌い、〈くだらない人生も/本当は愛してあげたいから〉と希望を込めたサビではお立ち台に立ち、前を向く。しかし、2番では再び下を向いて歌う。そして、立ち上がって〈叶えたい夢も/憧れも全部/もういらない/もういらないって思っちゃうよ〉と叫ぶように客席に背を向けたのだ。そんな田中の背中には、くっきりとギターを背負っていた汗の跡が。その汗こそが、この日、ここまでの1時間半、“渋公”で歌ってきたことの証明であり、さらにはSakurashimejiが11年間――「ただのガキだった」頃から――ふたりで積み重ねてきた時間の証明でもある。最後には、「明日から何があるかわかんないけど、イヤホンをつければ、再生ボタンを押せば、俺たちが歌っているから。大それたことはできないかもしれないけど、これからも一緒に歌っていきましょう。だから、お前の声も聞かせてくれ!」と田中が声を上げた。会場中には本当に、本当に大きなきのこりあんの歌声が広がった。その声は、何よりも、Sakurashimejiのふたりの存在やSakurashimejiの音楽が、多くのリスナーの心を掴んできたことの証明だった。

アンコールでは、来年2027年1月にホールツアー『Sakurashimeji Hall Tour 2027』を開催することを発表。LINE CUBE SHIBUYAに再び帰ってくることを約束した(「今日埋まったことも信じられていないのに」「そんななか、来年も決まっちゃって大丈夫かな」とふたりはどこか不安げだったが)。田中が「僕らとしてはSakurashimejiを大きくして“みんなと”歌いたいということよりも、“あなたと”一緒に歌いたい、“あなたと”一緒に音楽がしたいという気持ちで、これからもやっていければと思っています」と、あらためてSakurashimejiとしての矜持を刻む。「最高の出会いの繰り返しでした。11年前、彪我と出会ったことも最高の出会いだったし、最高の3人(バンドメンバー)と出会えたし、“あなた”と出会えたことが僕らの宝物だと思っています」――そうしてきのこりあんへの思いを叫ぶと、最後に「明日を」を歌い、“渋公”での『▷再成』を締めくくった。
あらためて振り返ると、この日アンコールも含めて披露した計20曲のうち、19曲が田中と髙田が作詞作曲を手がけた楽曲だった。「ガラクタ」で彼らは〈何十年経ったら…/なんてそんな話がしたいんじゃない/僕はさ/今の君と〉と歌っている。この日のSakurashimejiは、6年前のステージを再現しにきたわけではなかった。目指す大きなステージへの通過点として“渋公”に立ったわけでもない。この日この瞬間、Sakurashimejiのふたりのことを必要としている“あなた”と、Sakurashimejiの音楽を必要としている“あなた”と、音楽や楽しさを分かち合うために、“渋公”のステージに立っていたのだ。

※1:https://e.usen.com/interview/interview-original/sakurashimeji-utaukoto.html


























