ナオト・インティライミ、何度挫けても再起動して駆け抜けた歌手人生 “新人”であり続けた挑戦の歴史を振り返る
富士山のふもとの山小屋にこもって制作「諦めずにねばってきたから今がある」
――グルーヴィーになりにくかったり、メロディに乗りにくかったりする日本語で歌うことに関して悩んだ時期はありました?
ナオト:悩むとかではないけど、デモで「テレレテンテトゥスタトゥテテンテトゥン」とか歌って、それに歌詞を乗せるとなるとねえ(笑)。そういう音で歌うからかっこよかったのに、〈きみと○○したいぜベイベ~〉とかにした瞬間、ダサくなるんです。でも、自分の考えた16分の裏が入りまくった癖の強いメロディ、譜割りに対して心地よい言葉、響きをいかに乗せるか? そこは諦めずにめちゃくちゃこだわってきたかもしれないです。「ありったけのLove Song」も最初、仮歌の時、〈キミのいない船着き場でなんちゃら~〉みたいな、めちゃくちゃド演歌なシチュエーションでした(笑)。そういうところから垢抜けさせて、育てていく作業をずっとやってきましたね。
――ミュージシャンは言葉の意味だけで歌詞を書くわけではなく、作った音、メロディから言葉を導き出して物語とかを作っていく部分も大きいですよね。
ナオト:そうなんです。メロディに対して出てきた仮歌のワンワードから物語を広げるとか、よくあります。納得のいく歌詞を書き上げられた時は、ガッツポーズです。
――「恋する季節」も、音の心地よさと物語が絶妙に両立している曲です。ナオトさんの作る世界のイメージは、夜よりも昼、月よりも太陽というのも感じるんですけど、ご自身ではどのように思います?
ナオト:そうかもしれないですね。「インティ(太陽)」という名前をつける時に、いろんな太陽の光を歌いたいと思ったんです。南中の一番暖かい燦々と降り注ぐ太陽もあれば、夜明けのだんだん明るくなっていく太陽、夏の夕暮れのきゅんきゅんする太陽もあるじゃないですか。そういう光の加減や色が、15年の中で曲を創りながら増えていったのかもしれないです。
――「恋する季節」も太陽ですね。穏やかな光を感じます。
ナオト:オリジナルのJ-POPの感じからちょっと離れた冒険というか、ラテンチルミックスというか。あんまり力を入れないで聴けると思います。朝のまだスイッチの入っていない時に聴いても肉離れを起こさないようなアレンジにしました。
――ナオトさんの曲に太陽を感じるのは、幸福な恋愛を描くことが多いというのもあるのかもしれないです。例えば「君に逢いたかった」も、運命の人だと思える人との出会いの喜びですし。
ナオト:「愛してた」のような別れの曲もありますけどね(笑)。でも、なんか気持ちがグッと高まる時って、人を好きになる瞬間だと思うんです。あのエネルギーをすごく描写してきたというのはありますね。恋をしている時って、人が変わって人生が変わるじゃないですか。
――普通の友だちだったら誘いを断るような状況でも時間を作って会いに行ったりしますからね。
ナオト:ほんとそう。時間とか場所とかが気にならなくなるのが恋なのか。同じ景色も違って見えるし。そういうのは恋以外ないですからね。
――「君に逢いたかった」の主人公も、そういう状態の真っ只中ですね。
ナオト:〈100億年前から決まってたのかなぁ/こんな日が来ること〉なんて、そういう状態だからでしょうね。100億年前って、地球が誕生するよりもっと前(笑)。
――(笑)。別れの曲の「愛してた」も、聴いた時に受ける印象はとても温かいです。2023年に「愛してた(feat.れん)」としてリメイクしたことがありましたけど、あの時のアレンジもNaoki Itaiさんでしたよね?
ナオト:そうです。アレンジ自体は今回と2023年のものは同じなんです。れんくんが歌ったところを僕が歌い直しました。3年くらい前にこの曲の2Aの〈好き同士なのになぜ別れが来ることがあるの?/一緒にいることが一番幸せなはずなのに〉が、突如SNS、TikTokでバズったんです。「めっちゃみんな共感するやん! あるんだな、このシチュエーション」って思いました。曲を作った時は、そんなことを想像してなかったけど。
――制作に関する思い出は何かあります?
ナオト:僕、山籠もり合宿の期間を定期的に作っていて、その時に創ったのがこれなんです。
――2012年3月のリリースですから、おそらく前年か、前々年の後半くらい?
ナオト:そうですね。その頃、忙しすぎて。3度目のデビューでしたから、全部がすごくありがたかったんですけど、「制作期間を設けないともうこれは新しい曲、創れっこないぞ。まとめる時間も生む時間も必要」ってなって、富士山のふもとの山小屋に1人で1週間くらいこもったんです。「愛してた」は、10分、15分で一気に言葉もメロディも同時に出てきて、不思議な感覚でしたね。学生の頃は、そういう経験が多かったけど、久しぶりでした。あの時期につまらない曲しか書けなくなっちゃってたら、衰えていくしかなかったと思います。あそこで頑張って曲創りを諦めずにねばってきたから今があるんだと思います。
――こもった山小屋は、どんな環境だったんですか?
ナオト:携帯の電波も届かなかったですから、ひたすら言葉とメロディと戯れる仙人のような生活です。でも、1週間の内、最初の2、3日は、まだ気持ちがざわざわしてるんですよ。だんだん浄化されていって、呼吸がまともになってきて。そしたら、ぶわああああー! でしたね。10何曲持って帰ってきて、みんな大喜び。帰ってきてから聴き返して、その中に「Brave」「愛してた」「恋する季節」やらがありました……って、久しぶりにそういうことを思い出しました。
――制作エピソードといえば、「今のキミを忘れない」は、北川景子さんの写真をピアノの譜面台に置いて制作したというのを聞いたことがあるんですけど。
ナオト:そうでしたね。ありがたいことに北川景子さんが出演したCMのタイアップをいただいたんです。出来上がった時に良い曲になった感覚がありました。
――今や卒業ソングの定番になっていますが、制作の時点で学生の卒業式のイメージはあったんですか?
ナオト:実は卒業のイメージはゼロじゃなかったです。男女の別れを最初にテーマとして敷いていたけど、どんなシチュエーションにも合うものにしたくて、男女の友情、卒業とかも滲ませました。〈いつもと同じ帰り道/無理に普通の振りして/でも別れ際/交差点で「じゃあな」と言い出せなくて〉は、まさに卒業式で、男女のことにも捉えられるようにしています。
――この曲のREBOOTは、編曲とピアノが清塚信也さん。とてもすてきな仕上がりです。
ナオト:ね? 彼はピアニストであり、アーティストだから、華があるというか。普通にピアニストが弾くのとは違うものがありますよね。アイデンティティを打ち出しながら寄り添ってくださったなと感じています。彼の個性がよくわかっていたので、ピアノ1本がいいだろうという決断は早めにしていました。
――清塚さんとは、以前から交流があったんですか?
ナオト:そうなんです。知り合いに呼ばれて行ったら清塚信也さんもいて。「初めまして」の時、そこにピアノがあったのでセッションしました。「いつかまたやれたらいいなあ」と思っていたんですけど、その後に彼がものすごく忙しくなっちゃって会えてなくて。こういう形でコラボできて嬉しいです。