緑黄色社会、作品を深く読み解き楽曲に昇華する巧みな手腕 数多のタイアップ実績、“選ばれる”バンドの強み
2025年12月26日に、劇場版『緊急取調室 THE FINAL』が全国の映画館で公開された。2014年の第1シーズンから長年支持を集めてきた刑事ドラマ『緊急取調室』(テレビ朝日系)シリーズは、取調室という密室空間を主戦場に、言葉と心理戦で事件を解決する、日本の刑事ドラマの中でも異色の切り口で人気を集めた。派手なアクションやトリックに頼らず、「人はなぜ嘘をつくのか」「なぜ罪を犯すのか」という、人間の根源に問いかける。主人公・真壁有希子をはじめとする通称“キントリ”メンバーたちは、犯人を追い詰める存在であると同時に、その罪の中にある犯人が背負った過去を真正面から引き受ける役割を担ってきた。視聴者は、事件解決の快感だけではなく、登場人物の覚悟や葛藤に向き合うことで己と対峙し、人間としての尊厳や感情に共感してきた。だからこそ『緊急取調室』シリーズは、国民に愛される刑事ドラマになったのだと思う。
劇場版『緊急取調室 THE FINAL』の主題歌「さもなくば誰がやる」を手掛けたのが、緑黄色社会だ。緑黄色社会は、これまで「LITMUS」(2021年)「My Answer」(2025年)と、シリーズの主題歌を担当。ボーカルの長屋晴子がドラマ本編に出演するなど、物語の内側に深く関与してきた。緑黄色社会は、メンバー4人全員が曲作りを手掛けるバンドである。その結果、楽曲バリエーションは単なるジャンル横断にとどまらず、メロディ構造やリズム設計、言葉の選び方などにおいて複数の魅力が共存するオリジナリティを獲得している。1曲ごとに視点や感情表現が微細に変化するため、タイアップにおいても作品ごとに、最適化された感情の翻訳ができるのだ。
ドラマやCM、恋リアに至るまで、様々な作品に寄り添う楽曲たち
「始まりの歌」(2017年)以降、緑黄色社会が関わってきたタイアップは連続ドラマ、アニメ、映画、CM、恋愛リアリティーショー、Nコン課題曲(NHK)まで多岐にわたる。注目すべきは、特定ジャンルに依存しない分布と、さらに1曲がリリース年以降も、複数のタイアップを獲得している点にある。緑黄色社会の知名度を一気にあげ、彼らの代表曲のひとつにもなった「Mela!」(2020年)や既述した「始まりの歌」は、一曲で複数のタイアップに起用されている。これは緑黄色社会の楽曲の適応力の高さを物語る事実だ。
先述した分布を軸に、緑黄色社会のタイアップ楽曲について掘り下げていきたい。
まずは連続ドラマ。月9ドラマ『真夏のシンデレラ』(フジテレビ系)主題歌「サマータイムシンデレラ」(2023年)、同ドラマの挿入歌「マジックアワー」の2曲。2曲に共通するのは透明感を孕みながら、ストーリー性のあるサウンドアレンジ。「サマータイムシンデレラ」はロマンティックだが高低差のあるメロディが駆け抜け、“止められない”恋愛感情を描いている。ミディアムチューン「マジックアワー」では、長屋が繊細なビブラートや丁寧なファルセットで、好きな人に対する真摯で尊い想いを見事に表現している。
『緊急取調室』の主題歌となった「LITMUS」「My Answer」は、歌詞を比べてみると非常に興味深い。両曲とも一人称の人物と、二人称の人物が、心の中で会話をしているような構成だが、前者は“わたし”と“あなた”、そして後者は“私”と“君”を用いている。「LITMUS」は犯人側からの問いかけ、「My Answer」はその問いかけに対する刑事の答えが、そのまま自らへの問いかけになり、人間の尊厳を顧みることにつながっている。また、刑事ドラマという緊張感の高い世界観に対し、正義を叫ばない選択をしたのも、緑黄色社会らしい。
アニメ『薬屋のひとりごと』(2023年/日本テレビ系)のオープニングテーマ「花になって」(2023年)は、イントロから緑黄色社会の多彩なルーツが炸裂する1曲。跳ねるようなリズムと柔らかなメロディラインは一見ポップだが、安定感一歩手前で落ち着かないコード感が、物語に流れる緊張を映し出している。日常の中にある殺意、そしてミステリーをテーマにした作品に対し、軽やかさと不穏さを同時に醸し出している。“花”も人によっては“毒”になることを彷彿させるタイトルもお見事だが、注目は、歌詞の最後に〈笑って〉と持ってくるところ。何があっても、再び日常が始まること、あくまでその日常が描かれた作品であることを印象づけている。
『僕のヒーローアカデミア』(2020年/読売テレビ・日本テレビ系)第4期第2クールエンディングテーマ「Shout Baby」では、ボーカル長屋の表現力が光る。Aメロでは抑制した中低音域がキャラクターたちの葛藤と、サビではクリアで伸びやかなロングトーンが主人公のひたむきな姿とリンクしている。ビブラートやファルセットなど、スキルをあまり使わずにストレートに歌唱することで、聴き手に余韻を持たせ、感情を想像させる余白を作り出しているところもいい。
次にABEMAの恋愛リアリティーショー『今日、好きになりました。』主題歌「恥ずかしいか青春は」(2024年)をピックアップする。直接的な表現はないが、〈きっといつか焦がれ思い返す〉〈何気ない今日を忘れないでね〉など、自身の“青春時代”をふまえて歌詞を書いていると考察する。その中で〈恥ずかしいか青春は/馬鹿らしいか真剣は〉と繰り返し問いかけており、緑黄色社会には珍しく、明確にメッセージ性を感じる1曲で、言い切りの強い言葉が並ぶ。青春先輩の視線から綴られた歌詞だが、その世代の差を感じさせない……というか、差の壁を切り崩すパンチラインが最初から出てくる。〈ぶつけたところから熟れていく果実のように〉というワンフレーズだ。成長に限界はないことを示している。また、イントロがギターから始まるのも。このバンドには珍しく、ギターが曲の疾走感を後押ししている。同時に、シンガロングも意識した構成で、青春、恋愛という他人と共有することで輝くシーンをサウンドでも体現している。
最後に映画のタイアップについて。『映画クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝』の主題歌「陽はまた昇るから」は、緑黄色社会が本映画のために書き下ろした曲だ。爽やかでピュアなメロディを軸にしたポップチューンで、間奏もタイトにまとめているが、フレーズ途中の一瞬で、ほんの数回、彼ららしいトリッキーなバンドアレンジを繰り出している。それ以外は、彼らにしては驚くほど王道なアレンジパターンでまとめている。これは世代を超えたシリーズ作品であること、家族一緒に鑑賞する観客も多いことをふまえ、彼らがポップスとしての間口を広げ、ポップスのわかりやすさに、徹したからだと思う。また、〈チクタク〉、〈シクハク〉、〈ララララ ラララ〉と、言葉自体がフックになっているところも面白い。さらに〈晴れのち雨のち腫れのち七色〉など、主人公の野原しんのすけが、小学生の中学年くらいになったら言いそうだなと思わず笑ってしまうフレーズもある。
そして冒頭でも触れた劇場版『緊急取調室 THE FINAL』の主題歌「さもなくば誰がやる」は、シリーズ最終章にふさわしく、覚悟と継承をテーマにしながらも、最後は聴き手に判断を委ねる構造は、映画の余韻を深めている。また「陽はまた昇るから」も「さもなくば誰がやる」も、人間の寂しさに触れている共通項がある。それは、緑黄色社会が、登場人物に寄り添う音楽として主題歌を作っているからではなかろうか。
前に出ない強さ。余白をはらんだ深度。そしてタイアップの作品やテーマに対する的確で前向きな解釈。このバランス感覚が、緑黄色社会が数多くの映像作品やCMからラブコールを受け続けてきた理由だと考察する。彼らの音楽は作品をしっかり支えながらも、決して物語を侵食しない。かといって、自分たちの特色を消しているわけではない。この絶妙な距離感は、単なる“タイアップ慣れ”という言葉では説明しきれない、緑黄色社会の表現の解像度に支えられている。そして、作品性を問わずに寄り添えるレンジの広さは、そのまま老若男女から愛されるバンドのカラーにも紐づいている。
すでに新曲「風に乗る」が、2026年3月13日公開の劇場アニメ『パリに咲くエトワール』の主題歌に決定している緑黄色社会。2026年、緑黄色社会の楽曲が、どんな映像作品を彩っていくのか。ドラマ、アニメ、映画、CM、テーマソングなど、そのジャンルの縦断も含めて楽しみでならない。
■リリース情報
10thシングル『My Answer』
発売中
CD・ダウンロード・ストリーミング https://erj.lnk.to/uzKPPp
●初回生産限定盤|CD+Blu-ray|ESCL-6132~6133|¥3,900 (税込)
●通常盤|CD|ESCL-6134|¥1,200(税込)
●収録内容
[CD|初回生産限定盤・通常盤共通]
1 My Answer
2 さもなくば誰がやる
3 My Answer(Instrumental)
4 さもなくば誰がやる(Instrumental)
[Blu-ray|初回生産限定盤]
Channel U Live Streaming
■ライブ情報
『緑黄色大夜祭2026』
2026年4月25日(土)愛知県 Aichi Sky Expo(愛知県国際展示場)
2026年4月26日(日)愛知県 Aichi Sky Expo(愛知県国際展示場)
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