KEN THE 390、呂布カルマ、KAIHO from OCTPATHらが届けた本気の言葉 同志たちが集った『LYRICIST GARDEN』の熱狂
「ゼンザ(前座)390です!」
にこやかにステージに現れ、前説を始めたのは今日のホスト・KEN THE 390。
「これだけ幅広いラッパーを一日で確認できる日も少ないと思うので、ぜひお目当てのアーティストとともに、新しい“好き”をひとつでも広げてもらえたら……」
年の瀬も迫った12月20日、舞台はShibuya eggman。ヒップホップイベントとはいえ、出自の異なるアーティストが集う一夜。界隈ごとで観覧ルールの違いもあるなか、ケンザ先生の丁寧な説明が会場にあたたかな安心感を生んでいく。
『LYRICIST GARDEN』“言葉で魅せる者たちが、リリックで自分を語りゆく一夜”。2回目の開催となる今夜、どんな物語が綴られていくのだろうか。
〈最近RECするstudioで隣にはKENさん〉
リリックからは、憧れのKEN THE 390と楽曲制作を重ねる喜びがにじむ。最初に登場したのは、KEN THE 390がプロデュースしたボーイズグループ Maison Bから派生した2人組ユニット・roomR。「Dance Now」は、グループ時代にJID、Kenny Masonのビートをジャックしてラップした実験的な一曲で、彼らの出自を象徴する楽曲だ。今年5月にグループ解散という大きな困難を経験した2人は、現在は会社員として働きながら音楽を続けている。
「KENさんに引き続いて、俺らが会社員ラッパー頑張るんで応援よろしく」
かつて掛け持ち生活でのし上がってきたKEN THE 390の背中を追うような決意とともに、新曲「オフィスからクラブ」を披露。社員証に似せたパスケースを首にかけて歌うユニークな演出も交えながら、トップバッターとしてフロアをしっかりと温めていく。
続いて登場したのは、ダンス/ラップ/ビートボックスの三位一体で魅せるHIPHOPエンターテインメント集団 Beat Buddy Boi(以下、BBB)。舞台やライブでKEN THE 390と幾度も交わってきた彼らは、つい前日も共演したばかりだ。
ラッパーのSHUNがKEN THE 390を招いた「THE BEAST (Remix)」では、妖艶な赤い光の下、飢餓感あふれるラップの競演が展開された。さらにダンス×ビートボックス、MPCセッションと多彩なパフォーマンスで沸かせ、デビュー10周年を迎えてリリースしたアルバム『BBB10』から全4曲を披露。それぞれの成熟したスキルが集結した「Feelin’ Good」では、爽やかなグルーヴでBBBの現在地を刻み、ダンサブルでプロフェッショナルなステージが会場を大きな幸福感で包み込んだ。
次に現れたのはT-iD。俳優・井出卓也として幼少期からキャリアを重ねてきた彼は、舞台『ヒプノシスマイク』で音楽監督を務めたKEN THE 390との出会いをきっかけに、音楽のフィールドでも交流を深めてきた。軽妙なMCと、瞬時に表情を切り替えるステージングからは、長いキャリアに裏打ちされた巧者ぶりがにじむ。
「皆さんは、いつ死にますか?」
不意に投げかけられた問いから始まった「思い出にならない」。思い出になることを“消滅”と捉える独特な感性で綴る。〈置き去りにされた栄光が/まだまだ息をしてる〉とアコースティックな調べに乗せて切々とあらがう姿からは、多くを背負いながら生き続けてきた芸能人生の重みが伝わる。静まり返ったフロアから、大きな拍手が送られた。その余韻を受け止めるように、3月28日に控えるワンマンライブのタイトル曲「Defined D」で再びフロアを揺らして、次のステージに熱を繋いだ。
暗転したステージに青白い光が差し込み、呂布カルマが静かに登場。洞窟の奥から響くような冷えたビートに乗せ、温度感の低いラップを展開する。コートを脱いでMCを始めると、赤い柄シャツに、フリーメイソンにスカウトされたくて着けたという三角形が彫られた楕円形のベルトバックルが目を引く。
「リリシストガーデンって聞いてたんで、“リリックだけはめっちゃいい”みたいな集まりかと思ったら、イケメンとシュッとした奴ばっかりやんけ」
独自のリリシスト観で会場を一気に湧かせた。
〈小さいのより大きいの/細いのより太いのかつ逞しいの/イチモツ〉
「ICHIMOTSU」は“みんな違ってみんないい”そんな世相観を一蹴し、ミリ単位の本質だけにピンを刺す。ドスンと響く重低音が、“腹にイチモツを持って生きていけ”と力強く背中を押す。
20代でラップを始めた頃、KEN THE 390に褒められたという「夜行性の夢」は夜に働く女性を蝶に例え、幻覚を誘うようなサウンドも印象的だ。「夜職の人いますか」との問いに挙手した人はほとんどいなかったが、今夜この原稿を夜通し仕上げる予定の自分にとっては、これ以上ない応援歌となった。
イベントも終盤に差し掛かり、フロアからはじわじわと熱気が立ち上る。その期待に応えるように登場したのは、8人組ボーイズグループ OCTPATHのメンバー・KAIHO。点滅するライトのなか、派手なビートに乗せたラップでエネルギーを解き放つ。今日すでに2ステージをこなしてきたとは思えないパワフルさに、大きな歓声が湧いた。
得意のビートボックスでハンズアップを誘うと、友人の結婚式のために制作したという「For U」を披露。まっすぐに未来を祝うサビの〈フォーユー〉には、フロアから大きなレスポンスが返る。
「俺はいつだって自分を信じてるし、ブレない人生を生きたいと思ってる」
そう真摯に語ったあと、アカペラから届けられた「Just Day One」。「未来はいつだって変えられる」というメッセージと、今を全力で生きる彼自身の姿が強い説得力をもって重なる。
アイドルとして精力的に活動しながら、自身のリアルを語ることも決して手放さない。その逞しさに、この日いちばんのリスペクトを覚えた。最後は細かなヒットを効かせた得意のダンスを交え、「Anthem」でフロアを力いっぱい跳ねさせ、ステージを締めくくった。
〈あれは町田のFREAKSで 手にしたレコ盤〉
アカペラで始まる「Dreams」に続き、DJ HIRORONが聴き慣れたイントロを落とすと、フロアから「真っ向勝負!」の大合唱が巻き起こる。「いいねー!」と手応えを確かめるようにKEN THE 390が両手を振り上げ、会場は一気に最高潮へ。1バースを終えると「晋平太!」の声とともに、今年11月に逝去した2つ下の後輩・晋平太の声が流れる。
〈死者も生き返らす 病も近寄らず 正に医者いらず〉
眉間に力を込め、硬質なライムに声を合わせるKEN THE 390の動きはいつもより忙しない。最後のフレーズ〈9回裏二死満塁ツースリーからでもしろフルスイング〉に一言一言力強く重ねると「真っ向勝負ー!」と天を指さし、しっかりと届け切った。
「ガッツリ手上げて見せてもらってもいいですかね」と語りかけ、ハンズアップとともに始まったのは「インファイト」。オーディション番組『PRODUCE101』のトレーナーと受験者として出会ったKEN THE 390とKAIHOが、ステージ中央で拳を向け合う。さらに同じく受験者だったroomRも加わり、世代も立場も越えたセッションに、会場は大歓声に包まれた。
重めのビートに乗せて現れたのはBBBのSHUN。
「もう昔の曲は全部3年前の曲とするので」
KEN THE 390の無茶ぶりで披露された「What’s Generation」。14年前、19歳だったSHUNは笑顔で頷き、歌い続けてきたHIPHOPが今も現役であることを鮮やかに示す。
続く「Pop!!」では空気が一変。明るいメロディーに合わせ、2人が〈Pop!!〉を繰り返すたび、客席も手を振り声を重ねる。
〈今 始めて 弾けて 何度でも かき混ぜて〉
世代もスタイルも、かき混ぜることでまた生まれ変わる。
この夜、リリックで語られたそれぞれの“リアル”は、KEN THE 390の庭で新たな物語として刻まれた。
〈響く Beats に刻むヒストリー/世界にたった一つのストーリー〉
(ボコボコのMIC/晋平太)
人生の一遍が、音楽となって次の未来へと手渡されていく。
<セットリスト>
・roomR
01. Dance Now
02. Pay Back
03. オフィスからクラブ
04. タイトル未定
05. ATARASHI
06. Dobi-Dobi
・Beat Buddy Boi
01. Acapella Session
02. BBBのテーマ
03. BBOIスクランブル
04. BBOIスクランブル'25
05. THE BEAST (Remix) - SHUN feat. KEN THE 390
06. Beatbox Session Toyotaka × SHINSUKE
07. MPC Session RYO × gash!
08. MR.FANTASTIC
09. RTHⅢ
10. Feelin' Good
・T-iD
01. MASTER OUT
02. MASTER MYSELF
03. Analog Intelligence
04. Now or Never
05. 快晴
06. 思い出にならない
07 CONTINUE
08. 稼ぐ倍LIVE
09. Defined D
・呂布カルマ
01. SAMSAVANNA
02. SS+
03. Against the World
04. ICHIMOTSU
05. All back
06. Salamander
07. 夜行性の夢
・KAIHO from OCTPATH
01. Battle Player
02. I Don't Care
03. For U
04. Just day one
05. Anthem
・KEN THE 390
01. Nobody else
02. Break All
03. Overall
04. アカペラ (Dreams)
05. 真っ向勝負
06. Dreams
07. Turn Up (feat.KAIHO from OCTPATH)
08. インファイト (feat. KAIHO from OCTPATH、roomR)
09. Anything Goes (feat.roomR)
10. What's Generation (feat.SHUN)
11. Pop!! (feat.SHUN)
12. 乾杯
13. LEGO