flumpool「人生の最後に思い出すかもしれない」 冬のBillboard Liveで描いた温かくも儚い時間
flumpoolが、2年ぶりとなるBillboard Liveツアーを東京・横浜・大阪の3都市で開催した。12月3日に配信リリースしたばかりの「スノウゴースト」は、乃木坂46の五百城茉央が“冬の幻”を切なく好演したMVが公開1週間で早くも60万回再生を記録(※12月16日現在)。そんな話題の最新曲を含む全10曲、冬に似合うセットリストを、このツアーのための特別なアレンジで披露した。レポートするのは東京2日目の12月6日、2ndステージの模様である。
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ドレスアップした観客がテーブルで食事やドリンクを楽しみながら、心浮き立つ様子で開演を待っていた。Billboard Liveならではの格調高く華やいだムードの中、微かにジングルベルの音が聴こえてくる。SEが鳴り始めると2階の扉からメンバーが登場し、客席を通過する形で階段を降りてステージへ。阪井一生(Gt)、尼川元気(Ba)、小倉誠司(Dr)、サポートメンバーの杉本雄治(Pf)と吉田翔平(Vn)、そして最後に山村隆太(Vo)が位置に着くと、胸に手を置いて一礼。椅子に座り、バラード「見つめていたい」を歌い始めた。山村の歌に、杉本のピアノと吉田のヴァイオリンがそっと寄り添うようなアレンジで始まり、やがてメンバー全員が加わってアンサンブルを織り成していく。音数を増やしたり減らしたり、緩急のある大胆なアレンジは、移り変わる心模様をリアルに感じさせるようで実に繊細だった。このライブでは、演奏だけでなくコーラスワークも極めて大切な役割を果たし、人肌の温もりをしっかりと伝えていたことも特筆しておきたい。
曲が終わるとピアノ伴奏に乗せ、「皆さん、来てくれてありがとうございます」と感謝を述べた山村は、客席を見て「近いね」と少し照れ臭そうに笑い、「two of us」へ。立ち上がってステージを左右に歩きながら、友人に語り掛けるかのようなリラックスした様子で歌唱する。原曲のポップさを大切にしながらも、Billboard Liveに似合うジャジーなエッセンスを盛り込んだ心地好いアレンジに、観客はうっとりとステージを見つめていた。
「東京はこれでファイナル。やっぱりいいね、この距離感」と山村。「3度目、2年ぶりにBillboard Liveに帰ってきました。乾杯しませんか?」と呼び掛けると、唐突に吉田が割って入り、「これ、すごくいいドリンクですね」と新曲をイメージしたコラボドリンク“スノウゴースト”を手に語り始めた。すると、その流れでなぜか吉田が「皆さんのご多幸とご健康を祈って、乾杯!」と乾杯の音頭を取ったのである。阪井が「いや、主役ちゃいますよ? サポートメンバーですよ?」とツッコミを入れ、「すみません(笑)」と吉田。実は、本番直前にファンクラブ内コンテンツ『ふらよん!』の収録があり、flumpoolあるあるかるた(オフィシャルグッズ)で負けた人が乾杯の音頭を取る、という企画だったのだそう。経緯の種明かしは「正月のアップを楽しみにしていてください」と阪井が予告。ライブ序盤にして緊張感が解れ、flumpoolとファンの間に醸し出されていたのは、まるでホームパーティーのような和気藹々としたムードだった。
山村は『Snowy Nights Session』というツアータイトルに触れ、アルバム『Shape the water』という、“水”をかたどるということをテーマとした作品から始まった2025年を振り返り、「その繋がりで、“雪”で1年を締め括れたら」と想いを明かしていく。また、今年回った4つのツアーについても思い返しながら、「僕も、声が出なくてライブを中止したり……心の中で雪のように溶けた、あの頃の苦さもひとつの形。いい思い出も悪い思い出も、淡く儚く浮かび上がります。僕らの形の無い音楽が、皆さんの想いを雪の結晶のようにかたどる、そんなタイトルを付けました」とコメント。「雪のように触れちゃいけない、そんな想いを綴った歌です」という紹介から披露したのは、矛盾を内包した“大人の恋愛”を歌う「Love‘s Ebb and Flow」だった。
『Shape the water』からの意外な選曲だったが、紫やピンクの照明を使って妖艶に演出。山村の歌声は艶っぽく、尼川の繰り出すベースのフレーズには色気があり、阪井のギターソロは音の一粒一粒が煌めいて聴こえ、小倉のドラミングからは豊かな音の表情を感じた。成熟した今のflumpoolならではの色香が漂い、グルーヴィーなサウンドがBillboardの雰囲気によく似合っている。かと思えば、海中のようなブルーの光の中で「星に願いを」を真っ直ぐに奏でたのもまた美しく、これぞflumpoolと思わせる強さがあった。
「楽しんでますか?」と阪井が問いかけると、拍手で応える観客。すると山村は「美味しい、これ」とコラボドリンクにトッピングされた星形のフルーツを頬張った。先ほどまで曲の世界に入り込んでいたボーカリストとは思えない程の無邪気さである。ピアノ、コーラス、アコースティックギターと大活躍の杉本は、「flumpool、エグいなと思いました。こんなアウェイなところで、翔平さんにすごいことさせるなあと(笑)」と、乾杯の音頭のくだりを振り返る。阪井は「杉ちゃん、横浜も大阪もあるからな」と意味深な予告をして、杉本を困惑させていた。改めて紹介された吉田は「flumpoolは、かるたも強いバンド」とコメント、尼川は「それは自分たちで作ったから(笑)」とリアクションした。小倉は立ち上がって礼をして、「今日は来てくれてありがとうございます。上も横も、お客さんの表情がよく見えてます」と全方位のファンに挨拶をした。
「冬のBillboard Live、僕は大好きです。来年もやりたいくらい。こんなにリラックスしてできるライブはないです」と喜びを露わにした山村。そして「距離が近いってことは、それだけ見たくないものも見える。でも、このBillboard Liveの空間だけは本当に温かい」「こういう温かい時間は儚いけど、人生の最後に思い出すかもしれない」ともコメント。不安や、「想いを伝えられているのだろうか?」というもどかしさも、(マイナスではなく)「自分の心を動かすものだと思います」と表現し、そういったものを注ぎ込んだ曲として放ったのは、冬の名バラード「Snowy Nights Serenade~心までも繋ぎたい~」だった。
ミラーボールが煌めく中ジングルベルの音が聴こえてきて、情感豊かなメロディを温かな声色で丁寧に歌い届けていく山村。マイクを通さず歌唱したパートに息を呑み、バンド全員で音を鳴らして合唱した場面ではその高揚感に鳥肌が立った。リラックスした優しい笑顔で歌い終えた山村は、最後に「一足早いけど、メリークリスマス!」と挨拶。
「君に恋したあの日から」は躍動的なサウンドで楽しませ、山村はハンドマイクで歩き回りながら歌い、ファルセットを交えつつ艶やかな声を届けた。再びジングルベルの音が聴こえてくると、山村がアコースティックギターを構え、新曲「スノウゴースト」がいよいよスタート。雪の夜に今はもう会えない人への想いを迸らせる、切なくも美しいバラードの初披露として、Billboard Liveツアーは絶好の舞台である。ステージの床や客席の壁には、雪の結晶をかたどった光が投影され、儚く揺らめいていた。山村は切々と歌い、メンバーはその心情にシンクロしたエモーショナルな演奏を聴かせる。曲が終わると、余韻に浸るような間があってから、力強い拍手が沸き起こった。「スノウゴースト」がflumpoolの新たな代表曲に育っていくことを確信するパフォーマンスだった。