ブランデー戦記はステージの上でただ強烈に生きていたーー力強くも繊細で、美しいバンドの本質に触れて

 11月6日、Zepp DiverCity (TOKYO)で開催されたブランデー戦記のワンマンライブを観た。『BRANDY SENKI TOUR 2025 AUTUMN』という、シンプルなタイトルが付けられた東阪ツアーの東京公演である。僕がブランデー戦記のライブを観るのはかなり久しぶりで、最後に観たのは確か2024年の夏、2nd EP『悪夢のような1週間』が出た頃だった。会場は恵比寿LIQUIDROOM。あの日のライブは、静けさと激しさが混ざり合うようなライブだった。あの日、ラストに「ストックホルムの箱」をやっていて、最終的にバンドはタガが外れたようなスピードで突っ走っていった。誰に要請されたわけでもなく、ただ、走らなければいけないから走っている、という感じだった。ブランデー戦記は強烈に生きていた。僕はあれから1年以上ぶりに、彼女たちのライブを観たことになる。

 進化は一目瞭然だった。蓮月(Vo/Gt)、みのり(Ba)、ボリ(Dr)の3人によるアンサンブルは、より大きなスケール感と安定感を抱いている。厚みと、生々しさと、しなやかさと、きめ細やかさを兼ね備えた演奏は素晴らしかった。ステージセットもゴージャスになっている。3人はそれぞれの立ち位置に設置された白い台の上で、通常のステージよりも高い場所で演奏した。時折、蓮月とみのりは楽器を奏でながら颯爽とジャンプして、白い台から飛び降りた。その光景は美しかった。ステージ上には、大きさや色が少しずつ異なる丸いオブジェがたくさん飾られており、それがファンシーで、見ようによっては白昼夢のように幻想的な空気感を生み出している。曲の世界観に応じて空間を照らし出す照明もすごい。特に「The End of the F***ing World」や「悪夢のような」といったダンサブルな曲が披露されたときの、獰猛なほどに煌びやかな照明演出。今、自分が幸福か不幸か?ーーそんなことすらどうでもよくなるような、あのギラついた空間は忘れがたい。

蓮月(Vo/Gt)
みのり(Ba)
ボリ(Dr)

 去年は恵比寿LIQUIDROOMで、今年はZepp DiverCityなのだから、会場の規模は着実に大きくなっている。演奏のクオリティもどんどん高くなっていき、ステージセットや演出もより凝った、リッチなものになっている。そうすれば自ずと、その装飾によってバンドの本質は覆い隠されていきそうなものだが、ブランデー戦記の場合はそうではないのだな、と思った。ポップミュージシャンとして、逞しく、屈強に進化を遂げていくほどに、ブランデー戦記は自分たちの本質をより露わに、より明け透けに、世界に開示している……そんな感じがした。眩い照明に照らされながら、素晴らしい演奏に象られながら、1年前もそうであったように、蓮月は変わらず、「何に勝ったか」ではなく「何に負けたか」を歌い、「支配すること」ではなく「魅了されること」について歌っていた。誰もが自分を「強い側にいる」と錯覚したがっているように見える中で、蓮月の歌はあまりにも特別なものに僕には思える。

 この日、蓮月は「今日、本当はライブをしたくなかった」と言った。「ビジュアルも納得いかないとみんなに見せたくないし、演奏もたくさんしたい。完璧にしたいけど、その気力がないときでもライブはしないといけないから、申し訳ないし、疲れてしまって。私が一番神聖で大事だと思っている楽曲制作にも影響が出てしまうんじゃないかと思って、不安だった。……でも、みんなの顔を見て、ライブをやってよかったと思った」と、彼女は言った。お互いがお互いを監視し合って、粗を探して、隙あらば、相手をグサリと刺そうとしている……そんな時代にあって、ブランデー戦記だけは、自分たちの一番柔らかな部分を世界に曝け出していた。眩い照明は、その柔らかくて、弱くて、高貴な部分を照らし出していた。もし、誰かが粗を探してグサリと刺そうとしてきたとしても、そんなことはどうでもいいのだ。音楽がすべてだ。ブランデー戦記の、この美しさの前で、そんなことは本当にどうだっていい。

 綺麗で、儚くて、優しいライブだった。ライブ中に、蓮月は何度かゆっくり呼吸を整えていた。照明が落ちて、次の曲が始まるのをその場にいる全員が待っている中で、「私の気持ちが切り替わったら(次の曲を)やります」と言った場面があった。どれだけゴージャスなライブになっても、リズムを司っているのは他人じゃない。リズムを司るのはブランデー戦記の3人だ。音楽家なのだから、それは当たり前のことなのだ。リズムは彼女たちの側にある。そこに僕ら観客のリズムが繊細に重なることで、この日の、あまりに美しいライブは生まれた。3人は、この日も最後は「ストックホルムの箱」で、他の誰にも制御できないような速度で爆走した。1年ぶりに観たライブでも、ブランデー戦記は強烈に生きていた。音楽を追いかけて。

■リリース情報
ブランデー戦記 1st ALBUM『BRANDY SENKI』
リリース日:2025年5月14日(水)
価格:
通常盤(UMCK-1794) ¥3,000(税別)
初回限定盤(UMCK-7268) ¥7,000(税別)

<収録曲>
◇CD(全形態共通)
01.The End of the F***ing World
02.Coming-of-age Story
03.春
04.ラストライブ
05.水鏡
06.悪夢のような
07.27:00
08.メメント・ワルツ
09.Kids
10.Musica
11.ストックホルムの箱
12.Fix
13.Untitled

◇DVD(初回限定盤のみ)
BRANDY SENKI – STUDIO LIVE 2024
Coming-of-age Story
Musica
Kids
悪夢のような
27:00
ストックホルムの箱
Fix

購入リンク:https://brandysenki.lnk.to/1stALBUM_CD
各配信サービス:https://brandysenki.lnk.to/BRANDYSENKI

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