矢沢永吉が東京ドームに刻んだロックスターの生き様 ソロ50周年、76歳で伝説を更新した熱狂のステージ
続くMCでは「古いラブレター」のように自身が30歳前後だった頃のナンバーを歌いたかったという心境を明かす。そして「ドームってでかい、遠いよね。矢沢行きますよ」と、ツアータイトルが書かれた旗がなびくハマーに乗り、「永ちゃんコール」が鳴り止まないペンライトが光る会場内を、時どき「近いぜ!」「ロックンロール!」と叫びながら1周する。
ステージに戻った矢沢が披露するのは、娘のシンガー・矢沢洋子とともに歌う「Risky Love」。父娘の歌声がシンクロする、うれしいサプライズパフォーマンスに会場が湧く。シャツを脱いで黒のTシャツ姿の矢沢がしっとりと披露する「HEY YOU…」の後は、赤と青のビームが客席に差し込む中でハードな「黒く塗りつぶせ」。「バックコーラスが聞こえない!」と時には観客をあおりながら、コール&レスポンスで客席の一体感を盛り上げる。そして「A Day」の美しいピアノ音が響くと、客席から歓声が湧く。輝くシルバーのジャケットを羽織った矢沢が、ステージ前に張り出した花道の先端にゆっくりと歩きながら感情豊かにこの曲を歌いあげた後は、間髪入れずに「時間よ止まれ」が始まる。大人気曲なだけに客席からはどよめきが起きる。
そして「矢沢をバチッと支えてくれるグレイトなメンバー」と、信頼厚いバンドメンバーを一人ひとり紹介していく。最高潮に達した客席が映し出されながら「YOU」「逃亡者」へ。続く「真実」では、星空のように照明が光り輝く中で花道に移動する矢沢にスポットライトがあたる。いつの間にかステージバックにはオーケストラが並び、この曲をドラマティックに盛り上げる。曲が終了し、矢沢が左右正面、三方向に深く頭を下げて本編が終了する。
演奏前に「Mr.Eからのお願い」とハッピーなコンサートにするためのルールがアナウンスされていたのだが、そこにはアンコールからは周りに配慮した上での“声出し解禁”とあった。「ここからが自分たちの出番」とばかりに、一段と気合いが入ったように見える客席のあちこちから「永ちゃんコール」が沸き起こっている。程なくして、白の上下がキマった矢沢が登場すると、客席の熱狂が最高潮に達する。
「鎖を引きちぎれ」では力いっぱいの永ちゃんコール、タオル投げ。ステージバックの映像に映し出された観客の笑顔も弾けている。続く「止まらないHa〜Ha」では矢沢は白のハットを着用。この曲でも「待ってました」とばかりに観客も大合唱。矢沢の表情も満足そうだ。ラストナンバー「トラベリン・バス」ではゴールドのテープが客席に放たれ、煌めく照明の中で花火が上がる。大歓声の中、矢沢が客席に頭を下げ手を振ってステージを後にし、約2時間20分の華麗なコンサートが幕を閉じた。
矢沢永吉とは日本のシンガーソングライターというだけでなく“生きざま”であり、その魂を継承するファンが作り上げてきた“現象”だ。会場に足を運んだ観客の多くは、半世紀以上を生きてきたベテランたちでファン歴も長いはず。広い会場には、同じ気持ちを共有した「矢沢の同志」が集まっている感覚がした。矢沢の信頼が厚いそんなファンと共に作り上げたコンサートの一体感は、他ではなかなか味わえるものではない。ドーム2daysの後、全国ツアーへと旅立つ、矢沢永吉。日本に住む者なら、音楽ファンなら、ロックファンなら、この“現象”をその目で観ておくべきだと思う。