Sou「この景色をあの頃に自分に見せたい」 10年前の自分と対峙した『水奏レグルス』フィーチャー公演
今年メジャーデビュー10周年を迎えたSouが、豊洲PITにて『Sou LIVE 2025「水想レグルス」』を開催した。タイトルどおり、2015年に発表された自身の1stアルバムにしてメジャーデビューアルバム『水奏レグルス』をフィーチャーしたプレミアムライブだ。
「あの頃にやり残したことを、今日、届けにきました!」
2013年に“歌ってみた”動画を投稿して活動を開始したSou。すべてオリジナル曲で構成された初のEP『Utopia』までは、その投稿の多くはボカロ曲のカバーが大きな割合を占めていた。『水奏レグルス』も15曲中11曲がカバーであり、アルバムを携えてのワンマンライブは行っておらず、当時の彼は、まだインターネットのなかに存在する“歌い手”だった。
「周りからも『ワンマンライブをやらないのか』とずっと言われてて。でもずっと逃げてたんです。人前に出ることが苦手で、マジで引きこもってるタイプの人間なので。格好良い動きとかも出来ないし。そういうのがあって自分はワンマンライブをやっちゃいけないんだろうなっていう葛藤があって……」(※1)
これは、Souが初のワンマンライブで語った言葉だ。イベントへの出演はあったのものの、自身の名前を冠したライブから「逃げていた」という彼が、今ではコンスタントに全国ツアーを行い、海外公演やホールライブも開催している。自分の楽曲で、自分の声で、目の前の人に歌を届けること。その喜びを知ったうえでもう一度2015年に還り、Souは何を感じたのだろうか。一夜限りのライブは、彼のこの言葉で幕を開けた。
「あの頃にやり残したことを、今日、届けにきました!」
幻想的なSEから、「右に曲ガール」冒頭の靴音に切り替わった瞬間、大きな歓声が湧いた。軽やかなサウンドに乗せて歌いながら、「みんな一緒に!」と声をかけるSou。ステージの端から端まで歩いてオーディエンスを煽る姿に、Souも観客もこの日を待ち望んでいたことが窺える。
背面のビジョンに流れていたのは、“歌ってみた”動画として投稿された時の映像。最新のCG映像やアニメーションとは違い、手作り感溢れるリリックビデオが懐かしく、“あの頃”の空気が会場内に甦る。リアルタイムで動画をチェックして画面越しに応援していた人がこの場にいるかもしれないし、Sou自身も映像を見てきっと当時を思い出しただろう。時空を超えて、この夜にしか生まれない情景が広がっていた。
音楽で辿る、Souとしての10年間
セットリストは「もし当時ライブをやっていたら」をテーマに考えたということで、アルバム収録曲のほか、記念すべき初投稿曲「独りんぼエンヴィー」や、「心做し」「ドーナツホール」など幅広い楽曲を披露。2010年代らしい孤独や焦燥感を孕むシニカルな楽曲が多いが、それらが少年のような瑞々しさを持つSouの声で歌われると、ポジティブかつポップに届くのが面白い。無垢な透明感を保ちながら、10年間で身につけた多彩な表現力を堪能した。
「10年越しに『水奏レグルス』のライブをするのは不思議な感覚です。このライブができたのは、このアルバムをたくさん聴いてくれて、色褪せずにいさせてくれたみんなのおかげなので。本当にありがとうございます。この景色をあの頃に自分に見せたいよね。(会場を見渡しながら)『すげえ!』って言いそう(笑)。感慨深いです」
はにかみながら想いを語って最後のブロックへ。アルバムのラストを飾る壮大なバラード「StarCrew」を経て、ドラマチックな「世界寿命と最後の一日」で本編は締め括られた。儚さと力強さを併せ持つ今の歌声だからこそ、バンドアンサンブルと相まって楽曲の世界がより一層深く、広く感じられる。ひとりで歌い始めてから、たくさんの人々と繋がってきたSouの歩みと重なって胸が熱くなった。盛大な拍手と声援に「ありがとう」と告げ、Souはステージをあとにした。
アンコールでは、今年8月にリリースされた「ブルースクリーン」を皮切りに2025年ゾーンへ突入。おいしくるメロンパンのナカシマ(Vo/Gt)が書き下ろした「千里眼」を初披露し、研ぎ澄まされたサウンドに乗せて複雑なメロディを歌いこなしてみせる。しっかりと最新モードを見せ、最後に自身が作詞曲を手掛けた「Terminal」が贈られた。
〈暗くて狭い部屋の隅で/ただ奏でたから〉と始まり、最後に〈君に会いに行く/僕らは出会う〉と歌われるこの曲は、Souの歴史を辿る今夜にふさわしい楽曲だ。Sou自身が「初めて伝えたいことを言葉にしたいと思って、みんなへの気持ちを昇華した曲」と紹介していたとおり、彼の抱く想いが優しいメロディとともに心に沁みわたった。
ライブ恒例の「Souだけに?」「爽快!」というコール&レスポンスもしっかり盛り込み、過去最多曲数となる全26曲を駆け抜けたSou。10年前の自分自身とのリンクは、現在の彼の背中を押し、未来に進む大きな力となったに違いない。
※1:https://realsound.jp/2019/05/post-365934.html