サバシスター流のパンクで示す“ありたい姿” 氣志團とのコラボも大いに沸いた『JUST PUNK ROCK TOUR』初日
2024年の幕開け、PIZZA OF DEATHとタッグを組みサバシスターがメジャーデビューを発表するタイミングで、なち(Vo/Gt)と横山健の対談(※1)を担当した。初めてのロングツアーを経験し、思わず涙ぐんでいた渋谷クアトロワンマン公演を見たのは同年7月だ(※2)。あれから1年と少し。2ndアルバム『たかがパンクロック!』を携えてのツアー初日(10月23日)が、クアトロの倍近くのキャパであるSpotify O-EASTで、チケットが即完していることに驚いた。快進撃にビビったわけではない。なちの佇まいが出会った頃とまるで変わらないことに驚いてしまったのだ。
その前にゲストの話だ。ステージに登場するは自称「昭和の負の遺産(笑)」である氣志團。サバシスターの3人が生まれるよりも前にスタートした6人組で、改造バイクや揃いのリーゼント姿は若者にとって「おぉぉ、本物だぁー!」と興奮できるヤンキー文化の結晶だろう。誰もやらないことを頑なに守り通してきた彼らのステージは、もはやエンタメとして完璧に仕上がっている。笑わせ楽しませることがメインだが、結局は仲間たちのチームプレイありきなところがバンドマンの心意気だ。
白眉は代表曲「One Night Carnival」。綾小路 翔が「俺たちの最強レディースを紹介するぜ」と呼び込んだのは、白の特攻服にグラサンをかけたサバシスター! イントロと共にフロント5名による圧巻のダンスが始まっていく。これはもうサバシスターのツアー初日というより一夜限りのスペシャルな宴と呼ぶべきか。まったく共通点のなさそうな大先輩の懐に飛び込んでいく胆力も意外と言えば意外である。「これをやると、こう見られてしまうかも」よりも「楽しそうだから、やる」が先なのだ。なお、余談であるが、ダンスのキレが最もよかったのはごうけ(Dr/Cho)。さすがはドラマーなのだった。
お楽しみ時間を経て始まるのがサバシスターのステージだ。最新アルバムの1曲目「JUST PUNK ROCK!!」をSEに、なち、るみなす(Gt/Cho)、ごうけが飛び出してくる。メンバーは3人だがライブはサポートベースのDくん(サトウコウヘイ)を含めた4人で成立する。全員が市松模様のボトムで揃えていたのも、より結束を高めているチームの今を象徴していた。
フレッシュな応援歌、結成当時からあるポップな名曲、そしてニューアルバムのカラフルなロックンロールが次々と連打される。メンバーの幸せそうな笑顔は最初から変わらないが、受け止めるファンの熱量、全曲で巻き起こるシンガロングが圧巻だ。別にバンドは「かかってこい」とか強気なことを言うわけではない。アルバムタイトルに『パンクロック』の文字を入れてはいるが、何かに反発している様子もない。象徴的なのは「ポテサラ」で、気に入らない〈あいつ〉のことを歌ってはいるが、ドロドロした怨念は皆無。ポケットやVANSにポテトサラダを〈つっこんどこう〉と企んでいる曲なので、大量のファンを巻き込んだ“ポテサラー!”の大合唱は爆笑必至の一体感をもたらすのだ。
正直なところ、サバシスターがやっているのはパンクと言っていいものかよくわからない。『クレヨンしんちゃん』公式スピンオフアニメ『野原ひろし 昼メシの流儀』エンディング主題歌として書き下ろした「今日のごはんはなんだろな」など、平和すぎるし可愛すぎるだろうとも思う。ちなみにこの曲で、なちはピアニカ(鍵盤ハーモニカ)も演奏。パイプではなくホース吹きでの演奏だ。
ふと思い出したのは、なちの父親世代にあたるロックシンガーから聞いた言葉。「ピアニカ、縦(パイプ吹き)でやりたいんだけど、あれだと鍵盤が見えなくなる。ホースじゃ格好悪いっしょ」というものだった。その時は「そうですね、ホースは格好悪いかも」と頷いたが、なちはそんなことお構いなくホースで吹く。「これをやると、こう見られてしまうかも」がまったくないのだ。ここから続くのが新作の中でも特に印象的な春の歌、バンドを始めた高校時代の気持ちを歌う1曲だったので、しみじみと考えてしまった。
〈バンドをやった/今だけはじゃましないで/今だけは自分のためにいれるよ〉(「春、思い出すこと」)
そんなふうに歌う彼女は、小柄なことも相まって、今も子供のように見える。サバシスターがあれよあれよと話題になり、メジャーデビューして2年目だというのに、ずっと変わらない原点のままでいるように見える。チャンスだからどう見せたい、ここは格好よく振る舞っておこう、といった打算が何もない。ただ自分のために必死にバンドをやっている。こうした一途さにほだされて、まずPIZZA OF DEATHが巻き込まれた。さらにはPIZZA好きのパンクキッズが巻き込まれ、次にマネジメントやレーベルの名前も知らない若者たちが吸い込まれていった。それがサバシスターの現状ではないか。実際の音楽性は関係ない。ありたい自分であれているか。自分のために生きているか。この一点にこそ彼女たちのパンクロックがある。
高速ショートチューンを並べた後半はバンドにとって初のリアルパンクゾーン。凄まじいシンガロングは「なちがやりたかったこと、伝わってると思えた」とフロントマンの目を潤ませるほど。「ここからあと33本もある。このツアーでは泣かないことが目標」と語る様子はいたいけな少女のようだが、隣でるみなすとごうけがスカッと笑っていたのもよかった。実際は頼り甲斐も意地も備えたフロントマンなのだろう。言葉よりも曲は雄弁。「覚悟を決めろ!」を筆頭に、ラスト近くに放出された曲たちは今の心意気を語るものばかり。ツアーが終わるのは来年4月、その頃なちの表情はもっとタフになっているのか、あるいはずっと変わらない原点のままなのか。今から楽しみにしておきたい。
※1:https://realsound.jp/2024/01/post-1537116.html
※2:https://realsound.jp/2024/07/post-1717581.html