由薫、25歳の現在地と自分自身に向き合う日々 ドラマ『推しの殺人』主題歌「The rose」で手にした気づき

私は自分の人生を生きて、その足跡を曲にしていきたい

――どんな流れで楽曲制作をされていったんですか?

由薫:主題歌のお話をいただく前から「The rose」のもととなる楽曲を作っていて。この曲は絶対に明るくなんてしないし、ただ暗くて展開もシンプルにして、「でもいいじゃん、私ってこうなんだから」という気持ちで作っている時に、『推しの殺人』の話をいただいて。私が書こうとしているメッセージと、ドラマがリンクすると思ったので、そこから『推しの殺人』を踏まえて歌詞を仕上げていきました。何より、自分のトゲトゲした気持ちが何だったのかを読み解くヒントにもなりましたね。タイトルにある通り、殺人という絶対にダメなことをしたところから物語が始まっていく。でも、読み手や受け取り手は気づいたら3人を応援しているんです。それって、正しさや間違いの域を超えてるじゃないですか。それプラス、私は原作を読んでいく中で女の子たちが美しいと思ったんです。でも、明らかに間違ったことはしているんですよね。

――殺人と隠蔽ですからね。

由薫:そう。「じゃあ何がそんなに美しく感じるんだろう?」を考えたら、『推しの殺人』で描かれているのは、トゲがないきれいなバラの美しさじゃなくて、守りたい存在のために身を削りながら、ボロボロになっても懸命に咲こうとする姿を見て、感動して泣いてしまうような美しさがある。なので、それを曲のテーマにしようと考えました。これは自分の体感なんですけど、今は世の中のムードが怒りとか恐怖が多い気がするんです。それをもろに受けた音楽があってもいいんじゃないかな、って。どうしようもなく暗い、朽ちていく花の歌だけど、そういう曲があってもいいんじゃないかなと思って作りました。

――僕はキラキラした幸福感に満ちただけの作品や存在を目にすると、ちょっと引いてしまう時があるんですよ。そんなはずはない、って。だからこそ、歪さやほころびが見えると人間らしくてホッとすることがあるんですけど、由薫さんはどうでですか?

由薫:私もその感覚はあります。今って、“きれいなもの”がエスカレートしていってる気がしていて、その象徴的なもののひとつがアイドルだと思うんです。アイドルによっては、ずっとニコニコすることがプロなのかもしれないし、実際このお話でもそういうアイドルらしさを求められる複雑な気持ちも描かれてるけど、本当は100%完璧なものなんてないと思う。人間の顔だって完璧な左右対称よりも、そうじゃないほうが美しく見えるっていう話もある。余白があったほうが美しいんじゃないかな、って。それはライブやインタビューもそうだと思うんですよ。

――完璧じゃないほうが面白かったりしますよね。

由薫:はい。MCで何を話すかを完璧に決めて喋ったり、インタビューで質問の答えを事前に用意して完璧に話すとか、それは違うんじゃないかって気持ちがあって。私、この瞬間もちゃんと考えてから喋ろうと心がけているんです。そもそもインタビューって、人と人との対話で成り立っている。インタビュアーさんがおっしゃってくれたことに対して、私がどう思ったのかとか、そういう伸び縮みの部分が“本当の会話”な気がするんです。完璧を目指したりとか、自分をパッケージングしようとしない。それが最近のテーマでもあります。「ちょっと綺麗事を言ってしまったな」と後悔することもあるから、血の通った言葉を喋れるように意識していますね。表面でやろうと思えば、うまくできちゃうじゃないですか。

――うん、わかります。

由薫:あらゆるパターンに対する答えを用意して、それをただ出すことだってできる。エモいMCもやろうと思えばできるけど、そのあとに納得できない気持ちに陥ると「自分の言葉じゃなかったのかもしれない」と思うことがあるので。それは「The rose」のテーマとも通じる気がします。自分の心境をリフレクトした曲になったと思います。

――ちなみに、「The rose」は〈プライドだけ残るけれど〉〈代わりのいるyoung〉など歪さや鋭利な歌詞もある中、愛する人に対して自分のすべてを捧げようとする自己犠牲の美しさを感じました。

由薫:これまでだったら、曲中の課題を解決する方向に流れや展開を作ってとか、いろいろ考えていたと思うんですけど。そういう定石を手放して、思ったように歌詞を書いたら、まさに“君”や“守りたいもの”に対する一本の筋が見えてきて。これこそが本質だなと思って、曲を書きながら自分も勉強になりました。

――作品が完成して、まわりの反応はどうですか?

由薫:メロディや歌詞を何度も書き直して、スタッフの方の反応を仰いだりとか、とにかく妥協せずに作っていったんです。なので、完成した時は「いい曲だね!」とスタッフさんたちに褒められたのがすごい嬉しくて。最初はトゲトゲした気持ちで作っていた曲だけど、皆さんからポジティブな意見をもらえて嬉しいのと、自分の存在を主張した一曲になっているのかなと思っていて。

――先ほども「自分の居場所をどうやって作ろうかと考えていた」と言っていましたよね。

由薫:この曲を作ることは、自分を見つめて、居場所を探す作業でもあって。世間にアーティストがごまんといる中で、それでも私は音楽で生きていきたいから、しっかりと「ここに私はいます」と叫ばなきゃいけない感覚が強くあったんです。そういう意味でも、自分の存在を示す一曲になった。曲調、ボーカル、歌詞も含めて「現在の私はここにいます」という一声の楽曲なんです。今はまだスタッフさんしか聴いてないけど、みんなはすごくいい曲だと信じてくれていて。これは悪い意味ではなく……「The rose」は大衆に受け止めてもらえるイメージを持っていなかったんです。出発点が世間に対するアンチテーゼだったから。だけど、そういう広い世界の暗闇みたいな曲に、居場所という隙間を見つけて感じてくれる人がいたらいいなって思います。

――ちなみに、今作が25歳一発目の楽曲なんですよね。

由薫:あ、たしかに!

――「The rose」をお聴きしてたことで、由薫さんが30代に向けてどう変わっていくのかが楽しみになりました。

由薫:私もです! 最近はスタッフさんから「ボーカルがよくなってきた」と言ってもらうことが多くて。自分自身を一つひとつ見直したりとか、改善しようと意識してきたことが、ちょっとずつ実を結び始めてるのかなって思います。前まで楽曲制作のスランプに陥っていたんですけど、そこから楽曲をいっぱい書こうと頑張って、完成にこぎつけたのが「The rose」です。

――由薫さんの指針となった楽曲でもあるんですね。

由薫:今思うのは、何か大きい目標があって、それを成し遂げるシンガーソングライターというよりも、私は自分の人生を生きて、その足跡を曲にしていきたい。そういう音楽がしたいのかもしれないな、と思います。30歳に近づくにつれて、また新しく考えることがあったら、その時にも曲にすると思う。誠実に歩いていきたいですけど、どうなるのかは自分でも全然わからないです(笑)。

――20歳から25歳までは早かったですか?

由薫:いろんな出来事を考えると、長かったかもしれないです。音楽を通してそれだけ濃厚な時間を過ごさせてもらえたな、って。あと、「人って変われるんだな」と感じますね。音楽を始めた17歳の時とは別人になってると思う。自分が変わることを楽しみながら、ちゃんと大事な部分には立ち返って……という風にどんどん大人になっていきたいです。この5年間の変化が大きかったぶん、次の5年間もすごく変われる可能性があると思うし、未知数なことが待っているなって思います。

■リリース情報
Digital Single『The rose』
配信中

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