Daichi Yamamoto、“パーソナルな表現”だからこそ手にした普遍性 STUTS、Benjazzyら参加『Secure +』レビュー

 日本とジャマイカにルーツを持つ京都出身のラッパー Daichi Yamamotoは、特異な存在感を醸すアーティストだ。硬いライミングと、歌心のあるフロウを鮮やかに使い分け、作品ごとにさまざまなタイプのビート/トラックに乗る。メロディメイカーとしてのセンス、そしてラッパーとしてのスキルの高さは疑いようもない。過去には、その高いスキルをぶつけ合うようにラッパーと共演する場面ももちろんありながら、中村佳穂やAi Kuwabaraなど、ヒップホップ以外の多彩なアーティストと共作する一面もあり、多岐にわたる音楽性の趣向を感じさせる。

 自らの作品を精力的にリリースしながら、多くのアーティストの客演仕事も鮮やかにこなす身軽さを持ちながら、内省的な情景を映すことの多い彼のリリックは、パーソナルなものに迫っていくことによって、むしろ多くの人に届くような普遍性を獲得しているとも言えるだろう。多くのリファレンスや言葉遊びに溢れながら、生活の観察的、または主観的なスケッチと、感情の移り変わりを繊細に映す鮮明なレトリックが印象に残る。特に、今年亡くなったラッパー/ビートメイカーのJJJと共作したアルバム『Radiant』は、セルフボーストから自らのルーツの話を紡いでいくようなストーリーテリングで、リリシストとしての力を最もわかりやすく見せていただろう。

 『Radiant』を経て、いくつかのEP作品を挟んだのち、リリースされた最新作『Secure +』は、昨年12月にリリースされたEP『Secure』に楽曲を追加し、曲順も含め一枚のアルバム作品として再構築した作品である。Benjazzy、STUTS、Elle Teresa、MFS、鈴木真海子と、客演陣も多彩なメンツが揃った。一枚のアルバムへと拡大させたことで、EPとはまた違った情景の広がりを見せ、より豊かな瞬間や音楽的な自由さを獲得している。

 まず言えることは、過去作と比べても本作はオーセンティックなジャズ、ソウル、R&Bといったルーツへのリスペクトや愛がより大胆かつストレートな形で出ている作品であるということだ。1曲目「Orange Juice」でクインシー・ジョーンズへ追悼を捧げ、中間曲にはハードなラップソングも交えながら、ネオソウル的なムードを醸す瞬間もいくつかある。特に、「なんとかなるさ」はゴスペルのコーラスが盛り上がりを見せるこのアルバムのハイライトで、抑制された作品のムードに灯をともすようなゴージャスさを感じる楽曲になっている。

Daichi Yamamoto - なんとかなるさ [ Official Music Video ]

 同時に、まさに今のシーンだからこそ生まれたようなナンバーにも溢れている。前述した『Radiant』収録の「F1 (feat. CFN MALIK)」という楽曲で、若手筆頭のラッパー CFN MALIKを迎え入れ、滑らかなアルバムのなかにスパイスを注入していたことを思い出すような、Benjazzyと共演した「O2 (feat. Benjazzy)」におけるDJ MAYAKUによる子どもの声から始まる変則的なトラック、同郷のプロデューサー 4LONが手掛けるElle Teresaとの共演曲「夜中の爪 (feat. Elle Teresa)」での鋭く刺すシンセの音など、スムースなだけではない、ある種の引っ掛かりやグリッターな感覚を時折仕込むことによって、感情が乱れていく混沌を表現したようなサウンドも印象的だ。

 これまで以上に内省的な恋愛の楽曲を経て、刹那的な情景が浮かぶKMプロデュースの楽曲「1999」などによって、感情の動きを激しく捉えていくアルバムは、最終曲「メルセデス」に行き着く。4LONが再び手がけながらも、「夜中の爪 (feat. Elle Teresa)」とは対照的なセンチメンタルでメロウなトラック、そして人々の繊細さに寄り添うリリックである。

 Daichi Yamamotoの巧妙なストーリーテリングは、アルバムを通して自らの感情に向き合うことによって最終的には聴いている我々に語りかけているようだ。彼の前向きで、ひたむきなメッセージとその姿勢は、その切実さゆえに、豊かなサウンドとともに胸に残る。

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