氷川きよし、“演歌以外”の楽曲が持つ魅力 ポップス、ジャズでも光る確かな歌唱力と表現力
10月7日放送の『うたコン』(NHK総合)に、氷川きよしが出演した。
この日の放送は「日本人が愛したジャズ」特集。氷川は、かつて美空ひばりも日本語でカバーした名曲「虹の彼方」(原題「Over the Rainbow」)を届けた。高低差のあるメロディを、抑揚をつけながら情感豊かに歌い上げた氷川。「ジャズは自分にとって挑戦」と歌唱前に話していたが、20年以上に及ぶ歌手としてのキャリアのなかで積み重ねてきたものがしっかりと表れたステージだった。
今回の放送でジャズに挑戦した氷川だが、これまでにも演歌に限らず多彩なジャンルの楽曲を歌いこなしてきた。実は、氷川は最初から演歌歌手を志望していたわけではなく、演歌に出会う前はポップスを好んでいたことでも知られている。複数のジャンルを横断しながら届けられる作品群からは、氷川きよしという表現者の歌声の魅力がさまざまな形で堪能できるのだ。
氷川の転換点とも言える作品のひとつは、2017年にリリースされた「限界突破×サバイバー」だろう。冒頭からアグレッシブなギターが響くロックチューンで、氷川のボーカルは終始パワー全開とばかりに突き抜けていく。人気アニメ『ドラゴンボール超』(フジテレビ系)のオープニングテーマというタイアップ効果もあり、氷川の世間的なイメージを覆す作品となった。
そんな「限界突破×サバイバー」も収録されたアルバムが、2020年リリースの『Papillon(パピヨン) - ボヘミアン・ラプソディ-』である。デビュー翌年の2001年に河村隆一プロデュースによってKIYOSHI名義でリリースした「きよしこの夜」をはじめ、過去にもポップスにチャレンジしてきた氷川だが、同作が自身初のポップスアルバムとなった。特に収録曲のひとつ「Never give up」はR&B調のナンバーで、自身がkii名義で作詞も手掛けている。小気味よいリズムに乗せて歌われる〈自分を生きてゆこう〉というメッセージは、氷川が歌うからこそより説得力を増して聴こえる。
2021年にリリースされた「Happy!」は、華やかなホーンアレンジが印象的なポップチューン。映画『老後の資金がありません!』の主題歌であり、歌詞の〈踊り明かそう/歌い明かそう〉を表すように、明るいメロディを高らかに歌いこなしている。
テレビアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』(フジテレビ系)のエンディングテーマに起用された2018年リリースの「見えんけれども おるんだよ」も、同じくアップテンポなナンバー。曲中で何度か登場する曲タイトル〈見えんけれども おるんだよ〉というフレーズも、時に低音でおぞましい雰囲気を出したり、時に高音でクリアに歌い上げたりと、変化を見せているあたりに氷川の表現力の幅広さが感じられる。
そして、今年6月にリリースされたシングルの表題曲、氷川きよし with t.komuro名義での「Party of Monsters」も、また違った一面が見えた楽曲だ。「見えんけれども おるんだよ」に続く『ゲゲゲの鬼太郎』のタイアップで、小室哲哉が作詞曲とプロデュースを務めたテクノチューン。忙しないメロディを気迫たっぷりに歌い上げたかと思いきや、切ないボーカルも響かせる。曲中で繰り広げられるラップも、リリース直後から話題となった。
演歌やポップス、ロックと、多彩なジャンルの楽曲を歌いこなす氷川。『Papillon(パピヨン) - ボヘミアン・ラプソディ-』のリリースに際して2020年8月に『アナザースカイⅡ』(日本テレビ系)へ出演した際には、「やっぱ演歌のほうがいいじゃんって言われたら、せっかく出したのにって思っちゃうし、いいねって思われるものにしたい」と語っていた(※1)。歌に長年向き合ってきた経験は演歌以外にも活きているはずだ。同番組では「ポップス系を歌うことで、演歌の良さもすごくわかる。演歌を歌いたいってなる」とも口にし、幅広いジャンルへの挑戦が表現力をさらに広げる一端をになっているようにも思える。
11月19日には約4年ぶりとなるオリジナルアルバム『KIINA.』の発売も控え、今後氷川がどんな歌を届けてくれるのか楽しみだ。


























