TETORA「今日だけの秘密基地へようこそ」 純度100%の“本気”で駆け抜けた日比谷野音ワンマン

 3ピースバンド・TETORAの『HITORIJIME CLUB TOUR』のツアーファイナルが、2025年9月20日に東京・日比谷公園大音楽堂にて行われた。本ツアーは、会場限定シングル『ミッドナイトカモフラージュ』のリリースも兼ねた、全国7都市を回るワンマンツアー。TETORAにとって初の日比谷野音でのライブとなる本公演は、本編31曲、アンコール2曲の全33曲という盛りだくさんのセットリストで届けられ、今の彼女たちの魅力を以てここまでの軌跡を振り返りながらも、しっかりと前を見据えて進んでいこうという輝く未来を感じることのできたライブだった。

 ソールドアウトで迎えられたこの日、後方までめいっぱい埋まった客席から放たれる期待感を肌で感じた。そんな高揚感が満ちる中、開演時間になると、上野羽有音(Vo/Gt)、いのり(Ba)、ミユキ(Dr)がステージに登場。雨雲で隠された夕焼けの光をステージで表現するような、彼女たちのシンボルカラーとも言える暖かいオレンジの光の中で、3人がドラムセットの前に集合し、呼吸を合わせる。そして、〈魔法で岩を/割れなくてもいい/ヒーローみたく/強くなくていい〉という上野の独唱から「3月」でライブがスタート。「日比谷でワンマン、最初で最後のワンマン。TETORA始めます!」との言葉を合図に、いのりとミユキが加わり、いよいよTETORAの挑戦が始まった。そこから「本音」と「贅沢病」で、疾走感たっぷりにスタートダッシュを切っていく。

上野羽有音(Vo/Gt)

 そんな中、ここまでギリギリ耐えていた雨がざっと降り出すが、その様子を見て上野は「いい天気やなー!」と笑った。個人的に思うのは、野音で降る雨は、この会場でライブをするアーティストへの洗礼のひとつだということ。TETORAはこの悪天を悪点として捉えてライブをするのか? それとも、好転させるのか?──そんなことを考えていたが、彼女たちは「虫の声、雨の音、カッパ着てる音、タオルを頭に乗せてる音……せっかくの野外なので、この湿気も、この音も、このステージの裏のビルとか周りの木とか、ライブ以外のそういうのも全部、こびりついちゃえばいいのになと思ってます」と、この環境を丸ごと受け入れて、五感全てでこの一瞬一瞬を楽しもうとしていた。「たった1日の、私らの秘密基地」と呟き、カラフルな照明の中、温もり豊かな「バースステイアライブ」に続いて演奏された「ハテナ」は、そんな状況にピッタリな歌だなと思った。「雨だとわかっていたのに、来てくれてありがとう!」と上野は感謝を伝えていたが、こういう時だからこそ気づける愛や温もりがあること、そして、そんな時だから相手をより思いやれること。〈どんなものにまで優しくなりそう〉という歌詞の通り、オーディエンスとステージの間に優しさの交差が生まれたようだった。

いのり(Ba)
ミユキ(Dr)

 〈あなた以外と過ごす/幸せを選ぶよりも/あなたと過せる不幸せを/わたしは選ぶのでしょう〉と、甘酸っぱいよりもっと“苦くて苦しい”恋心を歌う「11月」を皮切りに、等身大の恋愛を綴ったナンバーを次々とプレイ。失ってわかること、失わないと気づけなかったこと、手を取り続けるために見て見ぬフリをしてきたことへの罪悪感、後悔、不安、情けなさ。そんな人間らしい想いを真っ直ぐに綴る「ずるい人」や「今日くらいは」、「今さらわかるな」を、自分と重ねるかのようにじっと聴き入るオーディエンスの姿が印象的だった。「ずるい人」では、正面からのライトに照らされて、バックに大きくメンバーのシルエットが映し出されていたのだが、大掛かりな照明を使わないシンプルな演出が、生活の中に湧き起こるささやかな気持ちを表現しているようだった。

 日比谷野外大音楽堂は、老朽化のため再整備工事が行われ、2025年10月1日から使用休止となる。ロックの聖地と呼ばれているこの会場でのライブ公演は、この日のTETORAのワンマンライブを含めてあと4回。その状況を振り返り、上野は「いろんな人が力を貸してくれてギリギリこの野音のステージに立たせてもらって、みんながこの日をソールドアウトにさせてくれました。ほんまにありがとうございます!」と感謝を告げた。そして、「この場所を選んでくれたこと、初めてTETORAを観てくれる人、その人の前でおもっくそやらせてもらいます! このステージ、せっかく立たせてもらったから、100点のライブは絶対にやりたくないと思います。その代わり、お互いに純度100%を楽しめたらいいなと思います! 今日しかない、今日だけの秘密基地へようこそ」と語り、新曲「ミッドナイトカモフラージュ」を届けた。そして「一緒に歌って!」と叫んだ「抱きしめてるもの」では大きなシンガロングが沸き起こり、一気に加速していく。ミユキのパワフルで躍動的なドラミングが加速度を上げ、いのりのベースラインが気持ちよく力強く牽引してくれる。その力に引っ張られ、「7月」や、心ときめくポップチューン「9月」、そして「I’m sad」と続くにつれて、オーディエンスのテンションもみるみる上がっていったのがわかったし、「この日比谷の歴史の1ページに入れさせてくれてありがとうございます!」と叫ぶ上野の声にも昂りが見えた。

 今のTETORAのモードについて、「思いきり、私ら3人が呼吸できることをやりたい」と話したTETORA。新しく作り上げたレーベル Orange Owl Records所属のバンドとしての誇りを掲げ続ける彼女たちは、昨年夏には日本武道館での単独公演を成し遂げ、今夏は初の主催フェス『KAKUSHINCLUB」を立ち上げ、今回は日比谷野音での単独公演を開催したりと、順調に進み続けているように見える。それでも日々迷い、壁にぶち当たり、戸惑うこともあるのだろう。自らの力を誇示せず、周りに感謝し、愛を伝え続ける彼女たちだからこそ、しっかりと歩みを進めてこれたのだろう。これからも共に進んでいきたいという気持ちと共に「一緒に育てたい」と託された「ピースシーズ」は、より胸に響いた。

 高校時代に観たTHE BLUE HEARTSのライブ映像で存在を知り、カッコいい先輩バンドが数多く出演している日比谷野音に対して憧れ続けてきたと話し、「対バンのTETORA、ワンマンのTETORA、フェスのTETORA、大阪城野音のTETORA、武道館のTETORA、このツアーでもらったもの、いろんなものを混ぜて、混ぜて、今夜全部超えにきました! 余裕ゼロで、がむしゃらにやりたい! 私らの今日だけの歌! ここにいる人だけが、今日あったことを全部感じていってください!」と気合いを入れ直し、ハードなボトムと鋭利なギターリフが強烈な「ハチク」をきっかけに、「強がりと本気は違うから、本気の方でいかせてもらいます! 雨の歌!」とスタートした「6月」、迫力のツービートが会場を揺らした「嘘ばっかり」など、一瞬の隙なくライブが白熱していく。「イーストヒルズ」では、「このステージの上で、正解や不正解ではなく、生き様を見せたい! 正解と不正解の間、ど真ん中に、自分自身がいく選択肢があること、忘れたくない!」と叫んだ。

 〈ここに立つと いつも何か/不安になるんだよ〉と歌いながら、それらを乗り越え、受け入れ、憧れのステージに立っている彼女たちは、威風堂々と「とおい」を届け、カウントを合図にミラーボールが回り出して作り上げられた幻想的な空間の中、TETORAの不屈の信念を宿した「レイリー」を堂々と歌い上げた。上野は「TETORAは、私の背骨みたいなものなんかなと思いました。正解・不正解ではなく、自分自身という選択肢でこれからも戦いたいと思います。お互いこれからも自分自身がしっかり戦えますように!」と願いと約束を込めて、ラストの「12月」へ。ドラマティックな照明とフロアいっぱいに突き上がった拳の中で、眩しい「Loser for the Future」を最後に届けた。

 音止め時間ギリギリの中でも鳴り止むことのないアンコールに応えて登場した3人は、「わざわざ」と、「人生で初めて作った曲!」という「もう立派な大人」をプレイ。「めちゃくちゃ楽しかった! 次はライブハウスで待ってるから!」と、アンコールワンマンツアーとなる『HITORIJIME CLUB TOUR OKAWARI TIME』へ向かい、この日またひとつ大きく成長したTETORAは、等身大の一歩を踏み出していった。

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◾️ライブ情報
『TETORA「HITORIJIME CLUB TOUROKAWARI TIME」』
2025年
10/20 新潟GOLDEN PIGS BLACK STAGE
OPEN 18:45 START 19:30

11/3 福島 郡山HIPSHOT JAPAN
OPEN 16:45 START 17:30

11/14 愛媛 松山WstudioRED
OPEN 18:15 START 19:00

11/21 福岡 小倉FUSE
OPEN 18:15 START 19:00

11/29 三重 松阪M'AXA
OPEN 17:15 START 18:00

12/6 香川 高松DIME
OPEN 16:15 START 17:00

12/26 神奈川 厚木Thunder Snake
OPEN 18:15 START 19:00

2026
1/21 兵庫 神戸太陽と虎
OPEN 18:15 START 19:00

2/1 宮崎FLOOR
OPEN 16:15 START 17:00

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