山崎まさよしの楽曲は時代を越えて愛される――デビュー30周年オールタイムベスト『山崎見聞録』世代別クロスレビュー

■40代:三宅正一
「再発見したのは、2025年の感触を伴って響く山崎まさよしの音楽的魅力」

 正直に告白すると、筆者は山崎まさよしに関して特別明るいリスナーというわけではない。しかし、30周年という節目に際して改めて彼の楽曲と向き合う中で、今回選出した3曲とじっくり対話する時間を持った。現代の時代性とも照らし合わせながら楽曲を聴き直すと、そこで再発見したのは、2025年の感触を伴って響く山崎まさよしの音楽的魅力だった。

「セロリ」(1996年)
── 繊細な豪胆さに込められた憎めないチャーミングさ

『セロリ』(1996年)

 筆者にとって最も思い入れのある山崎まさよしの楽曲だ。リリースは1996年9月。山崎にとってメジャー3枚目のシングル曲である。ご多分に漏れずというか、筆者が山崎まさよしの存在を認識したのが「One more time, One more chance」であり、この「セロリ」はその1作前のシングル曲となる。SMAPが、草彅剛主演のドラマ『いいひと。』(フジテレビ系)の主題歌としてカバーし、大ヒットしたことから後追いでオリジナルバージョンを聴いたリスナーも多いだろう。SMAPがこの曲をシングル曲としてカバーしたのは、オリジナル曲のリリースの翌年で、その短いタームも今にして思えばなかなか稀有な事例だったなと思う。

 SMAPバージョンにはエレピの際立たせ方などポップスとしてソフィスティケートされたアレンジが施されていて、都会的なイメージが拡張された印象を持つ。しかし、山崎のオリジナルバージョンは冒頭から印象的に楽曲のドアを開けるハーモニカしかり、あくまでルーツミュージックとしてのブルースが基軸としてあり、そこにレゲエの意匠もミックスされている。この曲の大きなフックとなっている早口パートもラップというよりは、レゲエにおけるトースティングのスタイルを採用している。リムショットやティンパニを効果的に用いた南国の香りを漂わせるリズムセクションやグルーヴを支えながら過不足なく躍動するベースライン、空間を広げるオルガン、多彩なギターワークなど、改めて聴くと、アレンジも実にきめ細かで、楽しい。

 リリックに登場するのは、育った環境と好き嫌いが異なる恋人を思い、時にすれ違いながらも、互いに歩み寄っていこうと提案する男。不器用にもがきながら、最終的に〈つまりは 単純に/君のこと好きなのさ〉という、身も蓋もない、しかし、なんとも憎めないチャーミングな答えにたどり着く。

 最初に聴いた10代後半から、筆者は幾度となくカラオケでこの曲を歌ってきたが、改めてじっくりなぞると、音と言葉で遊びながらリアルなラブソング像を追い求め、それでも〈つまりは 単純に/君のこと好きなのさ〉で結んでみせる山崎まさよしというシンガーソングライターの「繊細な豪胆さ」のようなものが、40代の今、味わい深く沁みる。

「晴男」(2006年)
── 違いを肯定する包容力に富んだオプティミズム

『ADDRESS』(2006年)

 2006年6月にリリースされたオリジナルアルバム『ADDRESS』収録。この曲もまたレゲエ調のアレンジが印象的な楽曲である。コアなファンの方々にとっては周知の事実だと思うが、本稿を執筆するにあたり選曲する過程で、山崎まさよしの楽曲にレゲエやダブのフレーバーを取り入れているものが多いことを知り、それが彼の歌うたいとしての"陽性"を照らす大きな要素になっているのだと気づいた。

 〈東京に生まれて阪神を愛してても それはそれでいい〉というフレーズは、ある意味ではとても現代的な価値観を提示していると思うし、「セロリ」同様、人と人は違う生き物であると受け入れることから始まるラブとピースについて、山崎がソングライターとして向き合い続けていることがわかる。

 この「違いをそのまま肯定する」視点は、若い頃には少し照れくさく響いていた。しかし歳を重ねるにつれて、家族や仲間、仕事や暮らしの中で実感をもって受け止められる言葉になったと思う。

 その上で人生はなるようになる、個性は勝手に育っていく、想像力に限界はない、というような、子どもにも大人にも並列に語りかける包容力に富んだオプティミスティックなメッセージ性が、山崎まさよしの音楽像における魅力の一端を担っていると確信する。

「Fat Mama 〜from 『7th COLORS』〜」(2022年)
── 理屈を超えたファンクネスの快楽

『YAMAZAKI MASAYOSHI Tour 2022 ”7th COLORS”』(2022年)

 オリジナルバージョンは、「One more time, One more chance」や「セロリ」も収録されている出世作のセカンドフルアルバム『HOME』の1曲目を飾っている。オリジナルもかなりライブ感を意識したラフなミックスが施されていて、バンドサウンドが泥臭くタイトに転がっていくスピードファンクといった様相だ。まさにライブのために生まれた曲、といった感じ。

 そして、このライブバージョンは、イーブンキックとオーディエンスによるハンドクラップを皮切りに、性急なストリングスのリフがけたたましく鳴り響き、濃厚なファンクネスがオリジナルよりもさらに粘度高く充満していく。シンプルに、めちゃくちゃカッコいい。

 リリックはファンクマナーに則った女性賛歌であり、タイトルもブラックミュージックの文脈ではもちろん蔑称などではなく、ふくよかでセクシーな存在感を持った女性という意味として冠されている。当時のこの楽曲における「Fat Mama」は単なる女性像ではなく、若い男性が抱く理想化された母性の象徴として読める。現代の社会通念的にはこういったリリックは生まれにくくなっているのは間違いない。それでも、2025年の今聴いても、シンプルにめちゃくちゃカッコいいと思うのも、ひとつの答えだ。

 あらゆるカルチャーを享受する際に重要なのは、過去の表現を現在の尺度でのみ断罪するのではなく、その時代の文脈の中で理解しつつ、同時に音楽そのものが持つエネルギーを素直に受け取ることかもしれない。90年代の「Fat Mama」的な母性への憧憬も、現代の個人の自立を重視する姿勢も、それぞれの時代における真実なのだ――と、思わず難しいことも考えてしまったが、結局、汗まみれになって踊りたくなるようなこの曲にあるファンクネスの快楽は、理屈を超えたところにある。

『山崎見聞録 ~30th Anniversary All Time Best~』

■リリース情報
山崎まさよし
30周年オールタイムベストアルバム
『山崎見聞録 ~30th Anniversary All Time Best~』
2025年9月25日(木)発売

<Disc-1>11曲
1 「月明かりに照らされて」(1995)
2 「セロリ」(1996)
3 「長男」(1997)
4 「僕はここにいる」(1998)
5 「灯りを消す前に」(1999)
6 「やわらかい月」(2000)
7 「Plastic Soul」(2001)
8 「心拍数 ~from 『Transit Time』~」(2002)
9 「全部、君だった。」(2003)
10 「僕らは静かに消えていく」(2004)
11 「8月のクリスマス」(2005)

<Disc-2>10曲
1 「晴男」(2006)
2 「アドレナリン ~Recorded Live on 23rd December 2007~」(2007)
3 「Heart of Winter」(2008)
4 「ア・リ・ガ・ト」(2009)
5 「花火」(2010)
6 「ふたりでPARISに行こう ~from 『Concert at SUNTORY HALL』~」(2011)
7 「星空ギター」(2012)
8 「道」(2013)
9 「ベンジャミン ~from 『HARVEST』~」(2014)
10 「21世紀マン」(2015)

<Disc-3>12曲
1 「空へ」(2016)
2 「願い」(2017)
3 「Eyes On You」(2018)
4 「影踏み」(2019)
5 「Updraft」(2020)
6 「温かい手」(2021)
7 「Fat Mama ~from 『7th COLORS』~」(2022)
8 「世界の果てまでありがとう」(2023)
9 「フリト」(2024)
10 「One more time, One more chance ~劇場用実写映画『秒速5センチメートル』Remaster~」(2025)

-BONUS TRACK- (CD作品のみ収録)
11 「ヤサ男の夢」(1995 Demo Track)
12 「僕はここにいる」(1995 Demo Track)

■関連リンク
山崎まさよし
Official Site: https://www.office-augusta.com/yama/
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YouTube: https://www.youtube.com/@yamazakimasayoshi-official

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