SNSクリエイター・ゆーり×ボカロP・原口沙輔 特別対談 正解を“作らない”制作スタイルに迫る

TikTokを中心としたショート動画のプラットフォームでの発信からZ世代の注目を集め、2024年4月には、初のオリジナル曲「ハート111」でデビュー。以来、原口沙輔楽曲プロデュースのもと、最新曲「イイナ祭」までのデジタルシングル10曲をリリースしてきたSNSクリエイター・ゆーり。そんな彼女の初のアナログ盤LP『Yuri Tracks 1』が2025年9月6日にリリースされた。
現在YouTube再生回数5,400万回にのぼる「人マニア」(2023年)でボカロPとして大成した原口沙輔。その固定観念を打ち砕くトリッキーなサウンドメイキングによって、ゆーりの“ガチャボイス”が存分に引き出されている。楽曲制作スタイルや、レコーディング現場でのやり取り、挑戦を重ねて完成したLPについてふたりにじっくり語ってもらった。(小町碧音)
「人マニア」との出会い、“50の単語”から始まる異色な楽曲制作法
ーー8月29日〜 31日に開催された『YouTube Music Weekend 10.0 supported by PlayStation』にて、ゆーりさんは初のスタジオライブ映像を公開されていましたね。ライブは初めてですよね?
ゆーり:そうです。スタッフさんもいっぱい見ている環境で、何をどうすればいいのか、どこを見ればいいのかがわからなくて。いつもはダンスはダンス、レコーディングはレコーディングだから、歌いながら踊ることもないし。イヤモニをつけて歌ったことも新鮮でした。とにかく疲れたなって(笑)。
原口沙輔(以下、原口):もう、ゆーりさんのエネルギーがものすごくて。MCもない中で、歌とダンスの両方をやるのは大変だろうなと思いながらも、僕はひたすら、いい絵になればいいなと隣で見ていました。ライブの流れと音源は制作させてもらったんですけど、まさかこんなにハードになるとは思っていなくて。本当に申し訳ないなと(笑)。最終的にちゃんとこなしてくれたので、素晴らしいなと思いましたね。
ゆーり:後から映像を観返してみて、「これ、本当に自分なのかな?」と思いました。ネット上でありがたい反応はいただいたんですけど、直接お客さんの前で歌ったわけではないので。もっとこうできたな、という反省点もたくさん出てきました。



ーーゆーりさんはこれまでにSNSクリエイターとしてたくさんのショート動画を投稿されてきていますね。2023年からは歌ってみた動画も投稿されるようになりましたが、昔から音楽はご自身の中でどういう位置づけにあったんでしょうか。
ゆーり:両親がふたりともピアニストなんですよ。なので、幼い頃からずっと音楽に触れていて、ピアノもずっと習っていました。あと、小さい頃から音楽会とかミュージカルに家族で行く機会が多くて。小学校5、6年生の時にブロードウェイへ『ライオンキング』を観に行ったんですが、同じ年くらいの年の子が舞台に立って歌ったり踊っていたのを見て、「めっちゃかっこいい!」って。同じ年くらいの子がこんなに頑張っているなら、自分もステージに立ってみたいなと思ったのが、歌をやってみたいと思った最初のきっかけです。
ーー2024年4月からは沙輔さんをプロデューサーに迎えて、本格的にオリジナル曲制作に取り組まれているわけですが、お二人が制作をともにすることになった経緯は?
ゆーり:私は「人マニア」を初めて聴いた時に、最初に「何これ?」と思ったんです。世界観なのか音作りなのか、自分でもどこに惹かれたのかわからないながらもとにかくめちゃくちゃハマって。それでスタッフさんに「この方の楽曲がすごく面白いので聴いてもらえませんか」と提案して、曲を一緒に作る流れになりました。
原口:ゆーりさんのスタッフさんから連絡がきたんですよ。熱い長文と、ゆーりさんが僕の「人マニア」を歌った動画が同時に送られてきて、どんな人なんだろう? と調べたんです。最初に強く印象に残ったのは“声”ですね。結構声の通るところが“鋭くて”、耳に入ってくるんです。だからこそこれだけ多くの人を惹きつけているんだろうなと思いました。
ーーゆーりさんのオリジナル曲の制作はどういう流れで進めているんでしょうか。
原口:まず、2〜3曲をまとめて作る前に、ゆーりさんから大体50くらいの単語をもらうんですよ。あまり深く考えずに、パッと思い浮かんだものをくださいって。そこで送られてきた単語を見て、こういう気分なのかなとか、こういうことに興味があるのかなと想像しながら歌詞を書き進める。その中で“人が気になる部分”をフックとして作っていく感じですね。
ーー人が気になる部分?
原口:もともとこの企画は、ショート動画文化で聴いてもらえる音楽に向き合ってみようというところから始まっているんです。正解があるわけではないので、とにかくいろんなことを試してみようと。普通の音楽制作だったら、何かしらフックになるような音とかフレーズを取り入れて作ることになるんですが、今回は違う。ゆーりさんのスタッフさんとも話をして、逆に気になる部分から作ってみようというコンセプトで始めました。
ーーたとえば、ゆーりさんはどんな単語を送っているんですか?
ゆーり:普段の生活の中で考えていることだったり、最近起きた出来事から単語を送っています。
原口:基本、何かしらに疑問を持ってますよね?
ゆーり:え、そうですか?!
原口:そんな気がします。インターネットとかショート動画で観たんだろうなと思う内容が多くて。文春に載ってそうな見出しみたいな単語もよく入っていて、穏やかじゃないなと思うこともありました(笑)。普段は50単語のうち、こことここは共通しているから、こういう曲ができそうみたいに何曲かに分けるんですけど、その時だけは、全部が一方向だったから、1曲分にしかならなかった(笑)。
ゆーり:一応、毎回沙輔さんに送る前にスタッフさんが一度確認してくれるんですよ。そこで「すみません、今思い浮かぶ言葉がこれしかなくて。これ以上考えても本当に何も出てこないので、めっちゃ言葉が荒いんですけど、ごめんなさい」みたいに送って。そしたら「いや、大丈夫ですよ」って、単語がそのまま送られていて(笑)。
ーー沙輔さんは単語を受け取ってから、ゆーりさんの持ち味を楽曲にどう活かしているんでしょうか。
原口:正直、ゆーりさんが何かするだけで気になって見る人はいるし、歌声だけで惹きつけられる人はいる。なので、それを無駄にするようなことはしたくなくて。最悪、声だけでいいんですよ。それにプラスしてリズムとか効果音を少し添えるくらい。なので、声とか表現に集中してもらうために“主張のない音楽”を意識していますね。
ゆーり:語感の表現が特徴的な「ハート111」「カシカ」「カンタンミュージック」とかはデモを聴いたときに「どういうテンションで歌えばいいんだろう?」と毎回悩んでいて(笑)。一方で「ウシロジカン」は高音が出るのかどうか、そもそも歌えるのかとか、どの曲も違った難しさがあります。


















