Maverick Momが切り拓いた『フロンティア』 Sundae May Club、Ochunismと示した新世代バンドシーンの胎動
開拓された地域の最前線を指す言葉、“フロンティア”。自分たちにしか鳴らせない唯一無二の表現を目指して突き進むアーティストが集う場所こそ、その名にふさわしいのかもしれない。
2025年9月6日に東京・渋谷 CLUB QUATTROで開催された『Maverick Mom presents「フロンティア vol.1」』は、そんなことを実感させられたイベントだった。主催のMaverick Momを筆頭に、OchunismとSundae May Clubといった個性的なメンツが集結。それぞれがありったけの才能を煌めかせ、新たな時代の始まりを鮮明に映し出したのである。
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トップバッターを飾ったのは、長崎発のウルトラスーパーポップバンド・Sundae May Clubだ。「Sundae May Club のテーマ」に乗せて浦小雪(Vo)のスカッとした歌声が響き渡ると、場内は早々に爽やかな初夏のムードへ。清濁併せ吞む渋谷の喧騒を、一瞬にしてブライトなサウンドで染め上げた。音がしゅわしゅわと弾けていく「サイダー」、キッチュな持ち味が溢れ出る「サボン・セシボン」と、彼女たちの勢いは止まらない。時に視線を合わせ、時に背中を預け、楽しみながら音楽と向き合っているメンバーの雰囲気がステージから伝わってくる。あまりにも心地よい一体感に触発され、観客も自然にユラユラと揺れていた。ラストは、みんなで「ワーン、ツー!」とカウントして、哀愁漂う「夜を延ばして」をドロップ。エモーショナルな音質とメロディは、一人ひとりの夜の記憶に優しく寄り添っていく。血の通ったパフォーマンスで、オーディエンスの人生を温めたのだった。
関西出身のStrange,Dance,Rock Band・Ochunismは、サイレンのようなSEに誘われて登場。ポジティブなエネルギーが詰めこまれた「Zero Gravity」を投下し、中毒性の高い世界観へと即座に巻き込んでいった。彼らにかかれば、観衆を躍らせるのだってお手のもの。クラップを鳴り響かせたり、ハンズアップでフロアを埋め尽くしたり、一丸となったライブを展開していく。「Ride On!!」が引き連れられてくる頃には、すでに彼らは〈アクセル全開〉。曲を重ねていくたびに、妖しくもパワフルなオーラが増していった。このままぶち上げモードでいくのかと思いきや、「glass」や「I Need Your Love」といったメロウなナンバーで魅惑的に惹きつける一幕も。固定観念に捉われない、ドラマチックなステージこそ彼らの魅力なのだろう。「GIVE ME SHELTER」で〈ありのままで 踊りたい〉という魂の叫びを刻みつけ、鮮烈な爪痕を残したのだった。
そして、いよいよ真打ちMaverick Momのお出ましだ。南出大史(Vo/Gt)は「東京、ここからまだまだいけるか!」と呼びかけると、伸びやかに歌声を響かせて「ジーニアス」へ。その熱量にほだされたのか、場内の至るところから勢いのいい歓声が立ち上る。オープニングで会場の空気を完全に掌握し、軽やかに自分たちのテリトリーへ引き込んでいく。ファンキーな音像に妖艶さが溶ける「Fancy」、各パートのソロでスキルを魅せつける「Monster」と、磨き上げられたナンバーを連投。リズムや節回しが目まぐるしく変化するMaverick Momワールドを遺憾なく繰り広げていった。
「イエローメッセンジャー」に突入しても、抜群のグルーヴは健在だ。ロックもHIP HOPもジャズも飲み込んで、自分たちならではのカラーで鳴らしていく。さまざまなジャンルを内包しているにも関わらずバンドが散り散りにならないのは、4人が同じ方向を見つめているからなのだろう。力強く舞台を踏みしめながら「旅立日記」を披露する姿なんて、メインストリームを張れるアーティストの佇まいそのもの。意識が目の前の一人ひとりに向いているだけでなく、もっと大きな会場を意識して演奏していることが、メンバーの視線やプレイから伝わってくる。最新曲の「徒花」も意気揚々と魅せつけ、クライマックスに向かってアクセルをグッと踏みこんだ。
MCでは「すごく烏滸がましいかもだけども、いろんな人のパワーを借りて、それを糧にして、もっとやりたいことがいっぱいあるので。楽曲だったりライブだったり、いろいろ示していこうと思います」と真っ直ぐな決意を語る南出。「あげてこう、渋谷!」と語り掛けると、その熱意を全ベットして「アスニヒカル」へとなだれこんだ。中野武瑠(Gt)が軽やかにメロディックなリフを弾きこなせば、タイゾー(Ba)は歌心のあるフレーズを弾き出し、ON(Dr)は歌詞を口ずさみながら快活なグルーヴを生み出す。用意された音や言葉をなぞるだけではない、生きた音楽がハツラツと呼吸する。SNSでヒットチューンとなっている「儚夏」が奏でられると、会場の熱気は最高潮に。サビではフロアのそこかしこで拳が突き上がり、渾然一体となった空間が作り出された。最後には、一緒に未来を生きていく決意を歌った「青く、春」を投入。瑞々しく希望に満ちたシンガロンを創出し、ヒロイックに本編の幕を下ろしたのだった。
壮大なアンコールに呼び戻され、再び4人はステージへ。南出は「病み上がりで(ライブが)不安だったんです」と正直な胸のうちを告白し、さらには「自分たちは想いを伝えようというふうにやってるんですけど、逆に来てくれた皆さんからも楽しんでくれてることが伝わってきて。僕にとって特別な時間になりました。本当にありがとうございます!」と真っ直ぐに感謝を述べる。ステージが大きくなったって、想いを誠実な言葉にできる温かな人柄は変わらない。エンディングは「ZONE」と「Super Face」で徹底的に盛り上げ尽くし、夏の残暑に負けない激熱の一夜を作り上げたのだった。