ピーナッツくん「Stop Motion feat. 魔界ノりりむ」バイラルチャートイン ネットカルチャーの新しい形を示す試金石に?
Viral Chart Focus
Spotifyの「Daily Viral Songs(Japan)」は、最もストリーミング再生された曲をランク付けした「Spotify Top Songs」とは異なり、純粋にファンが聴いて共感共有した音楽のデータを示す指標を元に作られたランキング。同チャートの9月10日付のTOP10は以下の通り(※1)。
1位:Snow Man「カリスマックス」
2位:CORTIS「GO!」
3位:CORTIS「What You Want」
4位:セカンドバッカー「犬とバカ猫」
5位:ピーナッツくん「Stop Motion feat. 魔界ノりりむ」
6位:Number_i「未確認領域」
7位:TAKUMI & KYOSKE(INI)「プロポーズ」
8位:SYOYA「fix」
9位:JO1「ひらく」
10位:KOTA「Rainbow Road」
今回取り上げるのは、ピーナッツくん「Stop Motion feat. 魔界ノりりむ」である。同楽曲は、9月8日付デイリーバイラルチャートで初登場2位にランクイン。以降1週間にわたり10位圏内をキープしている。
ピーナッツくんとは、YouTubeに投稿されているショートアニメ『オシャレになりたい!ピーナッツくん』の主人公だ。落花生をモチーフにしたキャラクターと軽妙な語り口が特徴だが、アニメとは別に楽曲も多く発表しており、その確かな音楽性でVTuberラッパーとしても人気を博している。ローファイやチップチューンの要素を取り入れたトラック、脱力感あるラップが特徴で、メタファー、口語、描写を巧みに取り入れたリリックは、途中のブロックでメッセージとHIPHOPのセオリーを詰め込んだような展開を見せ、斬新なストーリー性が癖になる。ピーナッツくんというキャラクターがあるからこそ、作り込むことができたのでたろうポップス性が、独自の世界観になっているのだ。アルバム制作やコラボレーションにも積極的に取り組む姿勢からは、ネット発カルチャーの自由さを音楽に昇華するプロデュース能力の高さを垣間見ることができる。
そんなピーナッツくんが、にじさんじ所属VTuber・魔界ノりりむをゲストに迎えて制作したのが「Stop Motion feat. 魔界ノりりむ」だ。りりむは配信でもお馴染みのアニメボイスが特徴。可愛らしく少しのあどけなさを宿すりりむの声質と、ピーナッツくんのラップと鮮やかなコントラストを描く、楽しさが弾けるポップチューンに仕上がっている。2人の掛け合いも聴きどころのポイント。それぞれのキャラクターがそのままサウンドに反映され、ユニークな世界観を見せながら、クオリティの高いポップスとしての存在感を残してくるのはさすが。
サウンド面では、耳に残るシンセサイザーの音色やローファイな質感のドラムス、時折挟み込まれる効果音、ボーカルのエフェクトなど、遊び心が満載。この“遊び心”をリスナーと共有できるのが、この楽曲の最大の魅力だろう。つまり、曲そのものがユーザーの遊び心をくすぐっているのだ。
実際にチャートアクションにもそれは表れている。本曲のほかに、幾田りらやPUNPEEとのコラボ曲も収録されたピーナッツくんのアルバム『Tele倶楽部Ⅱ』は、今年8月20日にリリースされると、Billboard JAPANのダウンロードアルバムチャートで4位を記録。さらに楽曲単体でも、Billboard JAPAN「Heatseekers Songs」チャートで6位になっている。Spotifyデイリーバイラルチャートも然り。初動の勢いから、リスナーの自発的な利用や共有が短期間で大きく働いていることが読み取れる。SNSでの切り取り動画やUGC(ユーザー生成コンテンツ)による拡散が順位を押し上げ、TikTokや配信アーカイブとの親和性の高さが数字に直結したと考察する。
近年では、にじさんじやホロライブに所属する海外ライバーたちの楽曲が英語圏でもストリーミングで聴かれ始めている。その多くはアイドルポップ的なサウンドが主流だ。その中で今作がユニークなのは、脱力感あるラップとアニメボイスの掛け合わせで、既存の“Vアイドル楽曲”の枠を外れ、実験的な方向に進んでいる点だ。これは海外リスナーにとっても「日本発ネットカルチャーの新しい形」として今後さらに広く受け取られていく可能性がある。
「Stop Motion feat. 魔界ノりりむ」は、今後の展開次第で“VTuber音楽”の立ち位置を一段引き上げる試金石になる可能性を秘めている。
※1:https://charts.spotify.com/charts/view/viral-jp-daily/2025-09-10