新着MVランキング:井口理の歌声が『国宝』にもたらしたものとは? 主題歌「Luminance」に満ちる深い余韻
MV Chart Forcus
毎週更新される「YouTube Music Charts」ウィークリー ミュージック ビデオ ランキングより、MVをはじめとした音楽関連の新着動画から上位10作品/楽曲を取り上げ、ランキング化&レビューしていく連載「MV Chart Focus」。8月29日〜9月4日のウィークリー新着のTOP10は以下の通り(※1)。
1位:Snow Man「カリスマックス」Dance Practice
2位:DJ MARU feat. DJ SHACHO, 戦慄かなの「Who is waiting ?」MV
3位:原摩利彦 feat. 井口 理(King Gnu)「Luminance」主題歌MV
4位:HoneyWorks「今、恋がはじまれ。 feat. 望月あずき(CV:高橋李依)」
5位:PiKi「88888888」映画『8番出口』コラボレーションムービー
6位:GINTA「呼ばれてないけど、俺行きます」MV
7位:ME:I「THIS IS ME:I」『2025 ME:I 1ST ARENA LIVE TOUR "THIS IS ME:I"』
8位:ピーナッツくん「Stop Motion feat. 魔界ノりりむ」MV
9位:TREASURE「PARADISE」MV
10位:BE:FIRST「Secret Garden」Dance Practice
今回取り上げるのは、現在公開中の映画『国宝』の主題歌「Luminance」のMV。本MVは映画のヒットを記念して公開されたもので、実際の劇中シーンを映しながら、King Gnuの井口理(Vo/Key)が歌唱する「Luminance」が流れる。映像は作品の中でもとりわけ印象的な場面のコラージュとなっており、映画の感動が蘇るような仕上がりにコメント欄には絶賛の声が相次いでいる。
吉田修一の同名小説を実写映画化した『国宝』は、歌舞伎の世界に足を踏み入れた青年が、やがて“国宝”と呼ばれるようになるまでの50年間を描く壮大な人間ドラマ。主人公の立花喜久雄を演じた吉沢亮、そして彼の生涯のライバルとなる大垣俊介役の横浜流星、ふたりの鬼気迫る演技も素晴らしく、現在までに邦画の実写作品で歴代2位の興行収入を叩き出している(※2)。そんな作品の主題歌となった「Luminance」は、劇伴も担当した音楽家の原摩利彦が手掛け、作詞に坂本美雨、ボーカルに井口を迎えた楽曲だ。原は「喜久雄と俊介、そして彼らのまわりの人々の人生がまるで神話であったかのような、そんな感覚を覚える音楽をエンディングに書きたいと思っていました」(※3)と楽曲の構想を語っている。
雪が舞う庭、賑やかな劇場前の通り、ドーランを塗るうなじ、愛した女性たちや大部屋の楽屋。次々と移り変わるシーンに、繊細でたゆたうようなピアノ伴奏と井口の吐息のような声が重なる。タイトルバックに映し出されるのは無数のライトが輝く天井、舞い散る雪、そして火花。いずれも英語で“輝度”や“光の強さ”を意味する「Luminance」の象徴だろう。歌唱にあわせて展開されるのは、劇中でも重要なエピソードでもある『京鹿子娘二人道成寺』。早着替えや大道具を使ったダイナミックな演出もさることながら、喜久雄と俊介の華やかな娘姿が印象的な演目だ。MVでは、このシーンがかなり大胆に使われており、映画未見の人にとっても『国宝』の世界観を十分に堪能できるものとなっている。
そして映像と一体化することで、一層迫力を増すのが井口の歌唱だ。おなじみのハイトーンボイスは、今回は特に男声とも女声ともつかない不思議な響きを伴っており、“女形”という歌舞伎特有の役者を題材にした作品にはこれ以上ないほどしっくりくる。
また、そんな“超越性”は、性別のみにとどまらず、この世とは別の次元から聴こえてくる声ととらえることもできれば、役者をも超えた“国宝”という存在に上り詰めた喜久雄を祝福する声として聴くこともできる。激動の人生を歩み、ついに高みに至った人物に〈そう 永遠に/ただ 満ち足りて〉と、穏やかで美しい世界を約束するような詞も印象的で、映画の最後にこの曲を聴き、真に救われたような気持ちになった観客も多かったことだろう。MVのラストは、万雷の拍手の中で観客席を見渡す喜久雄の顔。その目が見たのは、きらきらと光を放ちながら舞い落ちる雪。本編と同じシーンで幕を閉じる仕掛けもまた、深い余韻を残している。
映画の主題歌は、公開に合わせて人気アーティストの新曲をぶつける手法がとられることもしばしば。しかし、「Luminance」は劇伴を手掛けた原がそのまま制作し、井口へは李相日監督はじめ制作陣からの熱烈なオファーがあったという。前提から作品の一部として作られた楽曲だからこそ、映画のメッセージを補完し、感動を増幅させるような効果を挙げられたのだろう。今回のMVで、それを改めて認識できたことが大きな発見だった。いまだ衰えぬ『国宝』ブームとともに、本作もまた再生回数を伸ばしていくに違いない。
※1:https://charts.youtube.com/charts/TopVideos/jp/weekly
※2:https://realsound.jp/movie/2025/08/post-2132929.html
※3:https://www.sonymusic.co.jp/artist/kinggnu/info/574455

























