My Hair is Badは相変わらず最高だ――18年目に鳴らす現在地、7年ぶりのホールツアーで示した“続ける”理由

 My Hair is Badのホールツアー『シンパシーホームランツアー』の東京公演が、7月24日、25日の2日間、東京国際フォーラム ホールAで行われた。彼らにとっては7年ぶりとなるホールツアー、My Hair is Bad(以下、マイヘア)の3人はオーディエンスとどこまでも愚直に向き合いながら、彼らにしか鳴らせないロックを届け切った。ここではその2日目、7月25日の公演をレポートする。

 「新潟、上越。My Hair is Bad始めます、よろしくね!」。そう叫んだ椎木知仁(Vo/Gt)が「いつか結婚しても」を歌い始めた。バヤこと山本大樹(Ba)の鳴らす重低音とやまじゅんこと山田淳(Dr)の叩くビートがずっしりとホールに響きわたり、椎木の歌が伸びやかに広がる。「準備できてるよな? 遊ぼうぜ、東京!」――そんな椎木の言葉から突入した「グッバイ・マイマリー」でバンドのアンサンブルは一気に加速。音響のいい環境だからこそ、ベースもドラムも細かいタッチまでよく聴こえて、いつも以上に情感豊かに響いてくる。そして何より椎木の歌だ。その端々に豊穣なニュアンスを含ませながら、とてもエモーショナルに伝わってくるその歌声は、時間をかけて育ててきたマイヘアというバンドとその音楽の現在地をとても雄弁に物語っている。

椎木知仁(Vo/Gt)

 「最愛の果て」を終えると、椎木はギターを鳴らして心から溢れ出る思いを吐き出していく。新潟の「一番下」上越で結成したバンドが18年目を迎えたことに触れ、「気がついたら人生の半分以上、この2人といることになりました」という椎木。そして彼は「たぶんこれからも続いていくよ。続いていかせないといけない。でも安心する場所にしたくない。ドキドキする場所にしましょう、よろしく」と客席に語りかけた。そして「歌えたら歌ってよ」と「ドラマみたいだ」へ。弾むようなリズムが、歌詞の切なさとは裏腹に会場の空気を持ち上げていく。歌っている椎木も、その横で全身を使うようにしてベースを弾くバヤも笑顔だ。

山本大樹(Ba)
山田淳(Dr)

 「歓声をさがして」を経て、「鳩かもめ」のソリッドなサウンドがさらなる高揚感を煽ると、一瞬の間を取りながら、まるで星空のような照明が美しく輝くなかパワフルなビートが打ち鳴らされる「悪い癖」へ。そしてステージのバックに白い幕が下りてきて雰囲気を一変させた「悲劇のヒロイン」から「恋人ができたんだ」へ。椎木も語ったとおり、今回のホールツアーは7年ぶり。その間に積み重ねてきたマイヘアの歴史の中で生み出された新旧の楽曲たちが、ライブに奥行きと深みを与えていくようだ。

 「恋人ができたんだ」の後、染み入るように聴いていたオーディエンスを前に、椎木が「人は間違うよね」と話し始めた。「俺もすっごい間違えてるし、すっごい誰かを傷つけたり、自分の機嫌で誰かを振り回したりしてる。だいぶなくなってきたかもしれないけどね」。そんな言葉に、変われない、変わらない自分と、それでも積み重ねてきた時間が滲む。「最後、『あそこで間違ったからだね、優しくなれたのは』って言えるようになりたいな。結果オーライでいこうぜ」。そんな言葉とともに、優しくギターを爪弾いて「思い出をかけぬけて」を歌い始める。

 今の椎木の言葉を引き合いに出すなら、この歌を鳴らすマイヘアはすでにとても優しい。もちろん『映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記』の主題歌に書き下ろした曲だからというのもあるが、そんな歌を歌えるマイヘアに、いつの間にかなっていたということでもあるだろう。バンドも、この日集まったオーディエンスも、ここに歌われているように一つひとつ歩みを進めて今日にたどり着いたのだと思うと、勝手に胸が熱くなる思いがした。

 曲が終わり、椎木は再び客席に語りかける。「東京以外からもいっぱい来たの?」「土日休みの人?」「みんな休みの日何してるの?」と、その口調はどこまでもフレンドリー。最後の質問には客席から「マイヘア聴いてる!」という言葉が飛び、それを聞いたバヤが「言わせたな」と椎木に突っ込む。そんなMCはリフレッシュ方法についての話に。椎木は最近、スマホのアプリでポーカーをやっているが恐ろしく弱いらしく、新しい趣味を見つけたい、と言い始めた。バヤからの「野球やろうぜ、野球」という提案に拒絶反応を示す椎木。元野球部にあるまじき態度だ。だが、今の彼にはそれ以上に大事なものがある。「趣味というか本職というか、これが俺の生きがい。My Hair is Bad、続きやっていきます」。そう力強く告げると「アフターアワー」からいきなりライブは再開していく。「マイヘア、2日目のほうがいいって言われるから、昨日めちゃくちゃ頑張った。昨日を超えようぜ!」という言葉に、客席から声が上がり、会場の熱狂はますます加速していくのだった。

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