櫻坂46 四期生、未完成ゆえの儚さと輝き 「死んだふり」MVに宿る強さと魅力
「死んだふり」を理解するには、YouTubeで公開されている四期生ドキュメンタリー『櫻坂46 四期生物語 ーいま、わたしたちに、できることー』を抜きには語れない。彼女たちがこの楽曲に命を宿すまでの過程は、単なる練習風景を超えた“物語”として記録されていた。
特に印象深いのは、山中湖で行われた合宿だ。彼女たちは「静寂の暴力」を課題曲として与えられ、講師陣と向き合いながら、自らの表現を掘り下げていく。そこで求められたのは、技術やスタイルではなく、「感情をどう身体に宿すか」という本質的な問いだった。
最年少の山田桃実が“心の壁”を指摘され、ダンス経験豊富な目黒陽色がアイドルとしてのダンスに苦悩し、稲熊ひなは自分の不甲斐なさに涙を流す。だが、それでも彼女たちは前を向き続けた。合宿の終盤には彼女たちは自らのスローガンとして「団結・圧倒・咲き続ける」を掲げた。それは、一人ひとりが弱さをさらけ出し、それを仲間の力で受け止め合わなくてはグループとしてステージに立つことができないという真理に、彼女たち自身がたどり着いた証だった。
「死んだふり」で描かれる物語は、この合宿で生まれたスローガンとも重なっている。それは自分の無力さを認めてもなお立ち上がるという、極めて櫻坂46的な方法でしか到達できない美しさとも言えるだろう。
後藤匠平監督による「死んだふり」のMVは、彼女たちの“現在地”を視覚化した詩的ドキュメントにも思える。舞台となるのは学校の教室。坂道グループのMVでたびたび登場してきたこの空間は、画一性や抑圧の象徴であり、まさに“死んだふり”を強いられる場所にもなり得る。その中で、センターの山田が机を蹴飛ばすシーンは圧巻だった。制約に対する直接的な否定であり、パフォーマンスとしても象徴的な瞬間になっている。この一蹴りには、彼女の強さだけでなく、感情が凝縮されている。衣装もまた秀逸だ。真っ白なシャツに、赤いリボンタイと靴下。無垢と情熱、無表情と鮮血。そのコントラストは、まだ色づく前の彼女たちの存在と、内に秘めた激しさを一目で伝えるビジュアルとして機能している。
さらに、最後の場面では9人全員が静かに微笑む。これまで“笑わない”パフォーマンスも多かったグループにおいて、このラストシーンは決定的な転換であり、表現としての成熟を感じさせる。怒りや苦しみの先にある微笑み。それは勝利ではなく、「それでも私たちは生きている」という確固たる意思の表れのように映る。
このMVが持つ強みは、未完成な彼女たちのリアルを真正面から映し出しながら、それを「未完成なまま肯定する」という美学に昇華させている点にある。荒削りであることこそが、今の四期生の最大の魅力なのだ。
6月12日、有明アリーナで開催された『First Showcase』は、四期生9人にとって文字通り“最初のショーケース”だったが、同時に、彼女たちの成長物語における一つの到達点でもあった。
三期生オーディションの落選から再挑戦を果たした松本和子の不屈。自信のなさと涙から成長していく稲熊。類まれな表現力で牽引する佐藤愛桜。唯一無二のキャラクターを発揮する中川智尋。過去の自分との闘いに挑む目黒。すでに覚醒した浅井恋乃未。衝動の爆発力を魅せた山田。支える力に徹した勝又春。そして、内に秘めた炎を静かに燃やす山川宇衣。今はまだ9人の誰もが完全な存在ではない。だが、誰もがすでに“物語”を持っている。それこそが、今の四期生の強さであり、魅力である。
彼女たちはそれぞれの方向に個性を広げながら、それを“団結”という一つの円に繋げようとしている。そのプロセスこそが“今”の櫻坂46をもっとも生々しく、もっとも希望に満ちた形で提示しているのだ。彼女たちの物語は始まったばかり。未完成ゆえの儚さと輝きは、今後どんな色に変わっていくのだろうか。