超ときめき♡宣伝部、乃木坂46、=LOVEらが作る新潮流 アイドルソングは“自己肯定”から“推しへの愛”に?

「推し」という言葉が一般化した今、J-POPアイドルシーンの楽曲にも変化が生まれている。直近ではFRUITS ZIPPERの「わたしの一番かわいいところ」やTHE SUPER FRUITの「チグハグ」に代表される“自己肯定感”ソングが時代のムードを象徴していた。SNSや動画文化の発展も相まって、「自分を肯定する」ことが多くの若者にとっての生きづらさを和らげるキーワードとなり、それを支えるサウンドトラックとして支持されてきた。
しかし、昨今では楽曲が描く肯定の矢印は着実に“自分”から“他者”ーーすなわち“推し”へと転換している動きも見られる。推し活という言葉が日常語になり、ファンが推しの存在そのものや推し活をする自分自身のあり方を歌う楽曲が数多く登場。自己愛のその先に“推し愛”の時代が訪れている。
この流れの中で象徴的なのが、乃木坂46の「乃木坂饅頭」。同楽曲では、推しメンバーへの一方的な憧れや依存ではなく、ファンを見守る者に見立てることで、尊さや祈りのような愛情を重層的に描いている。また、CANDY TUNEの「推し♡好き♡しんどい」もまた、推しが好きで仕方がないというファン心理を率直に音楽化。MVではファンとアイドルの視点がシンクロし、推し活をするなかで生まれる喜びや切なさ、揺れる感情までリアルに掬い取っている。=LOVEの「超特急逃走中」は、“いつも推しが頭から離れない”という独占的な情熱を、妄想と現実が交錯する映像世界で描き出す。GANG PARADEの「So many members」はグループの紹介ソングではあるが、推しを選ぶという“迷い”すらエンターテインメント化し、「誰かひとりはきっと推しが見つかる」という現代的な救済感を含ませている。
これら2025年にリリースされた作品群に通底するのは、推し活のリアルを包み隠さず楽曲に投影する誠実さだ。推すことで自分の存在意義や居場所を見出し、推しと共に歩む自分自身の人生を肯定していく。この新潮流は、単なる応援歌にとどまらず、アイドルとファンの関係性そのものを描いている。
自己肯定感ソングが社会的ムーブメントとなった2020年代前半を経て、いまや「推し活」そのものが社会的に肯定される空気が定着しつつある。SNSのタイムラインには“推し語り”があふれ、ライブ会場やイベント現場でも、推し活を堂々と楽しむ姿が当たり前の風景になった。
このシーンの変化は、楽曲だけでなく、ファンコミュニティの在り方や、アイドル自身の表現にも変化をもたらしている。楽曲やMVは“推し活”のリアルな小道具や感情を細やかに描写し、共感の輪がかつてないほど広がっている。ファンの心の揺らぎや“推し”への愛、時に独占欲や嫉妬までをもストレートに音楽化。推しとともに生きることが肯定される時代に、アイドルもファンも自分らしくいられる新たな価値観が肯定され始めている。
そんなムードの象徴とも言えるのが、今年結成10周年を迎えた超ときめき♡宣伝部(以下、とき宣)だ。2015年のデビュー以来、下積み時代が長く続いたが、その際の努力と研鑽が、現在のグループの本物の歌唱力・パフォーマンスに確実に結実している。
現メンバー6人は、それぞれがビジュアル面での個性と輝きを持ち、各自がソロでもバラエティ番組やメディア露出の機会を得るなど、アイドルグループの枠を超えた活躍を見せている。それぞれが独立しても成立するほどのキャラクターと魅力を持ち、なおかつグループとして集まった時には、唯一無二の“とき宣”サウンドと一体感でファンを魅了してきた。
この10年、ファンとともに泥臭く歩んできた経験が、グループとしての信頼につながり、ライブパフォーマンスやSNSでの発信に説得力を与えている。誰もが“推し”として胸を張れる存在――それが今のとき宣の魅力だ。