水瀬いのり、“アーティスト”としての変化を語る 「『孤独じゃなかったんだ』と気づけたことで救われた」

前作『Inori Minase MUSIC CLIP BOX』リリースから、約6年。声優・水瀬いのりが、6月18日に第2弾となるクリップ集『Inori Minase MUSIC CLIP BOX 2』をリリースする。配達員に扮した水瀬が、楽曲タイトルがラベリングされた箱をお届けするという、コンセプチュアルなアートワークも印象的な作品だ。
作品の発売を記念して、水瀬のMVにフィーチャー。同作に収録されている作品群や当時の撮影エピソード、そしてこの6年で感じる“アーティスト・水瀬いのり”の変化について話を聞いた。(松本まゆげ)
コロナ禍で向き合った“水瀬いのり”の本質「私は誰のために歌いたいんだろう?」

――第1弾のクリップ集をリリースしてから6年が経ちました。水瀬さんにとっては、どんな6年間でしたか?
水瀬いのり(以下、水瀬):コロナ禍を挟んでいることもあり、自分の想像できなかったことがたくさん起こった6年だったなと思います。それ以前は、毎年ライブと新曲リリースが予定されていて、ある意味ではアーティスト活動がルーティン化されていた部分がありました。常に何かを制作していたから、ずっと走り続けている感覚があって。「一旦立ち止まって、自分を見つめ直したいな」と思うことも、時々あったんです。もちろん楽しいと感じる瞬間もたくさんあったんですけど、最初に夢を見ていた憧れの場所から少し違う方向に進んでいる気がするし、でもそれを言語化したり、誰かに伝えたりする勇気はないし……。
――なるほど。
水瀬:なんとか自分のなかで折り合いをつけようと頑張っていましたね。そんななかでコロナによって世界的にいろんな物事が止まる期間に入り、私自身もようやく立ち止まって、「私は誰のために歌いたいんだろう?」「誰のための活動なんだろう?」と考えることができました。苦しくて悲しい月日だったことは間違いないんですけど、あえてあの日々を前向きに捉えるなら、自分の未来を考える時間に充てることができたな、と。おかげで、強くなれたと思いますし、自信がついた気もしています。自分の歌も、より一層好きになれました。
――別のインタビューで、バンドマスターの島本道太郎さんから「コロナ禍以降、歌い方がすごくよくなった」と言ってもらえたという話をしていましたが、それはなぜだったんでしょう?
水瀬:一時期、緊張や考えすぎたりしちゃって、声を出す時に詰まるようになってしまったんです。歌に限らずラジオでもそうなりがちで、そういった意味でも立ち止まる時間が必要だなと思っていて。そのタイミングで立ち止まることができたので、こわばっていた舌筋や咬筋をほぐして、リラックスした状態で声を出せるように喉の使い方を矯正しました。3カ月くらい経ってようやく楽に歌えるようになったんですが、それにバンマスのみっちーさん(島本)が気づいてくれたんです。みっちーさんは、私のコンディションやモチベーションをものすごく気にしてくださるんです。だからこそ、いち早くわかってくれたんでしょうね。
――思いがけないストップ期間ではあったけれど、心身ともに整えることができたんですね。
水瀬:そうですね。過酷な状況だからこそ、朝ちゃんと起きてごはんを食べるとか、天気のいい日はお散歩するとか、何気ない日常の一部に幸せを見出せるようになりました。いろんなことに丁寧に向き合える日々は、自分の癒しになっていましたね。
――逆に言うと、以前はそれだけ忙しかったのですね。
水瀬:そうなのかもしれないです。年間スケジュールを見た時に、変な言い方ですけど「いつ風邪を引いたらいいんだろう?」という感じだったんです(笑)。ある意味、それだけ追われていたし、「忙しいなかでも最高のパフォーマンスを!」と自分に課しすぎていたのかもしれません。でも、今はそういう意識をしなくてもちゃんとできるようになりました。「もやもや考えなくても、私が歌えば最高のライブになる!」と思えるくらいの自信が身についた6年でしたね。

――『Inori Minase MUSIC CLIP BOX 2』には、2020年2月に発表された「ココロソマリ」以降のMVがリリース順に収録されています。ビジュアルアプローチに大きな変化を感じたのは、どのMVですか?
水瀬:それが、実は「ココロソマリ」なんです。
――そこからすでに変化を感じていた、と。
水瀬:はい。というのも、「ココロソマリ」は、私以外の出演者の方がメインのドラマパートのような映像も組み込まれた作品で、私はほぼリップシンクのみだったので、これまでのMVのなかでは稼働時間がいちばんコンパクトだったんです。なおかつ、私が書いた歌詞から着想を得てドラマのシナリオを書いていただいたので、制作としてもこのMVに関わることができた気がして、特別な存在感を放っているように思います。
――「ココロソマリ」のシングルと一緒に収録されている「僕らは今」は、バンドメンバーとのセッションをファンのみなさんが見守る、ライブ形式のMVになっていましたね。
水瀬:「僕らは今」のMVはコロナ禍に制作しました。ファンのみなさんからいただいた写真を壁に映し出して撮影したので、無観客ライブのようなMVになっています。その合間には、バンドメンバーと写真を撮り合ったり、ふざけ合ったりしているような場面もあって。それも印象深いですね。ただ今思うと、バンドメンバーとの距離感が今に比べるとまだまだ遠いなあって(笑)。今、同じテイストのムービーを撮ったら、もっと距離が近くてファミリー感のある映像になるんじゃないかなと思います。
――お話を聞いている感じ、どのMVにも変化や挑戦が存分に含まれていそうですね。
水瀬:そうですね。特に挑戦が詰まったMVになったのは、「アイオライト」です。ダンサーのみなさんとのシンクロダンスも、スーツを着て撮影したのも新鮮でした。それまでは、「水瀬いのりといえば」というパブリックイメージから外れることなく映像作品を作っていただいていたんです。私自身、MVで自分以外の誰かになりきるのが照れくさくて、一歩踏み出せないところがありました。だけど、「アイオライト」はタイアップ作品なので、作品の色に自分を寄せることができる、ここでなら自分の殻を破れるんじゃないかと思えた記憶があります。
