大森元貴、“プライベート空間”で零れた『絵画』という感情 約4年ぶりのソロ作品が今生まれた意味

 「絵画」は、Mrs. GREEN APPLEのツアー『Mrs. GREEN APPLE 2023-2024 FC TOUR “The White Lounge”』の最中に大森が書いた曲だという(※3)。Mrs. GREEN APPLEは同時期に『第74回NHK紅白歌合戦』に初出場し、『第65回 輝く!日本レコード大賞』でレコード大賞を受賞した。そんな華やかな舞台の裏で、大森は突発性難聴を発症。さらに『The White Lounge』は音楽劇の手法を採ったチャレンジングなツアーだったこともあり、ツアーファイナル公演のカーテンコールでは、大森が安堵した様子でテーブルに突っ伏す場面もあったそうだ(※4)。人生の濃い場面が凝縮されたような目まぐるしい時期だからこそ、プライベート空間がほしかったのだろうかと考えれば、なんだかわかる気がする。

Mrs. GREEN APPLE – Coffee from “The White Lounge in CINEMA”
Mrs. GREEN APPLE「天国」Official Music Video

 また、エンターテインメントとドキュメンタリーの入れ子構造のようだった「天国」(+『#真相をお話しします』)の直後に、プロデューサーとしての目を差っ引いたような「絵画」が世に出るというリリースの順序も興味深い。その上で、特に印象的だったのは 〈誰にもバレないように/抱きしめてと/洩れないように〉というフレーズだ。そもそも大森にとって楽曲制作とは、自分自身を抱きしめたり慰めたりするための手段だったのかもしれない。Mrs. GREEN APPLEが有する巨大なイメージや仲間と描くビジョン、栄誉、責任、役割などは一旦置いておいて、忙しい日々だからこそ源流に立ち還ること、立ち還るために創作と生活のサイクルを回し続けること。それが大森にとっては“健全”で、心身のバランスを保つために必要なのだろう。

 今作の2曲目、NHK Eテレ『天才てれびくん』に提供した「こたえあわせ」のセルフカバーも、“立ち還る”ポイントとして刻まれたかのような楽曲だ。この曲で大森は歌唱に留まらず、ギター、ベース、ドラムも自ら演奏。特にドラムのレコーディングは初めてらしく、音楽的な童心に立ち還っている。また、元々は子どもたちが歌うことを想定して作られた曲ということもあり、歌詞もかなり純粋だ。〈難しいことはわからないけど/笑い合えれば全部成功〉というフレーズだが、日々いろいろなことがあるから笑顔が一番難しいのだと大人になるとわかる。サビは〈だから、ごめんね〉と始まるが、大人になると素直に「ごめんね」と言えなくなりがち。黄昏時の描写とともに歌われる〈大人になっても/変わらないで居よう/離さないで居よう/忘れないで居よう〉というフレーズは美しいが、何事もやがて変化し、離さないのも忘れないのもほとんど無理だろうと、人は歳を重ねながら理解していく。

 だからこそ、自分を見失わないための音楽を、という話になるのだろう。ミセスの活動も大森個人の人生も、きっとここからまだまだ長い。3rd Digital Single『絵画』は、今後どこまでも遠くへ進むために生まれるべくして生まれた作品ではないだろうか。

※1 https://x.com/MotokiOhmoriMGA/status/1923370942467903714
※2 https://www.billboard-japan.com/special/detail/4829
※3 https://x.com/MotokiOhmoriMGA/status/1927381255030493420
※4 https://natalie.mu/music/news/563662

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