BAND-MAIDが刻んだ“魂の演奏” 『ロックレディ』と共に挑んだ音楽×モーションキャプチャーの革新とリアル

BAND-MAIDが拓いたモーションキャプチャーによる新たな演奏描写のリアル

 近年に再度ヒットした“バンドアニメブーム”の各作品では大きく進歩を遂げたCGツールを利用し、多彩な演奏シーンを見せてくれている。その1つがモーションキャプチャーの活用だ。演奏描写にリアリティを持たせるには、実際に演奏する人間の3次元の動きのデータを取り、それをCGキャラクターのアニメーションに落とし込む。これにより、実際のライブ映像以上のカメラワークやパーツの多い楽器描写が可能となる。この制作手法を採る上での課題は、キャラクターらしく演奏できるアクターの確保だった。最終的にCGモデルを使ってアニメーションを修正するといっても、キャプチャーの段階で高品質なデータを取ることができれば、ほかの部分のクオリティをより高めることができる。キャラクター性として重なる部分を持つBAND-MAIDが選ばれた理由はここにある。BAND-MAIDはライブや彼女らの楽曲制作がある多忙なスケジュールの合間を縫って、『ロックレディ』のOPテーマ「Ready to Rock」を作り、毎月のようにモーションキャプチャー撮影を行なったという。

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 完成した映像にはメンバーの日頃の演奏のクセや演出、足の上げ下げや体重移動までがアクティングとして採用され、メンバー自身が「そっくり」と話すほどのシンクロぶり。もちろんギターのみならずほかの楽器類のプレイもCGで完璧に再現している。CGを担当したグラフィニカによると運指の描写についてはキャプチャーだけではなく、実写での多角度撮影も行ない、音とフレットは完全一致しているほか、ドラムのシンバルの動きやペダルの動きも実際の動きそのままで、リアリティへのこだわりは非常に強い。

 BAND-MAID自身も、キャプチャーの際に完全再現演奏をすることは大変だったようだ(音源は先にレコーディング)。第1話および第3話での演奏シーンでは、ギターのりりさ(KANAMI)と、ドラムの音羽(AKANE)の煽り合いの演奏バトルとなったが、日頃のBAND-MAIDのライブでは演奏の基盤であるドラムが揺さぶりをかけるようなことや、ギターが自己満足のように突っ走って主張するようなことはプロとしてあり得ないため、このロック初期衝動のような演奏をアニメを通じて聴けたことはファンにとっても耳福だったことだろう。一般的なシリーズアニメでは聴けないような楽器の個を立たせたミックスも素晴らしかった。

 演奏バトルのシーンはそれぞれ4分から5分と、一般的なアニメバンド作品の演奏やアイドル作品の歌唱・ダンスシーンと比べても長尺で作られているが、不思議と退屈さを覚えなかった。もちろん圧倒的な演奏技術を示したアニメーションや、楽曲自体の展開の豊かさ、工夫を凝らしたアングル取りやカメラワークも大きい。その上で本作ならではの特徴として“インストであること”が功を奏していると言える。作中で歌モノが挟まる場合、それが流れている間はどうしても視聴者は傍観者となってしまう。ロボットアニメのバトルシーンのように“ドラマが止まる”現象だ。『機動戦士ガンダム』などを手掛けた富野由悠季はこれを避けるために戦闘中に画面分割でパイロットの顔を入れて、互いに問答をさせることで、戦いを見せながら同時にドラマも進行させた。

 それと同様に、本作では演奏シーンにおいてその瞬間瞬間のプレイヤーの内心や反応をモノローグで言葉にし、ドラマを進行させる。一般的なボーカル入りの曲ではこうした演出は歌とセリフが被ってしまい、かなり難しくなる。モノローグ演出自体は原作からあったものだが、それを音に乗せて上手く取り込むことで、楽曲自体の高揚感、映像の迫力、そしてキャラクターの言葉が三位一体となって視聴者に届く。映像・音楽に合わせるようモノローグのワードを調整する細かな配慮もあり、丁寧な仕事ぶりが窺える。歌モノでないことは一般的に弱点とされるが、それを見事に映像に落とし込んだ演出と言える。

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