乃木坂46・櫻坂46・日向坂46の衣装の秘密とは TEN10代表 市野沢祐大が語る“謎を残す”という意識

乃木坂46、櫻坂46、日向坂46……衣装コンセプト棲み分けの鍵は“場所”

――乃木坂46をきっかけにして、櫻坂46と日向坂46の衣装も手がけるようになっていったと思いますが、棲み分けはどのように考えていますか?
市野沢:乃木坂46の衣装を担当するときに、最初にスタッフの方から言われていたのは、「ヨーロッパの私立高校」というコンセプトでした。なのでヨーロッパのなかで場所が変わるような感じといいますか。乃木坂46がフランスのパリだとしたら、櫻坂46はドイツのベルリン、日向坂46はフランスにあるボルドーというようなイメージで制作をしています。乃木坂46は可憐さ、櫻坂46は振り切った挑戦、日向坂46は少し幼さを残しながらも「ここからやっていこう」という思いをそれぞれ意識しています。
――櫻坂46では『UDAGAWA GENERATION』(2025年)のジャケット写真の衣装を担当されていますが、ヘッドアクセだったりライトセーバーのような武器を持っていたり、かなりサイバーな感じです。
市野沢:僕ともう一人、BALMUNGのデザイナーのHachiくんと一緒に制作をしました。20年くらいの仲で、初めて共同で衣装を担当したんですよ。彼がデザインした既存の洋服を一緒に改造していきながら制作していって、チャレンジングでいろんなことを楽しみながらできた現場でした。僕もそうですけど、10年、20年経つとみんなやれることが増えていって、「作れないものはないんじゃないか」ぐらいの自信のなかで、最終的にあの形にたどり着きましたね。
sakurazaka46
「UDAGAWA GENERATION」
スタイリング&衣装デザイン、制作担当しました。
今回は、 @balmung_tokyo hachiくんにデザイン入ってもらいBALMUNGの世界観と櫻坂46が合わさるよう生地とシルエットに拘って制作しました!#櫻坂46 pic.twitter.com/BrAi5TqrMs— ichinosawa (@ichinosawa_) January 29, 2025
――個人的にシングル『何歳の頃に戻りたいのか?』(2024年)のジャケット衣装が好きです。
市野沢:あの衣装は、水に濡れても丈夫な土佐和紙で作っています。昔、和紙はシルクよりも高価だったとも言われていて、高知の浜田和紙さんが作った土佐和紙は、日本から海外に渡ってパリのルーヴル美術館でも使われていたそうなんです。櫻坂46を海外に発信していき、日本に戻ってきたときにまた強くなれるというテーマのもとで、日本が誇る和紙を使うことにしました。衣装展がもしあればぜひ近くで見てほしいですし、なかなか真似できない衣装だと思います。竹ひごで衣装を型取ったり、和の素材で作っているので、完全にオートクチュールでした。一発見ただけでは分からないけれど、見た人が意味を汲み取って、いろいろと話してくれるのが好きなんですよ。ちょっと謎を残しながら衣装を作るというか。かなり的を射て考えてくれる人もいるので、当たっていると嬉しくなりますね。
櫻坂46の8枚目シングル「何歳(いくつ)の頃に戻りたいのか?」のジャケット写真
衣装デザイン、制作、スタイリング担当しました。
以前から興味のある日本民藝と 海外から戻ってきて更に価値を高めた里帰民藝から着想を受け 今回和紙を使った衣装を制作しました。 #櫻坂46 pic.twitter.com/G1PqvjOFgM— ichinosawa (@ichinosawa_) February 6, 2024
――シングル『桜月』(2023年)のジャケット衣装は、ビビットでカラフルな仕上がりになっています。
市野沢:『桜月』からジャケット衣装に携わるようになりました。メンバーが音楽を奏でているような、一人ひとりの動きが見えることを意識して、色も(メンバーごとに)変えました。衣装そのものは「ISSEY MIYAKE」です。パリのコレクションで観たステージの楽しさを表現できたらと思い、躍動感のある洋服を使いながらスタイリングしていきました。『桜月』からいろいろとチャレンジができるようになっていったなと思います。
5thシングル『桜月』表題曲「桜月」のダウンロード&ストリーミング先行配信を開始致しました🌸🌕
ぜひお聴きください!📲#櫻坂46桜月#櫻坂46https://t.co/S3MIzGof0t pic.twitter.com/tYw8N8IbcK
— 櫻坂46 (@sakurazaka46) February 7, 2023
――日向坂46の『卒業写真だけが知ってる』(2025年)のジャケット写真の衣装はどのようなコンセプトですか?
市野沢:太陽が昇って沈むまでを衣装で表現しました。ベースは黄色なんですけど、(切り取って見ることで)濃いオレンジに変わって見えたり、若干生地の色を変えることで日向と日陰を表しています。パールは本物の真珠を使っています。生命感、生っぽさがキーワードとしてあったので、商品としては販売できない、型の崩れたバロックパールを衣装に付けて。よりリアルにメンバーの何かを見せるという解釈の下での衣装です。
2025年1月29日(水)発売、
13thシングル「卒業写真だけが知ってる」の
ジャケット写真を公開いたしました🫧さらに!12月12日(木)00:00より
「卒業写真だけが知ってる」の先行配信が決定♬✨https://t.co/rP7qztPNcIぜひお楽しみに☀#日向坂46_卒業写真だけが知ってる#日向坂46…
— 日向坂46 (@hinatazaka46) December 5, 2024
――市野沢さんにとって思い入れのある日向坂46の衣装は何ですか?
市野沢:「ってか」(2021年)のMV衣装ですね。一人ひとりの衣装の色をグラデーションで変えていったり、躍動感を出していきました。MVコンセプトのなかで、どのようにかっこよく見せていくかにチャレンジしています。「ってか」は自分のなかで、「日向坂46もこんな曲をやるんだ」と感じたんですよね。ライブ映えもしますし。
――ライブ衣装というところだと、特に櫻坂46は夏と冬でライブをしている環境がガラッと変わりますよね。生地への意識も変わるのでしょうか?
市野沢:櫻坂46が毎年冬にアニバーサリーライブを開催しているZOZOマリンスタジアムは、野外でめちゃくちゃ寒いので、ライブ衣装としてMA-1をデザインしました。厚手にはなるんですけど、中綿が入っています。夏用は軽やかな衣装にすると、乃木坂46に寄って見えてしまうので、櫻坂46の場合は、夏でも少し重みを持たせています。たとえば、昨年の三期生ライブの衣装は一見軽そうなシャツ生地なんですが、切り替えが入っていて独特なパターンだったり、変化を出せるようにもしました。
櫻坂46 4thanniversary live お疲れ様でした! 画像の衣装2点担当しました!
ma1はBodysong. デザイン、制作 、 ドレスはTEN10LAB 岡島が担当しました!
ディテール凄いので、是非間近で見てほしい!#櫻坂46 pic.twitter.com/wXRQ9hRiUl— ichinosawa (@ichinosawa_) November 25, 2024
学生との関わり、ファッション業界の変化を通じて気づいた“自分の使命”

――坂道グループのスタイリストとしては、ほかにも尾内貴美香さん、Remi Takenouchiさんが主に担当されていますが、RemiさんとはSHIBUYA TSUTAYAの櫻坂46の展開を見にいく仲なんですね。SNSでやり取りしているのを拝見しました。
市野沢:Remiちゃんとは10数年前から知り合いなんです。面白いコンセプトだったり、やることもチャレンジングなので、いつも情報共有しながらやっていますね。
――昨年6月の櫻坂46の東京ドーム公演でRemiさんが手がけた通称“王子様衣装”には大きな反響がありましたが、刺激を受けることもありますか?
市野沢:僕にはなかなか思いつかなかったんですが、メンバーの声を聞いて、意見を汲み取っているみたいなので、Remiちゃんはそこのコミュニケーションをとるのが上手いですよね。
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――昨年9月に開催された乃木坂46の明治神宮野球場公演で、市野沢さんが手がけた“ピンクプリンセス”の衣装とは、対照的だなと思います。
市野沢:かなり対照的ですね(笑)。いわゆるアイドルっぽい衣装に振り切ってますもんね。たとえば、一カ月に100着の衣装を作ることになったとして、うちで100着全ては縫えないので外部にも依頼をしますよね。でも縫える工場も限られているので、もしRemiちゃんが同じタイミングで同規模の依頼をしていたらもう無理なんですよ。お互いがパニックにならないように、そういう部分は共有しつつやっていますね。
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――ほかにも、indigo la End、ゲスの極み乙女、ジェニーハイといった川谷絵音さんのバンド、きゃりーぱみゅぱみゅさん、結束バンドの衣装を手がけています。アイドルグループとの違いを意識したりはしますか?
市野沢:ご本人たちがどういう音楽を聴いて、今はどういうムードなのかを実際にヒアリングして、スタイリングを組んでいくのは、また違う部分ですね。川谷くんとは2人で飯に行ったり、一緒にライブを観に行ったりする仲なんですけど、彼がかっこいいと思っている音楽やスタイルを意識しながら制作をしています。そこでいろいろな掛け合わせを試していくうちに、それを違うアーティストでやってみようというときもあります。
――市野沢さんは、講師としてファッションを学ぶ学生とも接しているそうですね。教える立場としての気づきはありますか?
市野沢:何がきっかけでデザイナーを目指すようになったのかは、明確に変わっていっているなと思います。僕らの世代には、ファッションブランドのデザイナーになりたいという人たちが多かったんです。今は「乃木坂46の衣装をやりたい」という子もいますけど、「地方の百貨店で働きたい」という理由で服飾学校に通っている子もいて。その子たちの意識をより高みに持っていくためにはどうすればいいのかを常に考えながら、講師として学生と接していくなかで、新たな答えが見えてくるようにもなってきました。自分がこうして会社を立ち上げたことやファッション業界の未来は明るくて楽しいということを、生徒たちに伝えていくのが自分の使命だなと思っています。
――市野沢さんがスタイリストを志した頃と今とでは、当然ファッション業界も変化しているわけですよね。
市野沢:発想のレベルが毎年変わっていっていますよね。変化していく日常のなかで、新しいファッションに憧れてデザイナーを目指す子だったり、服飾学校に入ってアイドルの衣装をやりたいという子の意識も、ファッション的アプローチに変わってきている。それはPerfumeだったり、坂道グループだったりが、かっこいいモードな路線に行った結果だと思うんです。これからは日本から新しいファッションを発信していかないといけないという気持ちはありますし、どんどん才能のある子が出てくると思うので、自分のなかで「止まらないようにしないといけない」という思いもあります。
――市野沢さんがSNSで「新しい試み」(※2)と投稿されていたのが気になりました。
市野沢:新しいチャレンジとして、茨城にレザーの縫製工場を作っています。そこでものづくりの新しい形を自分が繋げていくことで、かけ算でどんどん面白くなっていくと思っています。それが地方の民藝とか溶接工場とか、全然関係ないところと繋がることで新たな衣装のパーツができたり、ファッションの新しい形が生まれていく。そんな可能性があることを茨城でやっていきたいというのが、これからのチャレンジですね。
※1:https://realsound.jp/2019/04/post-353650.html
※2:https://www.instagram.com/p/DEO8D9dyBKt
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