ピーター・バラカン×丸山京子×藤本国彦が語る『ジョンの魂』の特殊性「言葉には含蓄があり、好奇心を刺激する」


ジョン・レノンがビートルズ解散後、1970年に初のソロアルバムとして発表した稀代の傑作『ジョンの魂(英題:Plastic Ono Band)』。4月7日、LOFT9 Shibuyaにて、その真実に迫るガイドブック『JOHN & YOKO/PLASTIC ONO BAND【日本版】』の発売を記念したトークイベントが開催された。登壇したのは、熱心なビートルズファンとして知られ、本書の帯にコメントを寄せたピーター・バラカン氏、海外ミュージシャンの書籍の翻訳を多数手掛け、本書の全編を日本語訳した丸山京子氏、特別付録で本書を解説した、日本を代表するビートルズ研究家の藤本国彦氏。『ジョンの魂』という作品の特殊性と、本書の魅力について語り合った。
三氏は『ジョンの魂』という作品をもともとどう捉えていたのか。バラカン氏は「邦題は『ジョンの悲鳴』にした方がよかったと思う。リリースされたのは僕が19歳になるかならないかの頃。ビートルズファンではあったし、友人が持っていたので一応聴きはしたけれど、生々しくて拒否反応を起こしてしまった。今はジョンのソロ作品の中で一番好きなのですが、当時は受けつけなかったんです」と振り返り、丸山氏も「私も後になって好きになったのですが、あまりにもヘヴィで、最初は美しい『Love』くらいしか好きになれませんでした」と口をそろえる。藤本氏も「最初に聴いたときは重いし、暗いし、一時期は正座しながらではないと聴けないアルバムじゃないか、くらいの感じで捉えていました」とし、次作の名盤『イマジン』と比較して、あえてフィル・スペクターに頼りすぎない抑制的な音作りをしたことが、『ジョンの魂』を特殊な作品にするひとつの要因になったと分析した。
当初はそれぞれに違和感を持ち、しかし後に『ジョンの魂』に強く惹かれ、聴き込んできた三氏だが、本書『JOHN & YOKO/PLASTIC ONO BAND』で初めて知ったエピソードも多かったようだ。バラカン氏は「この本に再掲されているインタビューは、相当マニアックに追いかけていた人でなければ知らないものが非常に多い」と舌を巻き、丸山氏は「ひとりの著者が評伝のように書いているのではなく、実際にPLASTIC ONO BANDに関わった人たちがそれぞれに“真実”を語っている。さまざまな意見があるのも当然で、その構成が素晴らしかった」と語った。加えて藤本氏は、当時の状況を時系列で追いかけられることが魅力的だとして、その時々のレアな写真が掲載されていることにも言及。ビジュアルも含め、ビートルズ/ジョン・レノンのディープなファンでも多くの発見がある一冊になっているようだ。
そんな一冊を全編通じて翻訳する上で、丸山氏が意識したのは「ジョンとヨーコをそれぞれ別の人間として一人称に置くのではなく、インタビューで多くの関係者が語っているように、“ジョン&ヨーコ”という一つの存在として捉える」ことだという。先行して取り組んだ歌詞の対訳も含め、翻訳にかかった期間はおよそ半年間。細かなニュアンスまで汲み取られた日本語訳は生々しく、藤本氏は、ジョンが抱えていた大きな苦悩にジョージ・ハリスンが気づき、思いを馳せる言葉に深い印象を受けたと語った。ジョン&ヨーコが一つひとつの楽曲について赤裸々に語った内容もあり、ビートルズについて膨大な知識を持つ藤本氏も、オノ・ヨーコ自身に二度のインタビューを行なっているバラカン氏も、初めて知った情報が少なくなかったそうだ。
さらに三氏は、『ジョンの魂』収録楽曲を解説。同アルバムはジョン&ヨーコの苦悩や生々しい感情が表現された作品であり、踏み込んだ社会的メッセージが含まれると評価されてきた。例えば「God」は〈God is a concept by which we measure our pain〉(神は我々の苦痛を計る概念に過ぎない)の一節から始まるが、バラカン氏は「『Imagine』につながりますが、1970年に宗教をこのように語るのは極めて異例のことでした。『サピエンス全史』で知られるユヴァル・ノア・ハラリが“人間がつくったもの”としての宗教を非常に面白く書いていますが、ジョンはそれをよりわかりやすく表現しています」と評価。藤本氏もクラウス・フォアマンの言葉を引用し、「ジョンは難しいことをわかりやすく話す天才で、その言葉には含蓄があり、好奇心を刺激する」と評した。
三氏が最初に聴いたときにはその価値を計りかねたように、時代の変化や受け手の成長に応じて、『ジョンの魂』が訴えるメッセージは深みを増していくようだ。イベントの最後には観客から「ジョンの楽曲や言葉は、100年後も生き続けるか」という質問も飛んだが、本書を通じて、ある意味でジョン・レノンという不世出のアーティストを象徴するアルバムが生まれた背景を知ることで、その答えに近づくことができるかもしれない。
なお、版元のblueprint book storeでは、オカモトコウキ(OKAMOTO’S)、丸山京子、藤本国彦が登壇した配信イベントのチケット付き書籍を販売中。配信は4月25日(金)までなので、気になる方はお早めに。
■配信イベント情報
『JOHN & YOKO/PLASTIC ONO BAND【日本版】』配信イベント
出演者:オカモトコウキ(OKAMOTO’S)、丸山京子、藤本国彦
配信期間:2025年4月11日(金)〜4月25日(金)
価格:本体12,000円(税込価格13,200円)
参加対象者:下記webサイト『blueprint book store』にて、書籍『JOHN & YOKO/PLASTIC ONO BAND【日本版】』を購入した方





















