怒髪天・増子直純×真田ナオキ対談 「やっぱり大事なのはユーモアだよ」――演歌とロックと声を語り合う!

ハスキーボイスは裏声が出ない? 共感の“あるある”話

――先ほどおっしゃっていましたが、真田さんはわざと声を潰したんですよね?

真田:はい。歌を習い始めたら音程は取れないわ、リズム感はないわで。自分への戒めで当時録音したレッスンテープを聴くことがあるんですけど、「どの口が“歌手になりたい”って言ってるんだ?」と思うくらいで(笑)。歌を習うなかで自分で「必要なのは個性かな?」と思って、声を潰してこうなりました。

――唐辛子を食べて日本酒でうがいをしたというのは本当なんですか?

真田:本当です(笑)。体質的にアルコールが受け付けなくて全然飲めないんですけど、お酒を飲むみなさんはかっこいい声をしている方が多いので、「アルコールでうがいをしよう」と。唐辛子はおやつとして食べられるように持ち歩いていましたし、カラオケボックスで血痰が出るまで歌ったりもしていましたね。色っぽいウィスパーボイスになりたかったんですけど、いつの間にか通り越してました(笑)。

増子:俺は昔からこういう声(笑)。もともとハードコアパンクバンドで全部怒鳴って歌ってた。でも、声が嗄れてライブを飛ばしたことはないんだよね。

真田:「今日は声が出ないな?」みたいな日もないんですか?

増子:それは多少なりともあるよ。でも、ライブができないということはない。大体アベレージで8割くらいは保てるから。

真田:ちなみに、増子さんってファルセット出ますか?

増子:それがね、できないんだよ。

真田:やっぱりそうですよね! 僕もできないんです。

増子:できないよね!

真田:はい! ガサついた声の方にいつも「ファルセット、できますか?」って聞くんですけど、今のところ誰もできないんですよ。やはりそういうものなんですかね?

増子:そうなんだと思う。前に子供ばんどのうじきつよしさんに言われたんだけど、「ボーカルの声の質みたいなもので、ファルセットの高さまで地声で出る人なんだよ」と。

真田:ああ、僕もキーがめちゃくちゃ高いんです。

増子:俺も同じなんだと思う。普通の人だったらファルセットに切り替えないと出せない音域まで地声で出るっていう。

真田:それってハスキーあるあるだと思います。ファルセットだと音が抜けちゃう感じ。ああ、今のお話をお聞きして安心しました(笑)。

増子:俺も「ファルセットできねえなあ」って思ってたんだけど、やっぱみんなそうなんだなあ。

真田:森進一さんや矢吹健さん、ハスキー声の先輩方はみなさんキーが驚くほど高いんです。もんたよしのりさんもそうですし。やっぱりそういうことですよね。

増子:そういうことなのかも。発見だなあ。

クソったれの10代、20代だったけど、この“クソったれ”が売りになるのは面白い(真田)

――「一匹狼のブルーズ」は、増子さんと通ずる野趣がある真田さんの歌声の魅力を存分に引き出している曲ですよね。

真田:増子さんと上原子さんが僕をイメージして作ってくださったのを、僕も曲をいただいた瞬間に受け止めました。(小声で)師匠に怒られるかもしれないんですけど、新曲の「Nina」や「昔…中洲で」よりも、「一匹狼のブルーズ」ばかりを練習しているんです。

増子:ははははは!

真田:「自分の歌にしたいな」という気持ちでめちゃくちゃ聴いて、めちゃくちゃ歌ってます。

――「一匹狼のブルーズ」は、幅広いリスナー層が真田さんの歌の魅力と出会うきっかけにもなると思います。

真田:そうなったら嬉しいです。演歌歌謡は聴いたことがなくて、ずっとロックを聴いていたという方が真田ナオキを応援してくださることがよくあるんです。「怒髪天の増子さんと上原子さんに曲を書いていただきます」と発表した時も、みなさん喜んでくださって。

――サブスクやYouTubeで幅広い音楽を気軽に聴けるようになっていますし、リスナー側の垣根みたいなものも、今後はさらに取り払われていくんだと思います。

増子:演歌は垣根が崩れていない、最後の砦だからね。そこがいよいよ解放されていくんじゃないかなと思うよ。真田くんのキャラクターもあって、「一匹狼のブルーズ」は本当に書きやすかった。真田くん、元ワルだし(笑)。この令和にいちばん足りないものというか、そういうものを感じさせてくれるんだよね。

――今の真田さんは、折り目正しい真面目な人ですけど。

真田:はい(笑)。でも、もともとはそうではなかったんです。

増子:暴走族のヘッドだからね。

真田:演歌をやるにあたって、初めの頃はそういう過去を隠していたんです。でも、「一匹狼のブルーズ」を書いていただいて、あらためて「もっとそういう部分を出していいんだ!」という気持ちになれました。それは“悪ぶる”ということじゃなくて、もっと自然体で表現したいこと、言いたいことを飾らず、作らず表現していいというメッセージもこの曲から教えてもらいました。

増子:元ヤンで子だくさんなのを聞いた時に、「そうじゃないと出せない歌声の深さだよな」と思った。そうじゃないと出せない表現って、絶対にあるから。

真田:クソったれだった10代、20代でしたけど、僕には子どもたちがいて、今は夫婦ではないですけど、いい関係の子どもたちのママがいるんです。この“クソったれ”が売りになるのは面白いなと感じられるようになっています。

増子:感情を声に出した経験があるかどうかが結構大きいと思っていて。それは演技じゃできないよね。そういう経験があるかどうかで、絶対に迫力が違ってくるから。

真田:今のこの感情が出せるのは、横道にズレてきたからだし、何よりも子どもたちと出会って、いろんな感情や想いに触れてきたからなんだなと、表現に感情が乗る時に感じます。僕の過去をよく思わない方もいらっしゃると思うんですけど、そういうことをマイナスではなくプラスとして表現できるのが歌手という職業だと思っています。いい作品を残して、自分の子供たちが笑顔で自慢できる父になるというのが、僕のひとつの目標なんですよね。

――増子さんも過去にはいろいろありましたよね。

増子:若かったねえ。“パンク”を勘違いしていたんだと思う(笑)。でも、そういうのは「人に優しくする」っていうことに活きてるよ。罪滅ぼしの意味も込めて。

真田:初めてお会いした時に、「相当いろいろあったんだろうなあ」というのは感じました。「怒ったら怖いんだろうな」と感じて、最初は普段以上に直立不動でご挨拶しました。

増子:ははははは!

真田:怒ったら怖い方の笑顔って、あたたかいんですよ! これはあるあるなんです。心強くて安心できる笑顔、っていうんですかね。

真田くんの歌声は時代性に関係なく響くと思う(増子)

――おふたりの歌声もそうですよね。いわゆる「治安が悪い」という印象の歌声ですけど、伝わってくるものがあたたかいですから。

増子:『あしたのジョー』みたいな(笑)。

真田:(笑)。僕みたいな歌い方では表現できない歌もあるんですけど、増子さんのおっしゃる通り、こういう歌い方じゃないとできないものがあって。それが武器でもあるのかな、と。「ここは絶対に負けない!」と思いながら歌ってますね。

増子:真田くんの歌声は時代性に関係なく響くと思う。

真田:ありがとうございます!

増子:そこに何をプラスしていくのかを考えるのが、また面白いと思う。俺もそうなんだけど、カバーをやるとほかにはないものになるんだよ。去年GLAYと対バンして、お互いにカバーし合った時に「Winter,again」を歌ったんだけど、GLAYのファンが「猛吹雪がきた!」って悲鳴を上げてめちゃめちゃ喜んでくれた(笑)。歌が違うだけで印象って変わるみたいだね。

真田:番組に出ると先輩の方々の往年のヒット曲を歌うことがよくあるんですけど、僕は原曲を気にしなくていい枠の若手なのかなと自分では思っています。譜面を見て、自分が歌いたいように歌わせていただいています。原曲の雰囲気を崩さないようにと意識しながら歌った時のほうが、「今日はちょっと微妙だったね」と言われることが多いんですよ。

増子:俺も『The Covers』(NHK総合)に出た時に、昭和アイドルの曲をいくつかカバーしたんだけど、「絶対に合わないだろうな」と思っていた曲を歌うのがすごく面白かった。マライア・キャリーの「恋人たちのクリスマス」をカバーしたこともあるんだけど、地獄のようだったよ。

真田:(笑)。

増子:カタカナのカンペを見ないと歌えなかった(笑)。

――(笑)。4月2日には「一匹狼のブルーズ」がJD盤に収録されるシングル『Nina』がリリースされます。表題曲の「Nina」は、横浜が舞台ですね。

真田:はい。もともとはサンフランシスコが舞台だったのを、わかりやすい日本に変えています。忘れられない女性に対する男性の想いを歌った曲なんですけど、演歌歌謡というジャンルではなく、イメージとしては「傷だらけのローラ」をもっと泥臭くした感じというか。直前まで師匠が「Ninaをケイコにするか?」と言っていました。

増子:それは泥臭すぎる(笑)!

真田:「それは違うと思います」と僕も師匠に言いました(笑)。

――(笑)。ピンクスネイク盤には「昔…中洲で」、ブルーストライプ盤には「羽根を下さい」が収録されます。

真田:「昔…中洲で」は、ザ・スナックミュージックというか。スナックとかでカラオケ好きのお客さんが歌ってくれたら嬉しいです。酔っぱらって音程がぐちゃぐちゃで歌っても最高だと思います。イントロのメロディラインからスナック感があって、赤い別珍のソファに座っているようなイメージが浮かびます。自分の作品のなかでも、かなり演歌歌謡に寄っていると思います。

――「羽根を下さい」は、吉さんが歌ってきた曲ですよね。

真田:はい。師匠が「歌い継いでくれ」とおっしゃってくださった曲です。北朝鮮の拉致問題を歌っているんですけど、歌詞の言葉が胸に残ります。ライブで歌わせていただいていて、CDでリリースしてほしいというお声があったんです。

増子:やっぱり歌声の説得力があるし、曲に合ってるよね。誰にでも伝わる歌って大事だなと思ったよ。やっぱり、“歌”って誰かに想いを伝えるものだから。今の音楽ってわざわざ伝わりづらくしているものも多いけど、こういう曲を聴くと、そろそろここに戻ってくるようになるのかもしれないなと思う。怒髪天の曲も、想いを伝えるためにやってるから、なるべく複雑にはしない。自分たちが飽きないようにアレンジとかで面白い仕掛けを入れたりはするけど。

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