Green DayがKアリーナ横浜に残した伝説の夜 15年ぶりのジャパンツアー最終公演を振り返る

 この日のステージで個人的に印象的だったのが、サポートメンバーのジェイソンが着用していた学生服だ。古くからのファンならご存じかもしれないが、Green Dayの面々は初来日時によく学生服を着ており、日本限定ライブアルバム『爆発ライヴ2!~東京篇』(1996年)のブックレットでもその姿を目にすることができる(※1)。あの学生服は当時のものなのか、それとも新たに入手したものかは不明だが、こういった点にバンド側の日本に対する愛情を感じずにはいられない。

 日本への愛といえば、もうひとつ。今回のジャパンツアーでは「Brain Stew」を披露する前に、ビリーがTHE BLUE HEARTSの代表曲「リンダリンダ」のサビをギター弾き語りする場面も用意されていた。日本の音楽ファンなら知らない者はいないであろうこの曲を、会場がひとつになって大合唱する場面は圧巻の一言だったし、さらに26日公演では「リンダリンダ」を歌い終えたビリーが「THE BLUE HEARTS!」と高らかに叫ぶ場面もあり、涙腺を強く刺激された。

 ライブ本編の話題に戻そう。『Dookie』を終えると、「Know Your Enemy」や「Revolution Radio」「Dilemma」「21 Guns」などといった、彼らのキャリアでも比較的最近の楽曲が連発される。個人的には、来日公演の叶わなかったアルバム『Revolution Radio』(2016年)からの楽曲を生で聴けたことが非常に嬉しかったし、なによりアルバム『21st Century Breakdown』(2009年)からの「Know Your Enemy」や「21 Guns」が今やライブに欠かせないキラーチューンにまで成長していること(その「Know Your Enemy」ではファンをステージに上げる演出も用意)、そんな名曲たちに挟まれた最新楽曲「Dilemma」も一切引けを取らない良曲である事実を確認できたことは、非常に大きな収穫だ。また、この日は昨年から始まったツアーにおいて初めて演奏される「Coma City」が投入されたことも、嬉しいサプライズだった。

 今やライブに絶対欠かせない1曲にまで成長した「Minority」を経て、ライブ後半は『American Idiot』ブロックに突入する。それまでの祝祭モードから一変、ステージ後方にはアルバムジャケットに描かれた「ハート型手榴弾を持つ腕」のオブジェが配置され、アルバムが放つ怒りやシリアスな空気で会場を包み込んでいく。20数年前、当時のイラク戦争やアメリカ政権に対して感じた怒りや葛藤は、今も別の形で続いており、世界はまったく良い方向に進んでいない……そんなメンバーの複雑な感情が、この日演奏された『American Idiot』からの楽曲群からダイレクトに伝わってきた。中でも、「Holiday」冒頭ではスクリーンに「I DREAM」「NO WAR」というストレートなメッセージも表示され、(不幸にも)このアルバムが持つメッセージが現在も有効であることを証明してみせた。

 繊細さがより際立つアレンジの「Wake Me Up When September Ends」を経て、ライブは10分におよぶロックオペラ「Jesus of Suburbia」で佳境へ。アルバム2曲目に収録されている「Jesus of Suburbia」だが、コンパクトに再編されたこの日のセットリストでは「Jesus of Suburbia」が『American Idiot』という物語のクライマックスに相応しいものへと生まれ変わっており、矢継ぎ早に転換する曲調と合間ってオーディエンスの熱量も加速し続けていった。と同時に、ライブ冒頭で流れた「Bohemian Rhapsody」と「Blitzkrieg Bop」のことを思い出し、あの精神性がここで昇華されているんだという事実にも気づかされる……ものすごいスケール感のバンドになったものだと感動し、筆者はこの日何度目かの落涙を経験する。

 ライブ自体は「Jesus of Suburbia」でクライマックスを迎えるが、その熱をいい形で収めてくれるのが最新アルバムからの1曲「Bobby Sox」だった。パワーポップと呼んでも差し支えのないこのミドルチューンで、バンドもオーディエンスも最後の力を振り絞って歌い踊り、大団円を迎える。さらに、ライブにおけるエンドロール的な役割を果たしてくれるのがラストナンバー「Good Riddance (Time of Your Life)」だ。バンドメンバーがステージを去り、アコースティックギターを持ったビリーがひとりステージに残ると、しんみりとしたこの曲でライブは終演を迎えるのだが、この日はジャパンツアー最終日とあってか、前日とはちょっと空気が違った。ビリーはアリーナ前方にいる観客と何度かやり取りを繰り返し、ひとりの青年をステージに上げる。すると、ビリーは彼にギターを手渡し、青年に伴奏を促すのだ。この日限りのスペシャルな演出は、日本のファンに対する感謝とリスペクトが伝わるものだったのではないだろうか。あんな大舞台でギターを上手に弾きこなした青年もさることながら、この突発的状況を心の底から楽しむビリーやGreen Dayの面々、そしてその光景を見守る会場のオーディエンス……この日一番の幸福感に包まれ、ライブは幕を下ろした。

 古くからのファンには「こんなにもすごいバンドになったんだ!」という驚きや喜びを与え、これが初見という若いリスナーには「伝説を観た!」という衝撃を与えてくれた今回のGreen Dayジャパンツアーは、個人的には1996年1月の初来日公演にも匹敵する、強烈なインパクトを残すステージとなった。特に筆者にとっては、Green Dayの3人が自分と同年代であることもそう感じさせる大きな要因になっているのかもしれないが、だからこそこの先も健康で、できる限り長く活動を続けてほしいし、次は10数年と言わずすぐ日本に戻ってきてほしい……そう願わずにいられない。

※1:https://realsound.jp/2016/10/post-9735_2.html

セットリスト
01. The American Dream Is Killing Me
02. Welcome to Paradise
03. Longview
04. Basket Case
05. She
06. Strange Days Are Here to Stay
07. When I Come Around
08. Know Your Enemy
09. Revolution Radio
10. Dilemma
11. Coma City
12. 21 Guns
13. Minority
14. Brain Stew
15. American Idiot
16. Holiday
17. Boulevard of Broken Dreams
18. Are We the Waiting
19. St. Jimmy
20. Give Me Novacaine
21. Letterbomb
22. Wake Me Up When September Ends
23. Jesus of Suburbia
24. Bobby Sox
25. Good Riddance (Time of Your Life)

LINKIN PARK、新体制で示した揺るぎないアイデンティティ 歓喜の声で溢れた来日公演を観て

LINKIN PARKが2月11日と12日にさいたまスーパーアリーナ公演を開催。初日公演の模様をレポートする。

BLACKPINK、グローバルアクトとのコラボで高めるK-POPの基準 話題先行型ではない理想的なソロ活動に

ブルーノ・マーズとROSÉのコラボ曲「APT.」が今年を象徴する大ヒットになったほか、LISAはロザリアとの「New Woman…

関連記事