Green DayがKアリーナ横浜に残した伝説の夜 15年ぶりのジャパンツアー最終公演を振り返る
Green Dayの来日公演ほど日本のロックファンから熱望されていたものはないだろう。最後の日本公演は2012年8月、『SUMMER SONIC 2012』ヘッドライナーとしてだし、単独ツアーとなるとさらに前の2010年1月。本来なら2020年3月下旬に8年ぶりの来日公演が行われるはずだったが、ご存じのとおりコロナ禍の影響で1年後に延期されるものの、状況が好転せずそのまま中止になってしまっている。つまり、今回のジャパンツアーは実に15年ぶり、日本でのライブとしては12年半ぶりという長いスパンを経て実現したのだ。
そういう事情もあってだろう。2025年2月に実施された彼らのジャパンツアーは大阪城ホール、ポートメッセなごや、Kアリーナ横浜(こちらのみ2公演)という大規模アリーナ会場開催にもかかわらず、チケット発売から早い段階で完全ソールドアウトを記録している。『SUMMER SONIC 2012』で最後に来日したのは『¡Uno!』(9月発売)、『¡Dos!』(11月発売)、『¡Tré!』(12月発売)という3部作が発表される直前のタイミングであり、『Revolution Radio』(2016年)や『Father Of All...』(2020年)を携えたライブを日本のファンは経験していない。特に今回は、2024年1月にリリースされた最新アルバム『Saviors』のツアーではあるものの、この年が彼らの出世作である『Dookie』(1994年)発売30周年、そしてロック史にその名を刻んだ傑作『American Idiot』(2004年)発売20周年という大きな節目と重なったこともあり、海外で行われたツアーでは新曲に加え『Dookie』や『American Idiot』からの楽曲を豊富に取り入れたセットリストで好評を博している。
つまり、今回の来日公演はその延長線上にあるセットリストが期待できるとあって、コアなファンはもちろんのこと、この10数年の間にGreen Dayのことを知った若年層にとっても時代を動かした記念碑的作品に触れる絶好の機会なわけだ。このような要因が早々のソールドアウトにつながったことは、想像に難しくない。
筆者はもともと2月25日のKアリーナ横浜公演のみを観覧予定だったが、本稿に記されている26日公演にも急遽足を運ぶことに。25日公演の時点で、10数年ぶりに観たGreen Dayに徹底的に圧倒されたと同時に、いかに今の彼らが世代を超えて愛されるロックアイコンにまで成長したかを実感する絶好の機会だった。その余韻を引きずりながら立て続けに観覧した彼らのステージに対しても、「いいものは何度観たっていい!」という至ってシンプルな結論にたどり着いた。
オープニングアクトを務めたおとぼけビ~バ~のステージは、前日とは異なるセットリストで攻めの姿勢をアピール。この日はフロアの温度も早々に高まっていることが伝わり、いい状態でGreen Day本編へとバトンを繋げたのではないだろうか。
その後の転換タイムでは、時代を超えたロック/パンククラシックが延々と会場に流れ続ける。ここで個人的に印象に残ったのは、ビリー・アイドル「Rebel Yell」とそのビリーがかつて在籍したGeneration Xの「Ready Steady Go」だった。ちょうどビリー・アイドルが新曲「Still Dancing」を発表した直後であったこと、またそのビリー・アイドルからの影響をGreen Dayのビリー・ジョー・アームストロング(Vo, Gt)が公言していることなども重なり、ビリー・アイドルおよびGeneration XとGreen Dayの共通点などを夢想するなどしていたら、あっという間にGreen Dayのステージの時間となっていた。
QUEEN「Bohemian Rhapsody」やRamones「Blitzkrieg Bop」を爆音で流して会場の熱を高めていくという構成といい、その後のMARILYN MANSON「Beautiful People」のビートに映画『スター・ウォーズ』でお馴染みの「ダース・ベイダー(The Imperial March)」やQUEEN「We Will Rock You」、ジョーン・ジェット「I Love Rock 'n' Roll」などの名フレーズをマッシュアップしたオープニングSEといい、ここから「ロックのお祭りが始まるぞ!」と言わんばかりの演出は否が応でもこちら側の熱が高まる。30年前の彼らだったらこんな仰々しい演出はしなかったかもしれないが、パンクロックという枠を超えた存在にまで成長した今のGreen Dayだからこそ可能な形ではないだろうか。
オーディエンスの期待が存分に高まったところで、ステージに黒地にピンクのラインが入った衣装のトレ・クール(Dr)や30年前を彷彿とさせるオレンジの上下が印象的なマイク・ダーント(Ba)、そしてジェイソン・ホワイト(Gt)をはじめとするサポートメンバー3名が登場。最後に赤いシャツ&黒いネクタイに黒いパンツ姿のビリーが姿を現すと、会場の熱気は一気に加速する。その後、ビリーの合図とともにライブは最新作のオープニングトラック「The American Dream Is Killing Me」からスタート。フロアではサークルも散見され、サビでは早くも大合唱が湧き起こる。さらに、ビリーの4カウントとともにその熱を一気に放出させるなど、いかに彼らのライブが待ち望まれていたかがこの1曲だけでも十分に伝わった。
その後、耳馴染みのあるギターリフとともに「Welcome To Paradise」へと傾れ込むと、その熱はさらに急上昇。ここからは『Dookie』収録曲を中心にライブが進行していく。オーディエンスはシングルヒットか否か関係なく、どの曲も大きな声でシンガロングを続ける。スタンド席では拳を高く掲げ、スタンディングのアリーナでは思い思いのアクションで感情を表現するなどして、10数年ぶりに実現したGreen Dayの日本公演を歓迎。その感情は名曲「Basket Case」でこの日最初の大爆発を迎え、圧巻の光景を前にしたビリーも「ジャパン、イチバン!」と喜びの声を上げる。