“短くても刺さる”2分台の楽曲はなぜ増加? 米津玄師、Creepy Nuts……変化に順応する新しいポップスの形
令和となり音楽シーンが急激に変化する中で、現在、音楽がますます“短縮化”している傾向にある。
たとえば、今年1月にリリースされた米津玄師「BOW AND ARROW」はドラムンベース系の高速ポップスで、3分と経たずに終わりを迎える。スピード感のあるテクノビートを華麗なラップで乗りこなすCreepy Nutsの「doppelgänger」も2分47秒。いずれの楽曲もわずか2分台という短さなのだ。
思い返せば、昨年流行ったCreepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」(2分48秒)や、こっちのけんと「はいよろこんで」(2分41秒)、星街すいせい「ビビデバ」(2分45秒)などもすべて2分台の楽曲であった。この短さを「物足りない」と感じるか「ちょうどいい」と捉えるかは、聴く人の世代や趣向によって意見が分かれるところだろう。
もちろん4分以上の楽曲も依然として多く作られているわけだが、とりわけストリーミングサービスのチャート上位には、こうしたサッと終わるポップソングが目立つようになったと感じる。ひと頃までヒット曲は3〜4分が定番だったことを踏まえれば、かなり短い印象だと言わざるを得ないが、こうした“ファスト”なポップスは今ヒットチャートに後を絶たない。
リスニング環境の変化によって音楽は“シンプル”に
膨大な量の音楽に誰でも簡単にアクセスできる現代、ネット上には音楽以外にもさまざまなコンテンツがあふれ、私たちは多くの情報に囲まれている。そうした時代において音楽は、よりシンプルなものが求められるようになったように思う。ユーザーはじっくりと聴き込んで深い感動を味わうというよりは、むしろタイパを重視し、手軽に聴けてすぐに気持ちよくなれる音楽を選ぶようになった印象だ。展開や進行の妙より「ノリが好き」というような、グルーヴや手触りを優先するリスナーが増えているのではないか。
TikTokやInstagramリールなど、ショートムービーを共有するSNSの存在も無視できない。こうしたプラットフォームの流行により、短い尺にも収まる楽曲が自然とピックアップされやすくなった。また、テレビや音楽フェスなど時間の限られた場でパフォーマンスする際に、できるだけ曲の全容を詰め込めるよう楽曲を短くする場合も考えられる。
アーティスト側の商業的な戦略もあるだろう。短い曲は繰り返し再生されることが見込めるため、ストリーミング時代に有利とされる。これはイントロを極力削ってなるべく早く歌唱部分に移る楽曲が増えたことにも言えることだが、近年は曲の核心部分にすぐに辿り着いてもらえるよう意識した曲作りがされるようになった。乃紫「全方向美少女」のように、SNSで使用されることを前提として制作された楽曲も出てきている(同曲は2分7秒)。オリジナルバージョンとは別に、原曲の速度を上げた「Sped Up」バージョンを公式にリリースする例が増えてきたことなどにも、こうした意識は表れていると言える。