鷲尾伶菜、独立後初となる新曲で思い切れた理由 「良くも悪くも、自分の出した答えが“正解”」
2023年12月31日にLDH JAPANを退所した鷲尾伶菜が、独立後初となる新曲「正解」をリリースした。1人での活動を始めて感じてきたことをストレートに乗せた楽曲は、鷲尾の人間としての現在の在り方を示す一曲となっている。30歳になった彼女が今考える“正解”とは何なのか。自分をどこまでも客観視しながらもアツい想いを抱える鷲尾に話を聞いた。(編集部)
LDHという“厳しい実家”で鍛えられてきた
──鷲尾さんが2023年末にLDHから独立して、1年と少しが経ちました。そろそろ足場が固まってきた感覚はありますか?
鷲尾伶菜(以下、鷲尾):そうですね。やっぱり事務所独立って本当にすべてをイチから立ち上げ直すことになるので、基盤作りにけっこう時間がかかりました。昨年設立したファッションブランド・Luamodaなども自分でスタッフを集めるところから始めたので、去年はそういう土台作りに徹した1年間だったなと思います。
──イチから自分で考えて作り上げていくことの楽しさも、感じられたんじゃないでしょうか。
鷲尾:その楽しさは……多少ありました(笑)。やっぱり大変なことのほうが多かったかな。今まではLDHという会社に所属していて、いろんなスタッフさんが最初から当たり前のようにいてくれるという、すごくありがたい環境でしたから。たとえば広告を出そうと思ったら宣伝部がちゃんとあったし、しっかりした基盤の上でやらせていただけていたんですけど、今は広告ひとつ出すにしても自分でいろんな人と接しながら進めていく必要があるので。その基盤が1年かけてやっと固まってきて、ようやく落ち着いて楽曲のリリースができるタイミングになった感じです。
──以前と今の立ち位置の違いを感じる瞬間などはありますか?
鷲尾:今は「どういうお仕事を選んでやっていくべきか」というのを、全部自分で決めなければいけないじゃないですか。周りのスタッフさんたちと一緒にワンチームですべてを決めていく、というのは今まで経験したことのない環境なので、そのギャップはすごく感じますね。逆に言えば全部を自分の意思で決められるということでもあるので、そこはやっていてとても楽しいです。
──言ってみれば、実家を離れて一人暮らしを始めたような感覚に近いわけですよね。
鷲尾:あ、そういう感じです! それでいうとLDHは厳しい実家だったので(笑)、かなり揉まれてきたんですけど、そのぶんちゃんとした教育をしてもらえたなって。だからこそ独立してからも迷うことなく、人に騙されることもなく(笑)、ちゃんとやれているのかなと感じる瞬間は多いです。
──LDHにいた頃の自分を、少し客観的に見られるようにもなったんじゃないでしょうか。
鷲尾:本当にそのとおりで、去年1年は完全に自分を客観視する期間になりましたね。30歳を迎える節目の年だったこともあって、20代の10年間はものすごく音楽に向き合って精一杯がんばってこられた、素敵な環境にいさせてもらってたんだなって。とても濃密な、学びの10年間でした。20代の自分がその10年間を必死にがんばってくれたからこそ今30代の自分が本当に好きなことをやれているので、人生ってどこにも無駄なところはないんだなと実感していますね。
──それこそ年末にはE-girlsの「Merry×Merry Xmas★」のカバー動画も出しましたよね。“カバーする”という立場で歌ったことで、感じ方もだいぶ違ったのではないかと想像します。
鷲尾:メンバーのパートも全部自分で歌うというのがまず新鮮でしたし、活動時期の大変だったことを思い出したりもして、けっこう感慨深いものがありましたね。
──そうですよね。聴き手としてもグッときました。
鷲尾:よかったです。事務所からは独立しましたけど、その一方でレーベルはLDH Recordsへの移籍という形を取ったので、LDHとの関わりを残していることを示す意味でのカバーでもあったんですよ。今って、E-girlsの曲を歌い継ぐ存在がいないじゃないですか。私が独立後もLDHのレーベルに残った理由のひとつとして、「今までの曲をファンの方々に届け続けることも自分の役割だと思ったから」というのもあるんです。自分にとって大切な曲もたくさんあるので、これからもライブや大事な場面などで歌い続けていきたいと思っています。
──実際、あのカバーはファンの皆さんにもかなり喜ばれていましたよね。
鷲尾:皆さんから「E-girlsは私の青春でした」とか「ライブで観たかった」とかってお言葉をたくさんいただいて、すごくうれしかった半面、「やっぱりみんなで最後を迎えたかったな」という悔しさも蘇ってきました。E-girlsの解散はコロナ禍と重なったこともあって、ファンの皆さんに直接ライブでお会いできないまま終わってしまって、それがずっと心残りだったんですよね。でも、今でもそんなふうに言ってくれる人がいて、たくさんみんなに愛してもらっていたグループなんだなって改めて知ることができたので、やってよかったです。
“カッコつけない自分”を表現したかった
──そしてこのたび、移籍第1弾シングルの「正解」が完成しました。かなり期するものの強い制作だったんじゃないかと思います。
鷲尾:やっぱりレーベル移籍の1発目って自分の中ですごく大切で、しかも今回は自分自身が大きなターニングポイントを迎えたタイミングで出すものだし、ここで出せるのってなんだろう? というのはかなり模索しました。その中で、今まではどちらかというとキレイに着飾ったような、カッコつけた表現に身を包むことが好きだったんですね。
──求められるものもそれでしょうしね。
鷲尾:そう、求められてもいたので。だけど独立して1発目だし、今の自分をアピールする意味でも、ありのままのカッコつけない言葉を歌いたいなと思ったんです。無骨でもいい、言葉が強くなっちゃってもいい、今までとちょっと違うなと思われても全然いいから、今の自分が思う「音楽とは?」「人生とは?」「この世の中とは?」を全部詰め込んじゃおうと。
──なるほど。実際、できあがった楽曲を聴いて「かなり思い切ったな」という印象を受けました。
鷲尾:そうですよね(笑)。
──何よりもまず、曲を再生した瞬間に飛び込んでくるのがエイトビートのギターサウンドですからね。まったくこれまでのイメージにはなかった系統の音ですが、そういうオーダーで発注した楽曲なんですか?
鷲尾:いや、候補曲にはいろんなジャンルがあったんですよ。ボカロ系とかアニメ系とか、それこそ今までの鷲尾っぽいバラード曲もあったし……その「鷲尾っぽい」というイメージが確立していること自体、すごくありがたいことだなって思うんです。「この人はこういう曲をやる人」という印象って、すべてのアーティストが持ってもらえるわけじゃないから。だけど、そのイメージはありがたい半面、少しだけ窮屈に思うところもあって。なのでそこに囚われず、今の精一杯を詰め込んだ歌詞にハマるのはこういうサウンドやメロディだろうなと思って、この曲を選びました。
──なるほど。戦略的な判断というよりも、単純にメッセージ性にそぐうものとして。
鷲尾:そうです。メッセージ性を第一に考えての選曲ですね。それに加えて、すでにあるイメージをなくさずに済む範囲内で、新たな一面を提示できるものにもしたくて。いくら新機軸を見せたいからって、いきなりデスボイスで歌いだすわけにもいかないので(笑)。
──軸足はしっかり残しつつ、バスケットボールのピボットみたいにもう片方の足を最大限遠くに置けるものとして、このギターサウンドがふさわしかったと。
鷲尾:そういうことです。届く範囲で一番遠いところに足を置いてみました。
──とはいえ、求められるものと違うものを出すのは勇気のいることですよね。なぜ今回それができたんだと思いますか?
鷲尾:なぜできたか……大人になったから(笑)。
──それこそ独り立ちしたからこそ、というか。
鷲尾:そうですね。もちろん今までも求められる方向性の中で精一杯自分の思い描くものを出せるようにあがいてきましたし、いろんな挑戦を詰め込んできたつもりではあるんですけど、ここまで極端にやれたのは今だからこそかなとは思います。歌の面でも表現の幅が広がってきて、「これまで得意としてきた以外のものも、今の自分なら形にできるはずだ」という確信めいた思いもありましたから。