トゲナシトゲアリ、2部構成ライブで見せた現在の最高地点 日本武道館に夢を繋げたパシフィコ横浜公演
この後半戦では、アニメの演奏シーンを重ねた恒例の演出も見どころとなった。アニメ第1話の挿入歌「空の箱」は、スクリーンに川崎駅前のガラス壁が映し出され、井芹仁菜(理名)と河原木桃香(夕莉)の出会いを再現。まずは夕莉が同曲をギターで弾き語りし、そこに理名、朱李が徐々に加わって行く様子は、まるで出会いからバンド結成までが1曲で表現されたかのようだ。「空白とカタルシス」は、第11話で音楽フェス『BAYCAMP』に出演したときの演奏が再現された。冒頭の朱李による激しいベースソロは、アニメの劇中でルパ(朱李)がリハーサルで弾いたプレイをオマージュしたもの。この日披露された新衣装も、第11話で仁菜たちが着ていた衣装が細部まで再現されており、こうした徹底したこだわりが、ファンを惹きつけている要因の一つだ。
また夕莉はMCで、「人生はどうなるかわからないもの」と結成からを振り返りながら、「二年前までは赤の他人、今はほぼ毎日会っているかけがえのない存在」とメンバーとの出会いについてコメント。それに続いて演奏されたミディアムバラードの「蝶に結いた赤い糸」は、3人がアカペラで美しいハーモニーを聴かせたパートが、3人の関係性を表してるようで、とても印象的だった。
「視界の隅 朽ちる音」は、アニメ第5話で、自分たちの過去を払拭するために「不登校」「脱退」「噓つき」と書かれたTシャツを着て演奏するシーンを再現。毎回「不登校」などの文字が映し出される演出も人気の曲だが、初のホールということで、巨大なスクリーンに「不登校」の文字が映し出されたのは圧巻。軽快なリズムに乗せて、会場はアニメのシーンのごとく盛り上がった。
後半戦終盤は「声なき魚」「運命の華」、そしてTVアニメエンディング主題歌「誰にもなれない私だから」を畳みかけた。理名がテレキャスターをかき鳴らしながら歌った「声なき魚」は、〈うるさいんだよ〉〈ほっといてくれよ〉というコーラスを観客が合唱。「運命の華」は、TVアニメ最終話で、川崎・CLUB CITTA'で演奏された楽曲。ポップさのある楽曲で、会場には観客のクラップが広がり、〈one,tow,three,four〉の掛け声をみんなで叫び、間奏では夕莉が理名と向かい合ってギターソロを弾き、最後に3人が輪になって音を揃えた。そして最後の「誰にもなれない私だから」はアニメ映像をバックに演奏し、3人でお辞儀をして本編を終えた。
アンコールでは、TVアニメ『ガールズバンドクライ』のBlu-ray・DVD第3巻の特典として収録された疾走感あふれる「渇く、憂う」、同5巻に収録の「生きて生きてゆく」を演奏。また特報として、9月23日に日本武道館公演を開催すること、10月に劇場総集編が公開されることなどが発表され、「みんなのおかげです。早く言いたかったけど、やっと言えた!」とメンバー。会場からは惜しみない拍手と「おめでとう」の声。兼ねてからの合い言葉「目指せ武道館!」を会場のみんなと唱和し、武道館決定の喜びを分かち合った。最後に歌った「生きて生きてゆく」は、ステージをスモークが覆い、シンプルなオレンジのライトも相まって、まるで朝焼けのなかで演奏しているような雰囲気。ギターを弾きながら歌う理名のボーカルは、真っ直ぐ前を見据えたような、どことなく落ち着きと力強さを感じさせた。
昨年は韓国と中国でもライブを成功させた他、着実に会場を大きくし、この一年で急激な成長を続けているトゲトゲ。この日のライブもチケット争奪戦となり、急遽一部生配信が行われた。MCではそれにも触れ、「大人たちによく言っておきますから。でも、もっと大きなところでやることになったら、炎とか花火とかやりたい」と展望を語っていた3人。成長という部分では1曲目の「名もなき何もかも」のボーカルについて、理名は「二年前に歌を録った音源と今では声が全然違う」と語っていた。また、ファンはライブハウスとは異なる、ホールならではのやり方で楽しんでおり、人気の拡大に合わせて様々な面で成長を感じることができた一夜だった。トゲトゲの快進撃は2025年もまだまだ止まらない。