連載「lit!」第134回:千葉雄喜、YDIZZY、Montana Joe Carter……深い情感と美意識で踊らせるヒップホップ5作

Montana Joe Carter『CHOSEN ONE』

 一時的な活動休止を経て復活した、西東京拠点のラッパー Montana Joe Carterのニューアルバム。特徴的なしゃがれた声はある種のブルース的な情感をこのアルバムに与えているが、時に精彩なサンプリングトラックやメロウネスが聴こえてくることも、この作品のオリジナルな装いに寄与しているだろう。内省的なトピックが多いことももちろんだが、それ以上に、荒くハードなスタイルとともに言葉やサウンドに対する繊細な感覚を持ち合わせているようにも節々で感じる。ラップ自体の聞き取りやすさも含め、サウンドと言葉が殺し合わない、絶妙なバランスが間口の広さを与えているのかもしれない。全体のザラついた音像の味わいが、魅力的なダーティさを与えている「Neon」のグルーヴ感、歌唱の魅力が溢れる「Way up」の叙情性など、様々な表情を見せる作品の在り方も素晴らしい。一聴してオリジナルでありながらも、多くの人に突き刺さるようなポテンシャルに溢れている。傑作。

Montana Joe Carter - WAY UP - (Prod KLARK a.k.a.KOTA)
Keep your [ Montana Joe Carter ] official music video

Masato Hayashi『MELANISM』

 前作『1』から7カ月ほどでのリリースとなったニューアルバム『MELANISM』は、ソリッドにまとめ上げた前作に比べ、より一層メロディアスな、いわば“歌のアルバム”に仕上がっている。1曲目「From The Inside」から次の「Vibes!」への途切れることない転換から、フックのメロディセンスに優れている「興味がない (feat. MUD)」や「Young Boy」、ハードな「N.I.C.K」まで、アルバムの展開に緩急をつけながら、各楽曲が独自性に溢れ、単調になる瞬間を徹底して排している。例えば「Slow Motion」の透明感溢れるトラックに乗った、Masato Hayashi自身の自由で身軽なフロウの操り方も印象的である。メロディのバリエーションの豊かさと、切実な実存への逡巡を抱えたリリックは、アルバムのテーマ性を明確にし、生々しくリアルな感覚を強める。そして何よりも、歌いたくなるメロディと首を振りたくなるフックやビートに溢れている。一貫した音楽性をベースにしながらも、アルバムごとに異なるカラーを打ち出す彼の作品を今後も楽しみにしたいと思わせるエモーショナルな1枚。

Masato Hayashi - Vibes! [Official Music Video]
Masato Hayashi - Slow Motion (Official Visualizer)

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