『初音ミクシンフォニー2024』で触れた“ボーカロイドと人間”の新しい関係性 巡音ルカ15周年を祝った横浜公演を観て

 10月5日、神奈川・パシフィコ横浜 国立大ホールにて『初音ミクシンフォニー2024』が開催された。2016年から毎年行われているこのイベントは、ピアプロキャラクターズの初音ミクを中心としたボーカロイド楽曲をフルオーケストラで演奏するコンサートである。この年はピアプロキャラクターズの歌唱・映像出演のない4月27日の東京公演から始まり、本公演を経て、12月29日の神戸公演でピリオドを打った。

 会場には、年齢、性別も実に様々な人が集まっていた。なかには長年『初音ミクシンフォニー』に足を運び続けているのだろう、演奏が始まる瞬間を今か今かと待ちわびる人の姿も。演奏を担ったのは、『初音ミクシンフォニー』には欠かせない存在である指揮者・栗田博文、東京フィルハーモニー交響楽団、NHK東京児童合唱団という豪華な顔ぶれだ。そして今回は、初音ミク、鏡音リン・レンに続いて誕生した巡音ルカの15周年のメモリアルの意味も込められている。

『初音ミクシンフォニー2024』(撮影=国府田利光)
『初音ミクシンフォニー2024』(撮影=国府田利光)
『初音ミクシンフォニー2024』(撮影=国府田利光)
『初音ミクシンフォニー2024』
『初音ミクシンフォニー2024』
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『初音ミクシンフォニー2024』
『初音ミクシンフォニー2024』
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 1曲目は、NHK東京児童合唱団と共演した初披露のロックナンバー「ヒバナ(Reloaded)」(2019年/DECO*27)。中央のスクリーンに映し出されたミクとルカが、激しいダンスバトルを繰り広げ、ひとつになった「ワールズエンド・ダンスホール」(2017年/wowaka)から、ルカの成長を彷彿とさせた「ルカルカ★ナイトフィーバー」(2009年/samfree)へ。ルカの柔和な歌声が、管弦楽器とコーラスに包まれ、ホール全体に美しく響き渡るバラードナンバー「メモリ」(2019年/ジミーサムP)まで、ルカラッシュだった。

 ボーカロイド楽曲を知るきっかけは、ひとつとは限らない。原曲、あるいは歌い手からその魅力に触れる人と様々だ。近年、音声/歌声合成ソフトの技術は飛躍的に進歩し、その歌声は、かつての機械っぽさを残しつつも、人間の声と見紛うほど自然なものへと進化した。黎明期、ボーカロイド楽曲を聴いて、どこか違和感を感じた人もいたかもしれないが、技術の進歩によってボーカロイド音楽に対する印象は、昔と今では大きく変わった。常に取り巻く環境が変わっていくなかでも忘れてはいけないのは、起源が、紛れもなくボーカロイドにあること。

 この日の司会は、ミク。前半の歌唱パートも東京公演とは異なり、ピアプロキャラクターズが中心で、スクリーンに映し出された彼らが客席に語りかける。『初音ミクシンフォニー』……この場所では、原点に遡り、いつの時代も、ピアプロキャラクターズがボーカロイド楽曲の中心に存在していることを伝える。主役である彼らを羽ばたかせようと懸命に演奏する奏者の姿が印象的だった。

 初披露となった「脱法ロック」(2016年/Neru)。スクリーンには、りゅうせーが描いたオリジナルMVが映し出され、そのコミカルな映像と、オーケストラの壮大な演奏が、摩訶不思議な光景を生み出していたのも興味深い展開だった。楽曲の世界観に没頭するほどに奏者は大胆になっていく。ボーカロイド楽曲は奏者までも変えてしまう。まさに、ボカロマジックである。

 電子音のイメージの強いボーカロイド楽曲が、ポップスの境地を超え、ヨーロッパ起源のクラシック音楽として昇華されるこの状況。傍から見れば、その構図は、天と地ほどの差があるが、そもそもボーカロイド音楽は黎明期からミクノポップ(テクノポップ)、ボカロックなどが存在していたように、多様なジャンルを内包する、懐の深い音楽であることに立ち返れば、クラシック音楽との融合も決して不可能ではない。今はクラブで流れるドープなビートが効いたEDMが人気だ。自由な土壌で生まれる創造性と世界のハイテクなサウンドを取り入れてきたところに、時代の先駆けとなる音楽が生まれていたのは言うまでもない。MEIKOの18周年記念のEDM「レッドランドマーカー」(2022年/Twinfield)。そのクラシックアレンジも驚くほど自然に溶け込んでいた。

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